JINSEI STORIES
滞日日記「お笑いユニット、だんちゅーでござる、ぼくたちの野望」 Posted on 2023/08/04 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、またまたまた、料理雑誌だんちゅーの植野編集長と対談をやった。
これは、9月14日に行われる「食いしん坊の日」12時間生ラジオマラソンの中で流れる予定の収録対談なのであった~。
とにかく、食べるのが大好きという巨漢のカメラマン三人が、やたら男性臭が強くて、久しぶりに男臭い現場となった。くんくん、逞しい~。
その印象がまず何よりも強かったことを明記しておく必要はないのだけれど、書いちゃった。
野郎の熱気でむんむんな、植野編集長の周辺事情だった。くちゃい。
で、どんな対談をしたのか、というと「食いしん坊の条件」みたいな話であった。
植野さんが主宰する「食いしん坊クラブ」は入会の条件というのがあるようで、ご覧いただきたい、こちらなのであーる。
で、ここには書かれていないが、「おかわりをしたごはんを残すともう失格なのだとか」なるほど、一膳目は平らげて、勢いで二膳目をおかわりすることはたまにあるのだけれど、食べきれない、というのがアウトというのは当たり前だけれど、食を守る意味で、大事なことなのだった。
こういうことを一時間喋った後、ぼくと植野さんは、バーに移動し、泡系を呑んだ。
あ、いや、待てよ、そうじゃなくて、ぼくは禁酒中だったので、スパークリングウオーターをシャンパングラスに注いでもらった。泡系、ほんとうです。
「辻さん、禁酒中なんですか? ライブに向けて? ストイックだなぁ」
と編集長が言った。
「ええ、アルコール度数14度以下のものは、フランスではお酒の部類にはあまり入らないので、たとえば、フランスだとワイン1~2杯くらいだと警察の検問でも大丈夫なんです。ワイン大国ですから、ワイン1~2杯くらいは問題視されません。みんなランチの時間からボトル開けて飲んでいます。仕事の合間に」
「すいません。言ってる意味がわかりません」
「いや、だから、ビールとか度数が少ないものはぼくにとってアルコールじゃないのです。禁酒というのは深酒の禁酒、呑みすぎの禁酒であって、さすがにウイスキーとかウオッカは飲んでないという意味なんですよ。その甲斐あって、体調も喉のコンディションもいいです。寝酒は養命酒に限ります」
編集長は、笑っていたが、こうやって面白おかしく言ってるだけで、ぼくはスパークリングウオーターで植野さんと雰囲気だけ楽しんだのであった~。
この植野編集長、実は、謎めいている。
とにかく、真面目なのである。
真面目だからと言って、褒めているわけではない。
本人は自身のことをカタルーニャ人(スペイン、バルセロナ周辺の人々のこと)だと毎回言い張っているのだけれど、確かにカタルーニャ人はまじめ過ぎる。
スペインからの分離独立派が多く、スペイン王国にありながら、イタリアにおけるミラノのような「ぼくらはイタリアとは違う」オーラ半端ない土地至上主義があって、頑固で、真面目で、マイペースなのだ。
植野広生さんは二つのベクトルを持っており、不意に沸騰血が上がる気質を持っていながら、意外にも緻密で細かい性格の両極端なものを兼ね備えているのである。
対談をしていても、ジャーナリストらしい部分と不意にふざけてダジャレを連発してそれまで喋っていたことを見失ったりもする。
カタルーニャ人も似ている。真面目な話をしていると不意に陽気になって騒ぎ出す感じ。
もっとも、植野さんは一切の私生活を見せない。そこが、凄い。
だから、ぼくは植野さんのことをどこまで知っているのか、わからない。
話が私生活に及ぶのを嫌がる人で、家族やプライベートを凄く大事にしているのだ。
でも、いつメールしても、1分以内に返事が戻って来るので、彼の部下たちは大変だと思う。
ぼくの会社のスタッフがいつも大変なのと一緒で、そういうところは似ているね~。
ぼくはノルマン人(ノルマンディ地方の人のこと)なので、植野さんの陽気&真面目さとは正反対なのだ。
ま、ノルマン人について語ると話が長くなるのでそれはいつかね。
別れ際、
「辻さん、老後に二人で何かやりましょうよ」
と提案を受けた。
ぼくたちは二人とも還暦を過ぎているのだ。
「いいですね。やりましょう。二人でやれば人がもっと集まるでしょうから」
カタルーニャ人とノルマン人がいったい何をやるのかについては、語り合われなかった。これはいつものことで、やりましょう、何か面白いことを、と最後に固く誓いあうのが、この二人の流儀なのであった。
でも、だんちゅーでござる、の可能性は果てしない。
きっと世間をあっと言わせる大プロジェクトをやり始めるのに違いない。皆さんはいずれその目撃者になるはずだ。ふふふ、Xプロジェクト始動。☜イーロンマスクか。
ぼくらは、おもしろきことなきこの世をおもしろくさせる、男臭い人間なのであった。
おしまい。
でも、人生はつづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ま、日本に戻ると、なぜか、この男が真っ先に会いにやって来てくれて、いつもの塩昆布をくれるのです。彼は松葉杖をつきながら、ぼくの好物の塩昆布をホテルに届けに来てくれたことがあって、その誠実さもカタルーニャ人の本質だと言っておきたいです。笑。
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植野さん、手帳に日付をメモしておりました。かけつけたい、といつものように言ってましたが、そこは信じていません。