PANORAMA STORIES
「シンプル イズ ビューティフル」おいしいパンとプロヴァンス料理 Posted on 2021/09/07 町田 陽子 シャンブルドット経営 南仏・プロヴァンス
プロヴァンスにある水車とアンティークの町、リル・シュル・ラ・ソルグは小さな田舎町。
毎週日曜にはアンティーク市が立ち、アンティーク好きな人にとっては何度でも訪れたい町の一つだろう。
旧市街を散策し、アンティーク市を楽しみ、ランチをゆっくりいただく。自然豊かなこの町を訪れる観光客は多く、週末はとくに賑わっている。
移動手段は電車かバス。ただ本数が少ないので、乗り遅れないように事前に時刻表のチェックは忘れずに。
南仏に暮らしていると、日常生活の中で日々感動することが多い。
それは、はじめて食べた料理に込められた長い歴史を知った時とか、そこに暮らす人々の生き方だったり、歴史を越えた命の営みが心地よく私に語りかけてくる。
私が暮らすリル・シュル・ラ・ソルグというプロヴァンスの町は、中心部の旧市街を出れば、畑や果樹園がえんえんと続き、いたるところに小川が流れるド田舎だ。
田舎の良さにはいろいろあるが、町の中に「職人」と呼べる人たちが未だ健在している、という点は大きい。
ショコラティエは、友だちの養蜂家からゆずってもらうラベンダーのハチミツでスペシャリテのショコラをこしらえ、小洒落た花屋には、村のバラ農園から週に一度切りたての芳しいバラの束が届けられる。
この町のマルシェでは、最高品質のエキストラバージンオリーブオイルに限らず、ヒマワリのエキストラバージンオイルだって手に入るのだ。
私が 毎日通うブーランジェリーがある。
昔ながらの巨大な窯で薪を燃やし、パンを焼いているお店。カンパーニュ、全粒粉、ライ麦、フーガス・・・。
店先には昔風の伝統的なパンが並ぶ。
ご主人のピエールさんは、毎朝4時からパンの準備に取りかかり、朝の6時に店を開け、昼の1時に店を閉める。23年前から、定休日の月曜日以外は毎日その繰り返し。休日でさえ、午後は店に来て窯の火を維持し、翌日のパンの生地を仕込んでいる。火加減は長年の勘だけが頼りだ。
休暇は、年に一度、1週間だけ。しかも、最後の2日は、店を開ける前準備をしなくてはいけない。
一度火を落として冷めた窯を温めるのに、2日間かかるというのである。
今や、業者やセントラルキッチンから届く冷凍パンを、タイマー付きのオーブンで焼くだけというパン屋だって少なくない・・・。
どんな情熱が、彼にこんな労力を強いるのだろう?
1ヶ月に5トンも使うという薪だって、今や電気よりも高額な贅沢品になりつつあるというのに。
しかし、パンの値段は他の店と変わらない。いったい、そのモチベーションはどこから来るの?
「パンは薪で焼くのが一番おいしいから。」
彼は答えた。
え、それだけ? 目をパチクリする私を、彼のほうが不思議そうに見ている。
そうだ。彼の使命は ”おいしいパンを焼くこと” それ以上の理由など、必要ない。
「シンプル イズ ビューティフル」
人生も同じ。私たちは、たぶん、ものごとを複雑に考えすぎているのかもしれない。本当のクオリティ・オブ・ライフは、きっと、とてもシンプルなものなのだから。
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今回は、相棒ダヴィッドのプロヴァンス料理をひとつ、ご紹介しよう。
プロヴァンス野菜をハーブといっしょに重ね焼きする「ティアン・ド・レギューム」。
「ティアン」とは、プロヴァンス地方の素焼きの容器のことで、一般的にグラタン料理のことをそう呼んでいる。
ピエールのパンにもよく合う、シンプルな野菜料理だ。
表面はカリッ、中はジューシー。シンプルなだけに、焼き加減がものをいう。
<材料>2〜3人分
トマト 大2個
ナス 大2本
ズッキーニ 大2本
ニンニク 4かけ
オリーブオイル 大さじ6
ローズマリーとタイム(どちらかでも)ひと束、ロリエの葉を数枚
(生がなければ、乾燥のプロヴァンスハーブで代用)
溶けるチーズ 適量
パン粉 適量
塩、白コショウ 適量
①ナス、トマト、ズッキーニを3〜5ミリ程度の厚さにスライスする。
②ボールにみじん切りにしたニンニクを入れ、塩、コショウ、オリーブオイルを加えて混ぜる。
③耐熱容器の内側に、オリーブオイルを塗る。
④❸の中にナス、トマト、ズッキーニの順番できれいに並べ、真ん中にハーブを入れる。乾燥ハーブなら、上からふりかける。
⑤❹の上に❷をスプーンでまんべんなくかけ、溶けるチーズ、パン粉をのせる。
⑥180度に熱しておいたオーブンで、30〜40分焼く(オーブンや容器のタイプによって焼き時間は異なるので、様子をみながら調整)
Posted by 町田 陽子
町田 陽子
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シャンブルドット(フランス版B&B)ヴィラ・モンローズ Villa Montrose を営みながら執筆を行う。ショップサイトvillamontrose.shopではフランスの古き良きもの、安心・安全な環境にやさしいものを提案・販売している。阪急百貨店の「フランスフェア」のコーディネイトをパートナーのダヴィッドと担当。著書に『ゆでたまごを作れなくても幸せなフランス人』『南フランスの休日プロヴァンスへ』