JINSEI STORIES
滞仏日記「さよなら、さんちゃん。また会う日まで(秋だね、遠すぎる・・・)」 Posted on 2023/07/23 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ということで、三四郎をドッグトレーナーのジュリアさんの家まで送りとどけた父ちゃんなのだった。
タクシーを朝の8時半に予約し、(犬がいます、と書かないとならない。そうすると犬好きな運転手さんが来てくださる)ぼくと三四郎はタクシーに乗って、パリ郊外のジュリアさんの家へと向かった。
かなりの郊外で、やや危ない地域なのだけれど、ジュリアの家だけ、なぜか、ゴージャス! 門もしっかりとしている。
「お別れだね、さんちゃん」
朝から、ぐすん、ぐすん、している父ちゃんなのであった。
さんちゃんも元気がない。
やっぱ、夏のあいだ、離れ離れになることを察知しているのであろう・・・。遠くを見つめる目に憂いがある。
ううう、さんちゃーん。
朝、いつもより、早めに起きて、さんちゃんと公園まで散歩した。
いつもと何も変わらない、ピッピもポッポも(おしっことうんち)もちゃんとしてくれて、めっちゃいい子なのであった。
あああ、9月中旬(仕事次第だけれど)まで、会えないのであーる。
そんなに会えないなんて、辛すぎるのだ。
でも、ファンの皆さんに会えるから、しょうがないね。
日本公演、がんばるよー。
うわあ、しかし、三四郎がいないのだー。ショックであーる。
タクシーは、普通なら1時間くらいかかる距離なのに、土曜日の朝だからか、めっちゃ空いていて、わずか、20分で着いてしまった。
さんちゃーん、もう着いたよ。
ということでジュリアちゃんが家の前で待っていてくれた。ぼくは同じタクシーに乗って戻るのであーる。
「三四郎、今日からジュリアがパパのかわりに君の面倒をみるよ」
ジュリア、という響きに反応した、さんちゃん。
車から降りると、家の前にいるジュリアを見つけ、不意に尻尾を振りだした。
もの凄い勢いで、ジュリアちゃん目掛けて突進するさんちゃんのリードをひっぱりながら、衝撃を受けているパパしゃん。
ジュリアの足もとでひっくり返り、うれしょん、までしやがった三四郎・・・
それを、呆気にとられ、白い目で見降ろす父ちゃん。
ジュリアが三四郎を我が子のように抱きかかえ、ぎゅっとした。三四郎、もう、でれ~。
「じゃあ、ムッシュ。日本滞在がんばってください。三四郎は私に任せて」
と言って、三四郎グッズを受け取ると、そのまま、ジュリアちゃん、自分の家へ・・・。
三四郎は見向きもしないし、さよなら、も言ってない。
あの、ええと、・・・え、え、え、衝撃であーる。
三四郎もジュリアも一度とこちらを振り返らなかった。
ジュリアに抱えられた三四郎の尻尾だけが、激しく左右に振り子なのが、見える・・・。
立ち尽くす、父ちゃん。
「ムッシュ」
振り返ると、運転手さんが、いた。
「そろそろ」
「ああ、すいません」
ぼくは車に戻り、うなだれたのであーる。
ひゃああ、辛い。なんだよ、親の気持ちも知らずに!かっちーーん。
どっちが飼い主かわからん。
もう、いい。ぼくはライブに来てくれる人たちのことを考える。
ぷんぷん。
※ ジュリアと別れてすぐ、ジュリアから動画が届いた。なんと、三四郎はジュリアの家族と楽しそうに、はしゃぎまわっている。父ちゃんの気持ちも知らないで・・・。
ということで、三四郎は呆気なく、去って行った。さよならも、せずに・・・。
ぼくは自宅に戻り、三四郎のいない家の中を見回すのであった。
三四郎のボール、三四郎の餌入れ、三四郎のリード、三四郎のおやつ、三四郎のベッド、三四郎のおもちゃ、三四郎の・・・・
ううう、寂しい。
しかも、誰もいないので、寂しさを埋めるものがない。誰か、ぼくを抱きしめて~。
来週、日本に向かうのだけれど、まだ、数日、パリにいないとならない。
ああ、寂し過ぎる。
しゃーない、呑みに行くか。
ああああ、禁酒中であったぁ。
うう、辛すぎるからの、冷血~。
※ タクシーの横の席に、残された、三四郎の旅行バッグ・・・いないのだった。
人生はつづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、寂しいのだけれど、日本公演に向けて、身体を整えて向かいますね。今日、追加公演の福岡国際会議場メインホール(8月24日)のチケット発売日でしたが、売り切れませんでした。ぜんぜん余裕で席が残っていますので、よろしくお願いいたします。でも、福岡は母さんも来るし、親孝行できるので、最高のライブになるでしょう。最高にします。他の会場(名古屋、東京、京都)は売り切れています。
そして、小説を書きたい皆さんへは、8月13日に父ちゃん講師による、今年最後の「小説教室」を開催いたします。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてくださいね。めるしー。辛い・・・。