JINSEI STORIES
退屈日記「母さんがついに米寿を迎えたのだぁ。息子二人が、じーんとなった日」 Posted on 2023/06/17 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、熱血母さんがついに米寿を迎えたのだった。
これは凄いことだ。米寿というのは数えで88歳になった、というわけである。
この後は卒寿、白寿しかない。楽勝で、卒寿(90歳)まではいくに違いない。
もしかするとあの生命力だ、白寿(99歳)、百寿(100歳)も夢ではない。
ぼくと弟は頑張って母さんを支えていかないとならない。
人間、支え合って生きてきた。これからも支え合って生きていく。
ということで、ぼくにかわって、弟が母さんを寿司屋に連れて行き、好きなものを、食べて貰ったのだった。
「あらー、よかとね、お寿司、美味しい。ほんとに長生きは素晴らしかね。あんたたちにこんなにめんどうばみてもらってからに、わたしは幸せもんたい」
ということらしい。
弟の恒ちゃんがいてこそ、ぼくもガンガンフランスで創作が出来る、二人力をあわせて恭子さんの余生を幸福にさせてあげたい。
目下の母さんの愉しみは、6月30日から中洲大洋映画劇場で公開される父ちゃん監督作「中洲のこども」を観ることなのだ。
これは、間違いなく出来るだろう。
そして、この夏にぼくが日本凱旋コンサートをやるので、そこに顔を出すことだ。
パリのオランピア劇場ライブはさすがに来ることが出来なかったが、日本国内なら可能だ。
その日は、親孝行ライブにしてみせるったい~。
ぼくは自分が親になって、母さんや父さんへの感謝が強くなった。
自分が子育てを通して、自分もそうやって育てられたのか、と今更ながらにいろいろと気がついていった。
人間は子供の頃、甘えるのが仕事だった。
歳を重ね、親は子供に迷惑をかけまい、とする。(ぼくも、息子にだけには迷惑をかけない所存である)
でも、育ててもらった子供は、少しでも恩を返したい。
そういうものである。
口数の少ないうちの息子だが、彼はおばあちゃんが大好きなのだ。
いつも「ババ」といって、ババの物まねをやっている。(野球のテレビをみて、選手が失敗すると、このばかったれが、と怒鳴るのだそうで、その真似。あはは)
息子は家族を大事にする子に育った。ぼくよりも、ババの傍にいる時間が長い。
先祖の墓参りに行き、ジジのお墓の掃除をする。
十斗はフランスで生まれたが、先祖の方々にきっと見守られているような気がする。
ぼくなど、墓参りにもうずっと行ってない。
十斗は毎年行き、墓の掃除をしている。
この子はフランスで生まれたが、日本が好きなのだ。
彼の気持ちを考えると、やっぱり目頭が湿る。
十斗は恭子さんとあと何回一緒に過ごせるだろう。
ぼくも母さんにどれくらい親孝行ができるだろう。
夏に福岡に行き、母さんの好物のスパゲッティを作ってあげたい。
母さん、米寿、おめでとう。
恒ちゃん、いつもありがとう。
人生はつづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
米寿、卒寿、白寿、まだまだ長い道のりですね。ファイト!!!!
ということで、日曜日、20時から、父ちゃんガイドによる熱血サンジェルマン・デ・プレ界隈散策ツアーがありますよ。初夏のパリの風景をお楽しみください。参加希望の皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックね!めるしー。