JINSEI STORIES
退屈日記「誕生日に思うこと」 Posted on 2023/10/04 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、この世に生まれたことを思い出す。
その日、親がぼくの誕生を喜んでくれたのだろうな、と想像する。
仁成という名前はその少し前に、親が二人で話し合って決めたに違いない。
その名前をぼくは持ってずっと生きてきたし、これからも、持って生きていく。
何も知らなかったぼくは少しずつ学んで、人間になっていった。
たぶん、母親が作った美味しいご飯を食べて、美味しいと思ったはずだ。
それからずっと母親が作るご飯を食べ続けて、成長することになった。
どこからか弟がやってきて、ぼくの家族は四人になった。
学校に行くようになり、同じ世代の子たちと出会って、いろいろとあった。
誰かと出会うことの中で様々な学びを頂いていることを思い出した。
喧嘩したり、笑ったり、泣いたり、苦しんだり、感動したことを思い出した。
その頃、ぼくはぼくという存在が何でこうしてここに或るのか、考えたりした。
何か意味があるのだろうかと、グランドの中心で、ぽつんと思ったこともあった。
風や、雨や、嵐や、晴天や、夕陽や、朝陽や、地球の中にぼくはいた。
友だちに殴られて帰ると、母さんが笑って、美味しいハンバーグを作ってくれた、
仁成、美味しいか、と言われたので、うん、と返事をしたら、嬉しくなった。
ぼくは成長と共に、たくさんの苦しみや悩みと出会っていった。
その都度、考えていた。なんでぼくは生きているのだろう。
でも、どんなに考えてもそれらしい答えはでなかった。
それは大人になっても、わからなかった。
人を好きになったり、人が去って行ったり、また出会ったりした。
暫くしてから、泣いたこともあった。
起き上がれない時にはすぐに起き上がらず、暫く、倒れていることにした。
でも、不思議なことに、どんな時にもぼくはまた立ち上がった。
がむしゃらだったし、ある時期は投げやりだったが、常に前を見るよう心掛けた。
そういう時には、お米を研いで、料理をして、母さんの味を思い出した。
そのうち、美味しいことが毎日を支えていることに気づくようになった。
今日は何を食べてやろうと思うと、毎日が、ちょっと前進した。
長い年月があり、行ったり来たりがあり、苦難も幸福も再会も離別も経験した。
しかし、日々を丁寧に生きているだろうか、と時に自問した。
その時、なぜだかわからないが、感謝の念、がまず、真っ先に生まれるのだった。
ここでうじうじするより、先に行く方が、自分らしい、と思うようになった。
いつも、自分が幸せになる方向へ向かって歩くことにした。
それが時々、失敗をしても、その失敗はいい経験になると思うようになった。
子供を育てている時には、親の役目だけに集中しようと誓った。
仕事第一主義者だった自分をやめ、子育てと向き合うことが大事だと気付いた。
10年ほど、この生活が続いているが、過去はあまりもう、振り返られない。
でも、一年に一度、生まれた日がやってくる。
この日だけ、ちょっと人生を振り返ったりしている。そういう日。
いいこともあったし、そうではなかった時期もあったっけ、と思い出す。
でも、よくがんばったね、と自分を褒めたら、再び前を向く。
その前がどこに繋がっているのか、わかっている。
良く生きた時に、やっと出会える幸せがあるはずだ。
一生を精一杯生きて、最後、自分だけが達成できるその日を楽しみにしている。
ありがとう、を忘れず、今日という日に、感謝をしながら・・・。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
今の父ちゃんはロンドンのライブに集中しています。それがぼくの今の前進へと繋がっています。一つ一つ、人生に目標を持ち、最大限の自分をそこで発揮し、また、その先へと向かうのです。今回もロンドンでたくさんの方々に出会いました。凄く真剣にぼくの将来をポールは考えてくれています。ありがたいことですよね?
ということで、父ちゃんロンドンライブのチケット購入サイトはこちらのURLからお入りください。
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