JINSEI STORIES

滞仏日記「今年はおせち無しの辻家、しかし、三四郎にだけはおせちを作ってあげたのだ」 Posted on 2024/01/02   

某月某日、息子が、元日に来ない、というので、おせちは無し、の辻家だったが、なんとなく、寂しいので、三四郎用のあせちだけはなんか作ってやろうかな、と思ってキッチンでごそごそやっていたら、ピンポーン、え? だれ? お、息子がやってきた。
「今日、来ないって、言ってたじゃん」
「でも、お正月だからさ」
ほんとは、ちょっと嬉しい、父ちゃんなのだった。
でも、何も用意してない。来ないなら、カップ麺でも食べようと思っていたので・・・。
「じゃあ、パスタでも作るよ。ゆっくりしていきなさい」
その時、日本の知り合いから、能登で地震、というメールが飛び込んできた。
「日本で大きな地震らしい」
やってきた息子は、手を洗い、三四郎をが抱っこし、ソファに腰掛け、携帯で検索しはじめた。三四郎が、息子の頬っぺたを舐めている。
めったにSNSのタイムラインを覗かないぼくだけれど、日本のニュースがこちらではほとんど流れないので、情報はSNSから得るのが早い。
そういう意味で、今日はSNSの必要性を改めて感じた一日であった。(なぜか、在仏だからか、ぼくのエックスは、ツイッターのままなのである。青い鳥がいまだ、携帯の中にいる。だから、ぼくの中ではツイッターのままなのだけど、いいですか?)
息子とタイムラインを眺め、二人で、しばらく言葉を失った。
「これ、大変なことじゃない?」
「うん」
家屋の倒壊や、新幹線の掲示板が激しく動く絵が、タイムラインを流れていった。
しばらく、お互いの携帯を覗きあって、ぼくと息子は日本の状況の把握につとめた。
ぼくのワッツアップ(こちらのラインみたいなもの)に、フランス人の仲間たちから、大丈夫か、という連絡が飛び込んできた。
真っ先に、アドリアンから、「ひとなりさん、日本が心配だ、大丈夫かなァ」と届いた。次々に、届いた。

滞仏日記「今年はおせち無しの辻家、しかし、三四郎にだけはおせちを作ってあげたのだ」

滞仏日記「今年はおせち無しの辻家、しかし、三四郎にだけはおせちを作ってあげたのだ」



息子は、大晦日の夜、友だちのアレックスの家で、新年を祝った。
そこのご両親が不在だったので、小中高と一緒に育った仲間たち(ウイリアム、トマ、アレックス、ユゴー)と集まり、買い物に行って、昨夜は、ごはんを作った、らしい。男ばかり、5人、どこにも行かず、・・・。(実は凱旋門で派手な新年カウントダウンが行われていたらしい。エッフェル塔じゃなかった・・・)
「何、食べたの?」
「スーパーでお肉を買って、焼いて食べただけ」
「楽しかった?」
「みんな、携帯を見て、それぞれ、ゲームをやって、終わった」
「女子いないの?」
うちの息子の同級生は、いわゆる日本のおたくの末裔で、ゲームと漫画ばかり・・・。ガールフレンドがいる子は、息子もふくめて、ゼロ。
「まじで、ガールフレンドいないの?」
「ぼく以外はみんな、エンジニアの学校に通っているから。女性のことを幻と呼んでいる」
「まぼろし」
ぼくらは、小さく、微笑みあった。

滞仏日記「今年はおせち無しの辻家、しかし、三四郎にだけはおせちを作ってあげたのだ」



「で、朝、いつまでも彼らが起きないからさ、パパに新年のあいさつに来た」
「思い出してくれて、ありがとう。でも、うちも何もないんだ。一緒に買い物行くか?」
「やってるの? 元旦にスーパー」
「やっているでしょ、どこか」
「祭日のバイト料は3倍なんだよ。今日だったら、時給30ユーロ」
現実的になっている息子に安心をした。生活感がついてきている。よしよし。
「そういうバイトを探すつもり?」
「平日は大学の勉強があるから、今は勉強をしたいんだ。週末とか祭日だけ仕事に出て、最小限のお金を稼ぐ。勉強もできて、効率がいい。一日中連続して働けない法律があってね、でも、途中で一時間休憩をいれると、最大で12時間くらい働くことができる。30×12だから、考えてみてよ。月4回、日曜日だけびっしり働く、で、月に換算すると?」
「わ、それはすごいね」
「あとは、学生時代はそうやって、パパに迷惑かけないよう、勉強を頑張る」
ぼくは財布を忘れた。息子が、ぼくのカードで払えばいいよ、と言った。
レジに行くと、アメリカ人観光客が、バイト君に、「ハッピーニューイヤーを仏語で言うと何になる?」と訊いていた。
「ボナネーというんですよ」と三倍稼ぐバイト君が教えていた。そのアメリカ人風(アクセントでわかる)のおじさん、笑顔で、ボナニー、と言い残して、去っていった。
「ボナネー、日曜日に、ご苦労さん」
とぼくは青年に声をかけた。
「誰も来ないから、今日は楽でいいんです」
「なるほど」
息子と目が合った。

滞仏日記「今年はおせち無しの辻家、しかし、三四郎にだけはおせちを作ってあげたのだ」



トイレットペーパーとか、ペリエとか、食材を抱えて、帰った。
事務所兼自宅に戻り、パスタをゆでた。
パスタはおいしくできたが、おせちがテーブルにのらない、元日であった。
そのかわり、三四郎のごはんは、おせち風にしてあげたのだった。
「わ、三四郎にはおせちがある。すごい」
「うん。家族だから、正月っぽいことを教えてあげたいじゃない」
ぼくと息子が見守る中、おせちごはん、を頬張るさんちゃんでありました。

滞仏日記「今年はおせち無しの辻家、しかし、三四郎にだけはおせちを作ってあげたのだ」

滞仏日記「今年はおせち無しの辻家、しかし、三四郎にだけはおせちを作ってあげたのだ」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ヤフーニュース、欧州で見ることができないので、BBCとAFP、それからNHK防災ニュースというアプリを入れて、地震のことを追いかけています。余震が続くと思うので、なかなか安心はできませんね。携帯の充電、寝る時は足元の確認、火元の注意など、気を付けてください。

滞仏日記「今年はおせち無しの辻家、しかし、三四郎にだけはおせちを作ってあげたのだ」



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