JINSEI STORIES
滞仏日記「ぎゃあ! シチリアに行っている間に、我が家に泥棒が入っていたぁ!」 Posted on 2023/07/04 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、人生というのはいいこともあれば(ロンドン公演決まる)、泥棒に入られることもある。
三四郎とシチリアのカターニャ空港からパリのオルリー空港に戻ってきた父ちゃんだったが、へとへとになって家に到着してみると、スタッフの岡っちが管理人さんと建物の入り口で話し込んでいた。
当事務所は現在夏休みに入っており、みんな在宅勤務だったり、8月いっぱい長期休暇に入っているのであった。
というのも、在仏日本人の方が多いので、皆さん、お子さんの学校終わりで一時帰国される時期なのである。
岡っちも、休みのはずなのに、え、なにしてるの?
「それが、先生、泥棒が入ったんです」
「えええ、どこに?」
「地下の駐車場なんですが、やられたのは先生の車だけでして」
「えええ、やられたの?」
管理人さんが朝、地下駐車場の掃除に降りたところ、荒らされていた、というのである。
で、調べたら、うちの車のドアが開いており、中がめちゃくちゃになっていたのだ・・・。ひ、ひどい。
それで、管理人さんがぼくにも連絡をしたのだけれど、携帯が繋がらず(多分、機内モードになっていた)、岡っちに連絡が来た、という次第であーる。
うちの駐車スペースだけがなぜか他の方のよりかなり広く、奥に事務書類棚がいくつかある。
冷蔵庫などもあって、要は前に事務所として使っていた時代の遺物が、行き場所なく、そこに保管されているのであろう。
何が入っているのか、ぼくは知らなかったが、開けられ、中のものを全部盗まれた、とのことだった。
「で、うちの被害は?」
「見ますか? 」
ということで、管理人さんと三人で下まで降りたのだけれど、車のドアが開いたままで、おお、中が荒らされておる~。
「カギ、閉めていたのに」
「なんか、今の時代、コンピューターであけられるそうです」
窃盗犯グループは、ドアを開ける技術はあったが、うちの車は最新型で、セキュリティが高く、車のエンジンまでは動かせなかった。ふー。
「どうやって泥棒が地下に入ったのでしょう?」
管理人さんに訊いてみた。
「想像ですけど、夜に帰って来た車と一緒に忍び込んだのでしょう。門が閉まる前に」
「なるほど」
「先生、警察に届け出した方がいいみたいです」
「そうだね」
ということで、三四郎を岡っちに預け、警察署へと向かったシチリア帰りの父ちゃんであった。
くたくたなのに、歩いた・・・。車がない・・・。
※ 車の中がこんな状態だった。ひ、ひどい。
今、ご存じのようにパリは警官が17歳の少年を射殺した事件に端を発し、毎晩のように暴動が続いている。
というわけで、その渦中、警察署へ被害届を出しに行った父ちゃんなのだった。
「すいません。車上荒らしにあいました」
受けつけで、待たされ、ぼくの番が来た。
担当した警官は若いが、しっかりした人だった。
彼の前に座らされ、状況説明のようなことをしゃべらされた。何時頃、どういう手口で何を盗られたのか?
「ええと、荷台に置いてあった野本さんという友だちにあげるつもりだったお菓子と昆布が盗まれました。袋を破って、中のものを確認して持っていったようです。昆布、わかります?」
「こんぶ? 」
昆布について説明した、父ちゃん。疲れているのに・・・。
「あと、小銭入れの15ユーロくらいも盗まれました。でも、小銭入れは置いてってます。この小銭入れ、30ユーロもしたんです。あと100メートルもある動画撮影用ケーブルも、そのままでした」
「ほー、盗むものを選んでいますね」
警察の人がメモしていく。
「あと、携帯の充電コードも盗まれていません。シートの上に放り投げられていました」
「アイホン?」
「はい」
「じゃあ、犯人の携帯はサムソンなのかもね。他には?」
「ええと、汚れを拭く、ポリッシュ?」
「それで指紋をふきとった可能性がありますね」
(その後、駐車場に戻ると、ドアに犯人の手形がべたべたに付いていた・・・笑)
「あの、駐車場には十台くらい停まってるんですけど、やられたのは、うちの車だけなんです。目を付けられ、狙われたんですかね?」
「可能性はあります。新車ですよね。で、他に、盗まれたものは?」
※、オランピア劇場ライブのポスターは置き去りに。熨斗紙やお菓子の紙は破られ、中身だけとられた。
※ 革製の小銭入れはモンサンミッシェルで購入した、大事なものだった。中身だけ。とられた。変な犯人。
※ 携帯はサムソンか・・・。
「車の後ろに書類棚があって、それは大家さんの持ち物なんですが、その中が空っぽでした。何が入っていたのか、ぼくにはわかりません」
「なるほど。でも、それは大家さんの荷物なんですね。じゃあ、あなたには関係ありません。大家さんが自分で被害届を出す必要があります。他に被害は?」
「車が動かなくなっています」
「それはもしかすると車のセキュリティが作動して一時的にブロックされているだけかもしれませんね。家に戻ってやってみてください。エンジンがかかる可能性があります。ダメな場合は業者に頼んで、保険で対応するしかないです」
「なるほど。あの、こういう車上渡し、この辺で、流行ってるんですか?」
警察の人はかぶりをふった。
「なくはないですが、駐車場に忍び込んで、というのは、年に三回くらいですね。珍しいケースです」
「そいつ、また、来ますかね」
「いや、あなたの車は目を付けられていたんでしょうが、彼らの技術ではエンジンを作動できなかったわけだから、多分、もう来ないでしょう」
「そうですか」
「はい、じゃあ、これで終わりです」
ということで被害届が完成し、ぼくがすべての書類にサインをして、退出となった。ふー。
やれやれ、お疲れさまでした。
結局、盗まれたものは、野本ちゃんにあげようと思っていたお菓子と昆布、そして小銭、15ユーロだけであった。
※ 戻って、車のエンジンはかかったのだけれど、よくよく見ると、ドアに、手形がばんばん、付いていた。ポリッシュで拭いたんじゃないんかい~、逮捕する!
人生はつづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
オランピア劇場ライブの最初のYoutube画像が出来上がりました。シティライツという曲です。こちらをご覧ください。
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そして、お知らせです。7月13日まで、父ちゃん監督作の「中洲のこども」が中洲大洋映画劇場で上映されておりますよー、福岡の皆さん、応援ください。☜応援のお願いばかり、・・・。あはは。
一方、小説家の父ちゃんですが、7月16日に、エッセイの書き方などを学ぶ、父ちゃん講師によるオンライン授業もあります。エッセイ、書いてみたい、と思う皆さん、ぜひ、御参加ください。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてくださいねー。めるしー。