JINSEI STORIES
滞日日記「しゃぶしゃぶの作り方をフランス語人に教えることになった」 Posted on 2023/08/17 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、東京、フランス人がいっぱいおる。
今日は「夏バテには体力や肉やビタミンCじゃ」と心に決めてスーパーまで買い出しに行った、ロッカーな父ちゃんなのであーる。
ともかく、すれ違うのが外国人ばっかり、しかも、フランス人、多いねー。
英語、イタリア語、スペイン語も聞こえてきたが、だんとつ、フランス人、だった。
「あんた、どこにあるかわかるの? 探せるかしら」
「何と何が必要なんだっけ?」
「これ、かしら」
「どれどれ、いやー、なんか写真とは違うとるなぁ」
こういう会話を初老の仏人夫婦がフランス語で喋っているのであった。とにかく、何か困っているようなので、うずうずしている父ちゃん・・・。
しかし、なんか、ちょっとアクセントがあるというか、時々、聞き取れない。
おじさんが、たぶん、入れ歯なので、ぼそぼそ、喋ってるからかなぁ・・・。
ま、聞き耳たてても仕方ないので、ぼくは自分の買い物に行こうとしたら、おじさんが、振り返りざまによろけて、思わず手を差し出し、
「サヴァ?(大丈夫ですか?)」
と言ってしまったら、おじさん、
「うん、大丈夫」
とぼくの顔を見て、普通に、頷いた。
ぼくが仏語喋っても驚かない二人・・・。あはは。国際都市だ。
フランス語くらい誰でも喋れますよ、という顔をして、ぼくが立ち去ろうとすると、
「あの」
と呼び止められた。
「はい、なんでしょう?」
「ちょっと訊いてもいいですか?」
「はいはい、わかる範囲で」
なんか、訛りが強いので、もしかしたら、マルセイユとか、スイスとかの人かな、と思っていたのだけれど、というのは、聞き取れない言葉があった。
「私たち、カナダ人なんですよ」
ああ、どうりで、・・・理由がわかった。
カナダのフランス語は、独特なのである。なるほど、東京にカナダ人、おるな、おるおる、国際都市やもんね。
あ、カナダ大使館もここからすぐやし・・・。
「実は、宿でしゃぶしゃぶをやりたいんです」
「ほー」
「というのは、しゃぶしゃぶ屋を覗いたら、二人で3万円もしたんですね」
「たしかに」
「で、こっちの知り合いが、スーパーで買えば、2千円くらいで材料が揃うというのです」
「うーん、」
「あなたはどう思いますか?」
ということで、こういうことが起こるから、旅先の東京は面白い。
「あなたは幸運なカナダ人です。なぜなら、ぼくは愛情料理研究家なんですよ(Je suis un maître de la cuisine de l’amour)」
と言ってやったのだ。
「わ、ほんとう? 」
「あなた、愛の料理の達人って、どういう意味?」
このおじさん、顔も体格もチャールズブロンソンのような、とにかく、ごついのだ。で、奥さんがハリウッドの大女優、ナタリーウッド似!
でも、70代かな・・・。
奥さんは、短パン、タンクトップの華奢な方なのだけど、緑系の服で、フランス人にしてはアメリカンだなぁ、と思っていたのであった。
カナダ人か、なるほど、時々、なに言ってるか、わからないのはカナダ訛りなんだ・・・。
「お邪魔じゃないですか?」
奥さんは、可愛らしい人だった。
「暇だから、大丈夫ですよ。OK、じゃあ、こちらで肉を買います。見て、日本語で、しゃぶしゃぶ用の肉と書いてるんです。こっちが豚、こっちが牛。ところで宿は調理ができるんですよね?」
「ええ、一通り、揃っています。塩胡椒、醤油とかもあった。何を買えばしゃぶしゃぶが出来ます?」
奥さんが、仏版のしゃぶしゃぶレシピを見せてくれたが、本格的だった。
「いや、こんなの大変ですよ。もっと簡単に出来ます」
ということで、二人を引率し、店内を練り歩いたガイドの父ちゃんであった。
乗り掛かった船、日本の人情深さをみせてやろう。
いい思いをしてカナダに帰って貰いたいしね。
牛肉が5パーセント引きだったので、神戸牛みたいな上等な肉だし、割引だから、と教えて、買わせた。水菜、昆布だし、しゃぶしゃぶ用ゴマダレ、レンジのご飯、・・・。
彼らの携帯の録音機能をつかって、簡単な作り方を英語と仏語を混ぜながら、伝授。
ようは、昆布を入れたお湯を沸かし、お肉をしゃぶしゃぶし、ゴマダレかけて、食べりゃあ、十分。
水菜は、さっと湯がいて、先にお皿にだしておけばいい。あとで、やると肉の灰汁が・・・。
みたいなことを伝えたら、30分が経っていた。
「日本は素晴らしい。ほんとうに何もかもが新鮮で」
「ありがとう。いい旅を」
手を振って、分かれたのであーる。※ぼくのことはなに一つ聞かれなかった。あはは。なんで???
チャールズブロンソンとナタリーウッド、いい夫婦なのであった。
羨ましいなぁーもー。
いいもーん。
※ 父ちゃんは昨日、スタジオの前の八百屋さんで買った生姜を使って、ランチには、トマトスープを作ったった。美味かった。
※ 独身単身赴任男の冷蔵庫が寂しい・・・。あはは。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、父ちゃんも今日の夜はしゃぶしゃぶに決めました。しゃぶしゃぶ豚が結構安かったのです。カナダ人さん、全部で、二人分、2500円以内で揃いました。3万円、に負けない味になるはずです。旅先で料理をする、一緒ですね。はい、父ちゃんも栄養つけます。
ということで、ライブが近いぞ。
辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ 2023
8/24(木)福岡国際会議場メインホール・チケット発売中です。
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https://w.pia.jp/t/tsujihitonari-k/
伊勢丹アートギャラリーでの初個展は来年、2月末です。てんこ盛りですねー。熱血。
あ、NHKの「パリごはん」ですが、
9/11(月)~16(土)まで、毎日の放送です。
●「ボンジュール!辻仁成の春のパリごはん」
【BSP】9月11日(月)午前6:15~7:14
※初回放送 2021年6月18日
●「ボンジュール!辻仁成の秋のパリごはん」
【BSP】9月12日(火)午前6:15~7:14
※初回放送 2021年10月30日
●「ボンジュール!辻仁成の冬のパリごはん」
【BSP】9月13日(水)午前6:15~7:14
※初回放送 2022年2月23日
●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022春」
【BSP】9月14日(木)午前6:15~7:14
※初回放送 2022年6月17日
●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022夏」
【BSP】9月15日(金)午前6:15~7:14
※初回放送 2022年9月23日
●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022秋冬」
【BSP】9月16日(土)午後1:00~1:59
※初回放送 2023年2月17日
●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2023SP」
BSP/BS4K 、9/16土曜20:00~21:29