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退屈日記「これからの日本について、日本はダメじゃない。その可能性について」 Posted on 2023/08/20 辻 仁成 作家 パリ

在仏20年になる父ちゃんだが、20年前、パリの空港からパリ市内に入る高速道路の左右はすべて日本企業の巨大看板で埋め尽くされていた。
まさに、シャルルドゴール空港からパリへの道はジャパニーズゴールデンゲートだった。
実際、日本は世界一と自負するほどの経済大国であった。
その日本経済の求心力が低下しはじめ、逆に、中国や韓国企業の看板が目立ちはじめ、今、日本の会社の看板と言えば「ダスキン」くらいしかしかないのだ。マジで。
それに急速な円安、日本にいると気づかないが、日本の円ではまともに買い物が出来ない状態が続いている。父ちゃんは外貨を稼がないとならなくなった。
じゃあ、もう日本に未来はないのか、ということをぼくはずっと考えてきた。
トヨタなどの大手自動車会社はまだ力があるが、将来的にも、そういう日本の基幹産業がトップでいられるかどうか、微妙な感じを受ける。
デザイン力、将来を見通す力、とくに政府の支援の仕方も含め、日本は長期的な戦略において、ここのところ元気のいい国々と比較すると、ちょっと弱い。
西側という古い幻想はもうない。BRICSのようなものがどんどんこのバランスを崩して来るだろう。もの凄い勢いで。ドルなんて、もしかすると・・・。
世界一と胡坐をかいていた間にぐんぐん抜かれているのは間違いない。
そもそも資源がない。ロシアがあれだけの戦争をやっても、まだ、大国でいられるのは、十分な資源を握っているからである。
でも、しかし、今回の日本滞在で、日本没落か、と思って心配してきたこの20年の考え方にちょっと変化が出はじめた。日本にはもの凄い資源があるじゃないか!

退屈日記「これからの日本について、日本はダメじゃない。その可能性について」



その資源というのは、日本人そのもの、なのである。
笑われるかもしれないが、やっぱり、日本人は、他の国の人々とはくらべものにならないほどの真面目さ、勤勉さが国民の根底にあるということだ。
これは世界で暮らせばよくわかる。凄いことなのだ。
ぼくは20年フランスで暮らしたし、アメリカでも暮らしたことがあるので、ちょっとはわかる。
驚くべき斬新さはないのだけれど、国民全体が一つの力になっている。
なので、来日する度に、その底力、安定感に、驚かされる。
とくに今回は、空港から、タクシーから、街並みから、あらゆることに、目を見張った。もはや、父ちゃんの目は外国人の目なのであーる。ぎろぎろ。
異論はあるだろう。
個性は強くないかもしれない、向こう見ずなエネルギーも弱いかもしれない。
ワーカホリックな国民性、政府がそれを利用している、など、不安材料はそれなりにある。
でも、責任感や、目的に向かう力、集中力はやっぱりすごい。問題は、ジョブスとか、ほら、いろいろといるような経営者、ああいう発想を持ったリーダーになる存在が、かなり薄いということだ。
若い起業家の人たちはメディアで立派なことをおっしゃっているが、世界規模じゃないし、現実の大樹を見てない。そこが、今、急激に成長している新興国の起業家たちと違う点なのである。
これは、政府のやり方に、大きな問題があって、外から見ていると、残念でならない。
ビジョンが「今」を基準にしているので、5年後、10年後が全く見えない投資ばかりがなされ、うだつの上がらない「金貸し」という印象で、しかもメッキがはげかけている。

退屈日記「これからの日本について、日本はダメじゃない。その可能性について」



ただ、島国で、他国と繋がっていないので、その利点は、可能性を秘めている。
ぼくにはたくさんの日本復活へのアイデアがあるのだけれど、この紙面では語り切れないし、ぼくはご存じのように実業家ではないし、ジャーナリストでもないし、政治的人間でもないので、個人的アートへ向かうことで精一杯、なので、この話はまたいつか、ということにしましょう・・・。
ただ、もったいないなぁ、と思う。
同じく、資源のないフランスと比較しても、フランス人は個性的で面白い人間たちだけれど、勤勉さは日本人の方が圧倒的に上で、しかし、なぜ、フランスが強いのか、というと、政治力があるからだ。
EUを束ね、あの規模感(日本の半分の人口)の国なのに、世界の政治のかじ取りをうまくやる。
フットワークが政治にある。もしも、日本の政権が、まともなフットワークを持つことが出来たら、国民資源がこの国を強く再生させることが出来るだろうと思う。
もう少し、日本の政治家は、外を知り、外から学ばないとならない。内を大切にするべきだ。
政治家を育てバンバン排出するフランスのエナのような特別な学校を創設するようなところから、はじめなとならないのだけれど、こういうこと、言っても、ハぁ、ですよね? 
実に、もったいない話なのである。

退屈日記「これからの日本について、日本はダメじゃない。その可能性について」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
簡単に言ってしまったのですが、資源はある、ということです。その資源を使える人たちをどうにか、しないとならない、ということです。それが仮に出来たら、日本は、変わるでしょう。えらそうなこと言うてすいませんが、日本滞在中、そこかしこで、日本は凄いなぁ、と気づかされました。気づかされたということは、まだ、資源が豊富にある、ということを意味しています。以上。
はい、父ちゃんのスケジュールです。
8月24日、福岡国際会議場メインホールでのライブ
8月25日、中洲大洋映画劇場での舞台挨拶。子役の古賀兄弟と3人で!
8月29日、名古屋ダイヤモンドホールでのライブ、
8月30日、東京EXシアターでのライブ、
9月3日、京都劇場でライブ
9月1日、辻村(tsujiville)開村
9月16日、NHKBS、新作「パリごはんSP」その一週間前から連日過去作一挙再放送。
2024年2月末、伊勢丹アートギャラリーにて絵画初個展「les invisible」開催。

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