JINSEI STORIES

滞仏日記「息子が合格した大学に行けないかもしれないというとんでもない事態が発生」 Posted on 2023/07/10   

某月某日、ギターの練習をしていたら、息子から珍しく電話がかかってきた。
おや、会ったばかりなのに、なんじゃ???
十斗の声がスピーカーから弾けた。ぼくはギターをおろした。
「・・・の書類が必要」
なんで? そんなのないよ、と戻した。
「今、大学の申請しているんだけれど、それがないとダメなんだ」
「何で、今ごろ? 前の大学で必要なかったじゃないか」
彼は国立の大学に一年通った。
志望大学に入ったものの、この一年間、勉強をしているうちに、そこが望んでいたような大学ではなかったことに、気が付いてしまったのだとか・・・。
そこで息子は、ぼくに内緒で、別の大学を受け直し、合格した。
ここまでは日記で書いた通り。
一昨日、うちに来た時に、申請は大丈夫か、と訊いたら、たぶん、という返事だった。
慌ててやったのであろう。
すると、足りない書類が出てきたのだ。今頃・・・。(9月14日から新学期がスタートする)
「今日は日曜日だ」
「うん、明日、大学と市役所に電話してみる」
珍しく、焦っているようなので、ご飯でも食べに来るか、と訊いた。
ここはしっかり話を聞いておかないととんでもない事態になりうる、可能性があった。

滞仏日記「息子が合格した大学に行けないかもしれないというとんでもない事態が発生」



夏休みに入ってから、眠れない、というので、ぼくが最近愛用しているメラトニンを持っていった。おい、大丈夫か? 
立ち眩みが凄いのだ、という。
「なんで?」
多分、自炊だし、作るものが限られているから、ちゃんと食べてない、と言うので、焼肉屋に連れて行くことにした。やれやれ。
子供というのは、いくつになっても手がかかる。
「申請は、いつまでに?」
「7月20日が締め切り」
「20日って、すぐじゃん。でも、夏休みでしょ? 大学やってるの?」
「わからない。明日、電話するけれど、申請係はさすがにやってると思うんだけど。でも、その足りない書類をすぐに揃えられるか、だよね」
「今ね、パパも滞在許可証の住所変更申しこんでいるけど、もう、半年ほど、音沙汰なし。パスポートなんかぜんぜん追いつかなくて、フランス人みんな旅行に行けない、と怒っているみたいだよ。その書類、すぐに政府が発行するだろうか? 7月14日は、革命記念日じゃん。その周辺、ぜったい動かないよね」
息子くん、困った顔をした。怒ってもしょうがない。彼のせいじゃない。

滞仏日記「息子が合格した大学に行けないかもしれないというとんでもない事態が発生」



レストランの係の人がやって来て、フランスでは珍しい韓国式の鉄板で、肉をがんがん焼きだした。
「とにかく、栄養をつけないと」
「うん」
「急いだほうがいいけれど、日曜日に騒いでもしょうがないので、今は栄養つけることに専念をして、明日、朝一で大学と市役所に電話しなさい」
こういうことは、頭ごなしで言うのはよくない。
自分が学生だった頃を思い出し、時間をかけて、丁寧に伝えた父ちゃんであった。
ただ、必要な書類が揃えられない場合、それでも、大学は十斗を迎え入れてくれるだろうか? 問題はそこである。
ぼくにはわからなかった。
ルールに厳しいフランスの一面もあるし、別の書類でカバーできるかもしれない。こればっかりは、専門外で、判断がつかない。ただ、焦ってやっておかないと、申請期限があるので、逃すと大変なことになる。
「いくつになっても、パパがいないとダメだね。君は」
「(笑っている)」
息子は3人分の焼肉を平らげてしまった。ぼくは野菜に食べた。肉は数キレ、三四郎とわけて食べただけであった。
育ち盛りはまだ続いている。人生に海原でいまだ漂流中なのである。
息子からの連絡をハラハラして待ち続けるしかなかった。
(わかり次第、ご報告しますね)

滞仏日記「息子が合格した大学に行けないかもしれないというとんでもない事態が発生」



人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
日曜日、文章教室の課題の締切日だったので、読み切りました~。多分、おそらく多分ですけど、年内、最後のエッセイ教室になります。なので、いつも通りの授業に加え、他に、父ちゃんがエッセイを依頼されたら「どうやって執筆にあたるか」ということなどを詳しく、例を出しながら、講義していきたいと思うのです。最後なので、今までとはちょっと違った文章教室、お楽しみに。
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