PANORAMA STORIES
Friday Saturday Posted on 2017/02/24 岩崎 淳 写真家 ニュージーランド・オークランド
5時半に起きた。
これから、週に数日だけ働いているオーガニックグローサリーのオープニングの仕事がある。
朝には、東向きの窓からたっぷりと心地よい海風と朝日が差し込む。
庭に出て朝日を浴びるのが僕の日課だ。
眠気に負けそうになる朝の仕事中、友人のフェリックスがお店にきた。
いつもこうやって何をするでもなくふらっと寄ってくれる。
ニューイヤーを一緒に過ごしてから、久しく会っていなかったので、近況報告。
今年は、出版のプロジェクトを進めたいのだという。 紙媒体を避け、ネットで活動する人が多いなか、僕たちはそれらに飽きや虚無感のようなものを感じ始めており、意気投合している。
僕が貸したComme des Garconsが以前発行していた雑誌『Six(Sixth Sense)』からかなりインスパイアされたらしく、ランダムな記号的な意味を持つ写真たちの話をする。マックやシュタイデルの本の作り方の話も。
じゃあ仕事に戻るよ、と帰っていった。
彼はいつも不意にやってくる。近づくわけでもなく遠くへ行くわけでもない。
群れるわけでもなく、だけれど、それほど一匹狼でもない。
昼過ぎまで働き、家に帰ってくる。
今日は天気がめちゃくちゃいいので、歩いて5分のところにあるセンティネル・ビーチへ行く。
今日の満潮は15時だというのでビーチは結構な人だ。
まあそれでもバカンス中の南仏のビーチに比べると明らかに少ないけれど。
僕は、ビーチでゆっくりすることが苦手だ。
みんなに自分の情けない丸い猫背を見られているような気もするし、じっとするのが苦手な性格もあるのだろう。
今日は少しくらいと思い、太陽を浴びて体をあたためていた。
「Hey Brother!」
友人のブロディーだ。
彼は、ウェストミアでカフェをしていて、実は既に3つのカフェを経営し、7歳の子供がいる26歳。
「仕事終わりにダイブしに来たんだ、リフレッシュには海にダイブするのが一番だよね」と、彼はいう。
それならと、ビーチでウダウダとビールを飲みながら話をしたり読書するかわいい女の子たちを横目に、サクッと数回ダイブ、そして帰路へ。
19時頃から夕食でも食らおうか、何を作ろうかなと考えていると、フェリックスから電話。
「今何してる? もし暇だったらRSA行こう」とのこと。1つ返事で了承。
愛車のシトロエンは、12万キロほど走っているけれど、ブレーキパッドの鳴り以外は今のところ調子がいい。
白いアルファ・ロメオを駐車場で見つける。彼はお酒を飲み続け、僕は飲めないのでジンジャービアとオレンジジュースを交互に飲み、二人で黙々とビリヤード。
一息つこうと、RSA内にあるジミーズ・キッチンでフィッシュ&チップスを食らう。
「ジミーのフィッシュ&チップスは街で一番だよ、昔お店を経営していたくらいだよ」もう10回は聞いた。
老人たちの溜まり場RSAに僕たちのような若い二人がビリヤードしにくるのを誰も奇妙とは思っていない。
そうしていると、サムからテキストがきた。ccにはフェリックスの名前もある。
「Hey Guys! how is it going? DJing tonight at Whammy Bar. come over and have fun!」
白いアルファを夜の街の中で追う。
夜のK road(カランガハペ・ロード)は車停め放題だから、そこに車を停めた。
フェリックスは踊らないみたいで、僕の奇妙なダンスを見て笑っていた。
そんな奇妙なダンスを踊っていると女の子に声をかけられた。まだ19歳の女の子で名前をアンナという。
「ダンスがクレイジーで、最高」って。
「仕事は何しているの」
「写真家だよ」と。
「どこかで写真見れる? 次の仕事は何?」
「今は、VICEの依頼でいくつか撮影してるからWebで見れるよ、それから次の仕事は、来週のLaneway Festival の撮影」
連絡先を聞かれた。
携帯に打ち込んでもらおうとすると、iPhoneは彼女の手から滑り落ち、アルコールで濡れた床に落ちた。
拾ったのだけれど、それでもまた滑り落ちる。また床から拾う。
警察が入ってきて見回りを始める。それでもみんな気にせず踊り続ける。
僕のiPhoneは誰かに蹴られた。
彼女は、男の子の友人たちと一緒に帰っていった。
僕はフェリックスを探そうと・・・
仕事中に寝てしまっていたようである。
心地良い風のある金曜日の昼下がりはお客様もほとんど来ないので、レジに立ちながら眠りに落ちてしまうこともある。僕は、オークランドで彼らと遊んでいると「まるで音楽みたいだ」と感じるのだ。
心地よさと高揚感、少しの刺激。
*RSA=Return Soldier Association
Posted by 岩崎 淳
岩崎 淳
▷記事一覧Jun Iwasaki
写真家。国内外のメディアへの寄稿やビジュアルデザインを中心に活動。淡々としたドラマのない、ものとものの間を撮るような、瞬間と瞬間を埋めるような写真を好む。オークランド在住。