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滞仏日記「終活本を出版させてください、との依頼を受け、不意に鬱っぽくなったぼく」 Posted on 2023/09/30 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は朝から調子が悪かった。
体調というよりも、鬱っぽい感じ? またいつもの主夫鬱なのかなぁ~。独身男天使病、と命名しておるのじゃ。
三四郎の朝散歩はちゃんとできたのだけれど、サンシーの足をお風呂場で洗ったあと、ふらっと眩暈がし、そのままベッドに倒れこんでしまったかよわき父ちゃん・・・。
いろいろ頭の回転も悪いし、身体のキレもよくなく、ぐったりした。
ロンドンライブまでひと月切っているのに、いろいろと大変だったからね、とにかく、今は灰色なのだ。
そういう日もある、と自分に言い聞かせ、最上階にある作業場(通称、アトリエ)にのぼり、窓を全開にして、カンバスと向かい合った。
でも、絵を描くのが目的じゃなく、ドアを少しあけて、風通しをよくし、そこから見える空をぼんやりと眺めていた。
そこにも横になることが出来る小さなベッドがあって、(ソファベッド)、・・・寝転んでじっとしていた。 ☜三四郎は? 
子育ても終わり、三四郎はいるけれど、これからどうしたものかな、と悩んでいるのかもしれない。
光文社のHさんから、「終活」の本を書いてみませんか、と昨日、連絡があった。
そういう年齢なんだ、と思って、実はちょっと落ち込んでしまった。
そもそも、終活って、なに?
webによると、「自分の人生に向き合える前向きな活動で、残された家族や周囲に迷惑をかけないように生前に自分の終末期に関する問題や望みを整理すること」とあった。前向きな活動なんだね、終活って・・・、あはは。
その横に、終活ノート、という欄があった。
聞いたことはあったが、よく知らなかったので、覗いてみたら、「人生の最後に備え、自分の希望や想いをかき記すノート」のことらしい。
エンディングノートともいうのだそうだ。エンディングノートね、響きは最高だけれど、やだねぇ・・・。
遺言とは違い、法的な拘束はない、らしい。葬儀のこと、相続、終末医療のこと、残された家族に伝えたいメッセージなどをまとめることが出来るのだとか、その書き方のYouTube動画のリンクもあったが、さすがに、鬱っているので、押せなかった。
なんで、Hさんはぼくに「終活」の本なんてものを依頼してきたのだろう?
もう、ぼくは終わり、ということ? ゲッ、

滞仏日記「終活本を出版させてください、との依頼を受け、不意に鬱っぽくなったぼく」

※ この男に忍び寄る、終活の足音、パダン、パダン、パダン・・・。



ぼくはそもそも、葬儀なんて、必要ない、と息子に言い続けてきた。
火葬したら、骨は、合法的に海にまいてほしい、と頼んだ。
墓は絶対に必要ない。地面の下に埋めないでくれ、と頼んである。
それから、もし、勝手に墓とか作ったとしても、墓参りだけは来るな、と伝えてある。
ぼくは輪廻転生をしないし、どこか一か所に居座る人生を選ばないので、常にノマドであったわけだから、悪いが墓参りとかだけはぼくの主義に反するので、絶対にするな、来るな、と言っておいた。
だから、海に、骨を(一部でも)巻いてくれたら、寂しくなれば海に来い、ということなのだ、と伝えた。
わかった、と我が息子は言っている。
事務所のスタッフにも、弟にも、友人にも、ことあるごとに言っている。
「お墓は嫌いなんだよ。マジで、想像してくれ。辻仁成が土の中でナンマニダはないだろうが???」
みんな、そこで、必ず、大笑いする。ないね、と野本は同意していた。
世界各地を旅し続けるぼくという人間を、暗い穴の中にいれるのは死後拷問のようなものだ、と力説した。
死後の拷問か、それはかわいそうだ、と息子は理解している。
でも、彼がひよって、自分が寂しいものだから、フランスのどこかに墓を購入する可能性もないわけじゃないので、そこは、命令に切り替えた。
いいか、唯一の命令だ。ぼくが死んだら、自由にしてくれ、と。
それがぼくの死後への想いだ。
でも、これは建前で、実際は、違ったことを想っている。

滞仏日記「終活本を出版させてください、との依頼を受け、不意に鬱っぽくなったぼく」

※ 終活なんかぶっとばせ。一風堂のラーメンを食べきった終活男。完食できるパワーがあるのだ。

滞仏日記「終活本を出版させてください、との依頼を受け、不意に鬱っぽくなったぼく」



そもそも、ぼくは死なない。
何度も書いてきたことだけれど、死というのは人間と人間のあいだに存在するものなのだ。
たとえば、ぼくと息子の間には、「ぼくの死」が存在する。
だから、人は「墓」を作る。生き残った人のためのもの。もしくは天国を信じている人たちのものでしかない。
しかし、ぼくひとりの人生に「死」はない。
なぜなら、死んだ後の自分を自分が見ることが出来ないからである。変な日本語だが、そういうこと・・・。
人間は、生存中に、誰かの死を目撃するがため、人は死ぬという概念を持つ。
自分がその中心にあるならば、死は出口ではなくなる。それを認めることが出来ないから、という理由で・・・。
つまり、死はない。永遠に生きることになる。
じゃあ、なぜ、終活の話をしているのか、と言うと、息子を安心させるためだ。死は、人と人の間にこそ存在するものだからである。
ともかく、「終活」に関心がないのだ。書籍化なんて、とんでもない。もってのほか・・・笑。
なので、Hさんに、「ぼくはね、まだ死なないし、ぜんぜん老いる気がないので、終活の本は無理ですね」と今朝、メールを送り返しておいた。
「そうですよね」
というメールが先ほど、届いた。
これでいいのだ。

滞仏日記「終活本を出版させてください、との依頼を受け、不意に鬱っぽくなったぼく」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ロンドン、ケンブリッジ劇場のチケットをご購入の皆さん、一人一人に払い戻しのメールが届いていると思います。その最後に、日本語でメッセージが詳細にかかれてあります。その一番最後に付されたメアドはポールさんの事務所の日本語対応セクションですので、わからないことがあったら、日本語でメールしてみてください。
ということで、新しい会場の情報、チケットの購入方法などは日曜深夜に配信する日記で詳しくお知らせいたします。
良い週末をお過ごしください。今日は三四郎とくっついてソファで寝ようかな、と思っている寂しん坊の父ちゃんでした。禁酒中ですけど、ワイン、ちょっとだけ呑んじゃおうかなぁ。えへへ。
さて、父ちゃんからのお知らせお知らせ~。
毎週、生放送ラジオやっています。ラジオ・ツジビル。ご視聴されたい皆さまは、オンライン村へ、どうぞ!!!

↓こちらURLになります
https://www.tsujiville.com

父ちゃんが朗読する自著、「ミラクル」
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https://www.audible.co.jp/pd/ミラクル-オーディオブック/B0CD34GYVG

そして、一時間に及ぶ、終活男の、貴重なライブ映像!!!!

自分流×帝京大学