JINSEI STORIES
滞伊日記「頑張った父ちゃんと三四郎を待ち受けていた美しいローマの休日!」 Posted on 2023/12/28 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ということで、ローマに滞在している父ちゃんと三四郎なのだが、大昔に2,3度来たことがあり、治安が悪い思い出しかなかったが、時が流れ、警察もけっこう出ていて、ずいぶんと安全になっていたのであーる。
ところで、今年、2回、ロンドンに行って、感動した、と語った父ちゃんであったが、ローマはまたぜんぜん違った意味で、ローマはローマ、超感動しているのであった。
まず、不思議なくらい歴史が止まったまま、なのである。
何か60年代に自分がタイムスリップしたような錯覚さえ起きてしまう。
超高層ビルとか見当たらないし、ローマ市内のたぶん、中心部には、古い街並みがそのまま、残されている。
美観を損なわないよう、建造物への規制が入っているのか、あるいは、ローマの人々が歴史を守ろうとしているのか、まるで1960年代の世界にいるようなノスタルジックな都市の外観が維持されているのだった。
昨日も今日も8時間ほど、歩いたが、どこまで行っても、ローマはローマなのである。
「ローマは一日にして成らず」
というので、このような観光滞在では真のローマを語ることができないことはよく理解できておるのだけれど、短い滞在でも、感じることのできる「ローマの休日の過ごし方」を、今回は皆さんと共有したいと思っている。
1, ローマ的な美しさを探す。
2, ローマの食べ物を追求する。(ローマが発祥とされる料理の探求)
3, ローマの絵を描いてみる。(水彩画とか)
以上がローマ旅の目標なのであった。
でも、まず、うっとりしたのが、中心部を流れる「テベレ川」の岸辺からの眺め、いやぁ、セーヌ川のような派手さがない、古代ローマを感じさせる実に深い翠を感じさせる、絵画のような川であった。御覧いただきたい。
毎晩、三四郎と岸辺を歩いている。
セーヌ川は石の壁が低いのに対し、テベレ川は、川の大きさは変わらないとは思うのだけれど、とにかく岸辺の壁(護岸壁?)が数倍高いのである。
なので、人々は岸の道から川面を、ま俯瞰に近い角度で見下ろす格好となる。
昼間の川面は緑色で、夜は、漆喰の鏡のような深さ・・・。
そして、その川面に浮かぶのは船ではなく、よく見ると、家なのだった。
そこに住んでいるのが明らかにわかるものもあるし、浜辺にある海の家のような作りの建物もあり、ローマ在住者じゃないので、詳しくはわからなかったが、どこか中国の田舎(?)に、このような世界があるのじゃないか、と想像させる風景が広がっていたのである。
一時間ほど、眺めていても、あきない、美しい風景であった。
その周辺には観光客は、ほぼいない。
地元住民としかすれ違わないのだけれど、たぶん、地味だからかな、でも、ここをこそ、歩いてほしい、どこまでも岸辺をさまよってみたい、と思わせる、セーヌでもない、ドナウでもない、ガロンヌでもない、ある意味、ローマでしか、出会うことのないテベレ川なのであった。
ローマはその街自体が遺跡なのだ、と歩けばわかるほど、各所に、遺跡とか歴史的な教会、建造物、エンタシスとか・・・、そうそう、バチカンもある。
父ちゃんは霊感が強いので、ちょっと心配をしたが、やはり、最初の夜、昨夜も、霊的なものを感じた。(のちの日記に譲ります)
これは、京都で長年感じたものに似ており、霊というよりも地場のようなもの、歴史の体積のようなもの、の成せるわざなのだろうか。
そもそも、樹木が、ぜんぜん、フランスや北欧や英国とは異なっている。
この、人格を持った木、樹木たちをなんと表せばいいのか、思わず、お辞儀をしている、父ちゃんなのだった。
ともかく、ぼくと三四郎は、ひたすら歩いた。
史跡巡りは嫌いなのに、気が付くと、スペイン広場、トレビの泉、ナボナ広場とか、観光地はほぼほぼ制覇、巡礼していたのだった。
有名な遺跡だらけなので、名もない遺跡には人が集まらないが、父ちゃんは、名もない遺跡一つ一つに呼び止められるので、彼らと時間を超えた会話を楽しんでしまい、三四郎を困らせるのだった。
「さんちゃん、パパしゃん、次の絵のヒントを得たよ」
三四郎が返事をするわけもないが、古都の街角で、三四郎のリードを握りしめ、創作のイメージを掴んだ男は、ふふふ、とほほ笑み、傾斜するようにたたずんで居るのであった。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、ローマといえば、カルボナーラなので、一日、2回はカルボナーラを食べている父ちゃん、が選んだ、ベストオブローマの「カルボナーラ」を、次の日記で、ご紹介いたしますね。さらに、ローマ1のパスタは最後の最後に、厳正な審査をしたうえで、発表したいと思います。(審査員、父ちゃん&サンシー)
まずは、明日、カルボナーラです。