JINSEI STORIES
退屈日記「悲しい夢ばかり見る。きっと現実の自分は不安なんだろう。がんばれ、自分」 Posted on 2023/12/01 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ついに、12月になった。
すでに、スケジュール帖が埋まり始めており、今年も忙しい一年だったが、来年もかなり忙しい一年になりそうな予感。
小説は書けない日々だが、音楽は来年もたくさん話があるし、初個展も迫っているし、盛り上がっていかないとならないのだけれど、個人的には不眠が続いていて、突発性難聴もあって、更年期障害もあるのかなァ、とにかく、夜に見る夢が、悲しすぎるのである。
あやうい、という言葉があるが、父ちゃんは、年齢も年齢だし、危うい日々にいることは夢から判断するに、ありえそうだ。
昨夜は、睡眠誘導剤に頼らず、寝ようとしたが、なかなか寝付けなく、夜中にサロンで、ウイスキーを飲んで、前の日に作ったおいなりさんとみそ汁を(どうやら)食べていた。
どんな夢か、というと、自分が老いることへの不安が如実に出たもので、「欲望と現実のはざま」みたいな、「青春と赤秋のあいだ」みたいな、何か、生きることにもがいているような、あやうい、夢なのだった。
一人の若い女性がいて、どうやら、その人は恋人のようなのだけれど、・・・。
※ 食料品店で買ったいなりの皮、期限がまたまた過ぎていたので、10枚全部、作った。それを二日かけて食べる計画、昨夜、完食してしまった。あやうい。
夢の中では、若い恋人らしき子がいる、でも、その人と付き合うのは三日間限定、という設定なのだ。☜小説家らしい、夢の設定だね。
ちょっと「サヨナライツカ」のような夢なのだけれど、その人は独裁者の大統領のもとに帰らないとならない、ようなのだ。☜この時点で、そうとう、ダサい夢であることがわかる。
不条理な話で、笑、でも、ぼくはもう若くないので、ためらっている。
好きだと言えないし、抱きしめたりもできない。・・・その人が言うのだ。
「私たちの20年後を想像してみて、私たちに子供が生まれたとして、その子が成人するとき、あなたは何歳なの?」
夢の中で、父ちゃんは、ゲッ、と思っているのだった。
その子は若さがはじけるような感じで、ぶりんぶりん、なんだけれど、父ちゃんは怖気づいて、手も出せないでいるのだ。
「情けない」
夢の中で、自分の情けなさに、蒼白な状態なのである。
結局、手が出ない父ちゃんにあきれ果てたその恋人は、独裁者の大統領のところに戻っていくのを早めることになり、三日間の逢瀬は達成されず、初日で別れることになった、という悲惨な結末なのであった。あはは。
駅まで送るよ、とつぶやき、コートを着ているところで、目が覚めた。やだー、こんなハードボイルドな展開は、いやだ。
ベッドに座って、はー、と思わずため息が出た。時計を見ると、7時半であった。
キッチンに行くと、食べあさった「おいなりさん」の残骸とみそ汁の残りが目についた。
三四郎がやってきて、
「ふんふん」
というので、
「わかったわかった。散歩に行こう」
と父ちゃんは、父ちゃんを見上げる愛犬にむけて、言うのだった。
※ パリのスーパーはどこも、クリスマス食材が展開しはじめた。12月になると、フォアグラとか、いくらとか、キャビアとか、高級食材が陳列されるパリーなのである。
こういう悲しい夢を毎晩見ているのである。どう、思います?
人間という生き物は、寝るために、かなりの体力がいるのだ。
ご飯を食べるのにも、体力が必要だ。
生きるためにも体力がいる。
つまり、必要なのは、体力!
こんなことで、負けてはならない。
今朝、キッチンで、思ったのは、そのことであった。
身体をもっと動かして、くたくたになって、落ちるように寝たらいいのだ、という結論である。独裁者に負けない、父ちゃんでいたい、と思った、師走の初日なのだった。ひゃあ。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
仕事や創作は順調なんですけれどね、心の中の自分は「あやうい」ということが夢からよくわかりますね。皆さんは、どういう夢を見ていますか?現実は元気なのに、寝ている間が苦しい父ちゃんですが、いい夢を見られるように、今日を切に生きたいと思います。