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退屈日記「日本の未来は思う壺、ぼくらの明日は蛸壺?次代を担うアンカーマン現る」 Posted on 2023/09/17 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、日本の未来は若い人たちの手にゆだねられている。
その若者にもっと多くのチャンスと、発表の場を与えたいと思いつき、父ちゃんは7年前に第一回新世代賞を自費で創設した。
山あり谷ありであったが、それがことし、七年目を迎えた。
もっとも、いい年齢のぼくがいつまでもノサバっていては本当の意味での新世代賞にはならないということで、創設者ではあるが、第五回目より一後見人に引き下がり、現在は、高校生、大学生、若い社会人の方々が主催者になられ、運営をされている。
その審査会が16日、ZOOMで行われた。

退屈日記「日本の未来は思う壺、ぼくらの明日は蛸壺?次代を担うアンカーマン現る」



高校生、大学生の実行委員会があの手の子てで探した4名のたいへん優秀なクリエーター(審査委員長のしんのすけさん、インサインの遠藤歩さん、藤ちょこさん、宗大介さん)が審査にあたり、これが、こんなにしっかりされているのだ、とめっちゃ感心するくらい、理知的で、真面目で、一生懸命で、真剣に審査に向かわれ、ぼくを安堵させたのであった。
そればかりか、司会をやった高校生のレインボー君、外国からやってきたサイモン君、そして、実行委員長のももちゃん、松田さん、そのほか大勢の学生実行委員たちがこれまた素晴らしかったのであーる。
「ひゃあ、緊張してきた」
と本番直前、レインボー君が言った一言にこの会の初々しさが滲みだしていた。

退屈日記「日本の未来は思う壺、ぼくらの明日は蛸壺?次代を担うアンカーマン現る」



しかし、ふたを開けると、実に面白かった!!!
かくして、広告代理店が取り仕切るようなプロの審査会からはかけ離れた、しょっちゅう立ち止まることの多い、超初々しい審査会がスタートすることになった。
審査委員長のしんのすけさんが途中から進行をつとめ、他の委員の方々が実に明快に意見を繰り出し、下は5歳から上は25歳による応募作品の審査を行った。
聞いていて、微笑みが誘われる審査会で、凄いじゃん、今の若者、自己主張せず、他者の意見をリスペクトしながら、ちゃんと自己主張もし、最優秀賞をみんなで選び出していくのだから・・・。
かくして、審査員の人選が成功したことで、第七回新世代賞も見事、ゴールすることが出来たのだった。
「或る夜」という写真作品が最優秀賞を受賞した。(橋にかかる大橋のたもとに狸の足跡があり、そこにマッチサイズの街灯を灯し、人間界とは隔絶された場所に、人間界とは無縁なもう一つの生き物たちの日常があることを一枚の写真で描いているのだが、大胆でち密で構成力は素晴らしく・・・。やられた!!!)
これらの受賞作品は小田急電鉄のサイネージなどで展示されることになる。
小田急線の応援も欠かせないが、彼らは大人なので、一切でしゃばることがないし、表に出てこなかった。おしゃべりなぼくも珍しく、審査中は、口を挟まないことにした。
審査員全員、自分の意見をしっかりと持っているだけではなく、人を押しのけることもなく、清々しく投票に挑んでいた。
今回の主題「人新世」は実行委員長のももちゃんが決めた。
人新世とは、人類が地球の地質や生態系に与えた影響に注目して提案されている地質時代における現代を含む区分のこと。人新世の特徴は、地球温暖化などの気候変動、大量絶滅による生物多様性の喪失、人工物質の増大、化石燃料の燃焼や核実験による堆積物の変化などがあり、人類の活動が原因とされる。
今回の応募の中に、5歳の子供が、海に漂着したプラスティックで作った「しらないふり」をもじった名を持つ謎の魚の模型を拵え、提出した。彼らは新世代というより、新・新世代というのにふさわしい新しい創造者なのであった。
13歳の子が書いた世界へのまなざしを描いた油絵がぼくの目には焼き付いた。
地球の不安要因から避けて通れないこの問題を、アートを通して定義したこの「新世代賞」参加者たちの頼もしいに想像力に、まだ未来はなんとかなる、という希望を貰うことが出来た。
審査員諸氏、実行委員会の全員、そして、応募者の皆さんに、厳しい今の時代を乗り越えようとする希望を読み解くことが出来た。
いろいろと賞が出たが、実行委員の皆さんに、「辻仁成頑張ったで賞」を授与させて頂きたい。おめでとうございました。

退屈日記「日本の未来は思う壺、ぼくらの明日は蛸壺?次代を担うアンカーマン現る」



つづく。

熱血~。今日も読んでくれてありがとうございます。
いやぁ、素晴らしい審査会で、感動しまくりでした。ぼくの孫でもおかしくない子たちが、必死で未来を考えている姿、大人としてはじっとしていられませんでした。第8回へと続けていきたいと思います!!!

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