JINSEI STORIES
滞英日記「偉大な画伯たちのサインを研究するために、ロンドンナショナルギャラリーへ行った」 Posted on 2023/09/26 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、美術館に行った。
ロンドンの美術館、入館料がタダなのである。おお、これは、凄いことだ。
寄付とかで賄っている、と友人が教えてくれた。なるほど。
今日、父ちゃんが行った美術館には、ゴッホとか、ルノアールとか、マチスとか、ピカソとか、名だたる画伯の作品が、ずらりと飾られてあったのだった。
父ちゃんは、あまり、人が描いたものに興味がないので、笑、(自己中人間なのだ)、滅多に美術館には行かない派なのだが、さすがに、ロンドン・ナショナル・ギャラリーは勉強になった。
17世紀とか、18世紀にも油絵具があって、こんなに美しく発色し続けているのだ、いまだに、という感動を最初に持つことが出来た。
時を超えた絵画の衰えない色彩の新鮮さに、見入ってしまった。
そして、もうひとつ、勉強になったのが、画家のサインである。
来年、二月に伊勢丹アートギャラリーで個展を控えている身なので、偉大な画伯たちがどういうサインをしていたのか、がまず、一番気になった。☜そこ???
あはは。そこで、あーる。
ピカソのサインは有名なので知っていたが、他の画家のサインは知らなかった。
ゴッホは、ゴッホではなく、ビンセントと描かれてあった。しかも、絵の中心からやや下に・・・。笑。
クロード・モネは、フルネームだった。人それぞれなのであーる。
今回は、絵ではなく、サインばかり見て回った父ちゃんであった。あはは。
父ちゃんも自分が描いた作品にサインをいれるが、ある事情があって、父ちゃんの油絵は、どの作品も、まず、絵具をカンバスに落としてから、1時間以内にサインをする。
理由は、パレットナイフしか使わないので、サインは油絵具が乾く前にいれないとならないのだった。あはは。
だから構図が決まる前に(下書きとかもないので)、いきなり、サイン!!!
でも、それが実に楽しいのであーる。
定礎に似ている。意味わからんかな。わかんねーだろうなぁ。
ええと、古代ギリシャとか古代ローマでは建物の基準となる石に、着工時に祈りを込めて印を彫り込んでいたのだ。
これが、定礎の起源なのだけれど、ぼくは自分が生み出す作品の最初に、まず、定礎サインをするのであった。
ますます、意味がわからんでしょ? すいません。
しかし、それがスタイルなので、許してください。
伊勢丹アートギャラリーに展示する40点ほどの作品はすべて、定礎サイン。
サインから始まる、という、奇妙な絵ばかりなのであーる。
今回は、自分が個展をやるので、巨匠たちの絵とは比較にはならないが、サインの仕方とか、照明の当て方とか、絵を見に来た方々の絵との向かい合い方とか、そういうところをいろいろと学ばせて頂いたのであった。勉強になりました。
途中で疲れて、椅子で休んでいたら、寝落ちしてしまい、守衛さんに起こされた、父ちゃん・・・。
「もしもし、あなた。ご気分が悪いのですか?」
その後、出口を探しながら、ツジビルのボイス・オブ・ツジビルという生配信(音だけのメッセージ)装置のボタンを押し、5分間だけ、美術館の音を楽しんでもらったのであった。
ぼくは美術館に飾られてる巨匠の作品よりも、美術館に集う人たちや、そこの空気感や、音が好きなのである。
ブライアン・イーノの「ミュージック・フォー・エアポート」というアルバムが特に好きで、これはある種の環境音なのだけれど、空港フェチの父ちゃんにとっては、偉大なクラシックアルバムと言える。(クラシックじゃないけれど、ある種の昔のシンセ音楽なのかな。サティに負けないほど、お気に入り)
ロンドンの美術館から、ツジビルアプリに、いきなり美術館の静寂を生配信するという試みは、実にアートであった。
「すいません。出口はどちらですか?」
と父ちゃんが途中で守衛さんに聞いた。その声は世界各地の携帯に、届けられたかもしれない。
アートとは何か?
皆さん、楽しんでください。
※ あはは。だーれだ?
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
美術館、無料なのだけれど、帰りにショップに立ち寄り、水彩絵の具とか、スケッチブックとか、1万円分の画材を買った父ちゃんなのでした。いい刺激、ありがとう。テート美術館にも行きたいけれど、今回は、時間がないかもしれません。
さて、そんな美術人間の父ちゃんからのお知らせです。
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