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滞日日記「速報! 本日、父ちゃんの個展が決定しましたのでご報告します~!」 Posted on 2023/07/29 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、こちらの写真は7月25日のシャルル・ド・ゴール空港での父ちゃんの手荷物一式を激写したものであーる。
JALさんが、規格外の荷物の搬送を手伝ってくださったのだ。
この段ボールで包まれたものがなにか、・・・ご名答、父ちゃんの油絵である。
父ちゃんが油絵を描き続けていたことは、実は、息子も、母さんさえも、話していなかった。
ぼくにとって絵を描くことは、偉大な趣味、に過ぎなかった。
だから、個展など、おこがましい、ことだった。
でも、父ちゃんが描き続けた油絵はすでにノルマンディのアパルトマン、パリのアトリエには入り切れない状態になっている。
埃まみれの古い作品も存在している。
昔から描いていたが、離婚直後、仕事が全部なくなった頃、シングルファザーになって子育てオンリーにシフトした時期から、本格的に描きだした。
息子を学校に送りだし、ぼくはアトリエにこもって描いた、
絵に向かっていると、ストレスが減る。
だから、これを人に見せるつもりも、なかった。捨てた作品もある。
しかし、

滞日日記「速報! 本日、父ちゃんの個展が決定しましたのでご報告します~!」

※ 大変でしたー。

滞日日記「速報! 本日、父ちゃんの個展が決定しましたのでご報告します~!」



自分の作品がどれほどのものか、わからないのも、くやしい。
そこで、友人の日本画家、千住博さんに、ぼくが描いたとは言わず、「この絵、どう思う?」と、しらっと送ってみた。
彼が、たくさんの意見を言った。
「ところでこれはどなたの作品?」
「ぼくです」
「え、フランスの画家だと思っていましたよ」
千住さんは驚かれ、辻さん、これ、世の中に見せるべきだ、と言い出した。
ぼくは文学や音楽業界には詳しかったが、画壇は全く知らなかった。
すると、千住さんが、自分のことのようにぼくがやるから、ちょっと時間をください、と言い出したのだ。
もちろん、そもそも趣味なので、締め切りもなければ、時間なんか湯水のようにあったので、お任せします、とお願いした。冗談だと思っていたのだ。だって、趣味だし・・・。
ということで、今日、新宿の伊勢丹アートギャラリーさんに絵を見せに行ったのである。
審査?
そう、ある意味審査なのだった。
写真じゃわからない。実物を見たい、とみんなが言った。
伊勢丹のアートギャラリーの方々も、千住さんに言われ、多分、仕方がないなぁ、という感じで、面接してくれたのじゃなかろうか。最初、支配人さんは、そこまで目が輝いていなかった、かな。
威厳のある支配人で、正直、父ちゃんはビビった。
「はじめまして」
なんにも悪いことしてないのに、うしろめたかった。
その時、すでに父ちゃんはへし折れつつあった。
「この人、絵も描くんだね。いろいろとやるねー」と思っているのかなぁ、と察した。ひゃあ、逃げたい。
伊勢丹の画廊ですよ。当然ですね。
そりゃあ、そうだ。ぼくは素人なのだもの。大それたことをしでかしてしまった・・・。どうしよう。。
でも、ポーカーフェイスで通した。ここは、わが友、千住博を信じよう・・・。
はっきりと発言される支配人さんで、長年、たくさんの画家と仕事をされてきたのがよくわかる、風格があった。
逃げ出したかったが、ここまで来たのだから、成り行きに任せよう、と思った。
そもそも自分を維持するために絵が必要だった。ここで、絵を嫌いになりたくなかった。

千住さんが本気で動いてくれた結果、ぼくは伊勢丹にいた。伊勢丹も絵を見ないと、どうすることもできない。
かくして、ぼくは、またしても、審査を、受けたのだ。
オランピア劇場が決まる前夜のことを思い出した。
ああ、胃が痛い。なんだよ、また審査か!!!
半信半疑な伊勢丹ギャラリーの方々の前で、ぼくの作品が開封され、次々、壁に立てかけられていったのであーる。ひゃあ、恐ろしい・・・。
4枚の作品を今日は見せた。
すると、マネージャーさんで、バイヤーのNさんが、動かなくなり、ぼくはいっそう緊張して、おしっこちびりそうになって、沈黙が辛くて、母さーん、と泣きだしそうになって、ええい、どうにでもなれー、と心の中で裂けんだ、その、次の瞬間、不意に、Nさんがぼくを振り返り、
「感動しました」
とおっしゃったのだった。
え? なんて言いましたかぁ???
ぼくは、正直びっくりした。
「いや、その、感動しました。これは実物を見ないと写真だけじゃ、わからなかった」
支配人は、もう一度言ったのだ。
ぼくは倒れそうになったが、ふふふ、ポーカーフェイスで、つま先立ちして、乗り切ることに・・・。
ひゃああ、やばい。☜心の中の叫び・・・

滞日日記「速報! 本日、父ちゃんの個展が決定しましたのでご報告します~!」



ということで、絵を見た支配人さんが、父ちゃんの個展をその場で決定してくれたのだった。
しかも、最速の、来年2月の後半から3月の頭にかけて、である。
ぼくはびっくりしていたが、なるべく、顔に出さないようにした。
関係各位の皆さま、おおげさに書いて、ごめんなさい。☜これ、わしの芸風です。
伊勢丹デパートにある、伊勢丹アートギャラリーに、ぼくの作品が並ぶことになった、すっごくないですか!?
ま、いろいろと言われるのだろうね。
でも、絵を見て。開催を決定したのは伊勢丹さんなのだし、ぼくを持ち上げ背中を押してくれたのは千住さんだし、知ーらないっと。笑。
日記に書いてもいい、とNさんがおっしゃったので、用心しながら今、書いているところ、・・・
ほんとうなの???

滞日日記「速報! 本日、父ちゃんの個展が決定しましたのでご報告します~!」



それにしても、ずっと描き続けてきた作品を、生で、ちゃんと他人が鑑賞し、感想を聞いたのも、今日が初めてなのである。
今日、ギャラリー関係の人が数人、ぼくの作品を見た。
そして、突然、日程も決まったのだけれど、SNSとかに書いてもいいと言われたのだけれど、ぼく自身がまだ半信半疑なので、詳しい日程は(決定しているが)、また、次回にご報告させてもらうし、絵も、見せたいが、もうちょっと待ってほしい、・・・心が落ち着くまで、愛をください、ラビアンローズ・・・。
数十枚の作品が新宿の伊勢丹で一気に日の目を見ることになりそうだ。
初個展は、ノルマンディで描き続けてきた「les invisibles(見えないものたち)」というシリーズのみを、発表することになる。
いやぁ、笑い話程度に読んでもらって、それでちょうどいいよ。これ、いつか覚める夢かもしれないのだから。
醒めながら見る夢、・・・だ。
実際の絵を見てから、皆さんの、感想を知りたい。
12月くらいに、詳しい情報が解禁になるらしい。
お楽しみに・・・。
えへへ。

滞日日記「速報! 本日、父ちゃんの個展が決定しましたのでご報告します~!」

※ 今日、作って食べた茄子の味噌焼きさえも、アートに見えてしょうがない、今日この頃なのです。



人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、ということで、世の中、相変わらず、凄まじい勢いで、動いていますね。ぼく、大丈夫???
はい、別途、お知らせです。
8月13日、そんな熱血父ちゃんがお送りする、今年最後の小説教室があります。総括しますね。ご興味ある皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックお願いします。
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