JINSEI STORIES
滞仏日記「いい日旅立ち、そうでもない日はチャンスの日だ。がっかりした日にこそ!」 Posted on 2023/06/04 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、息子が両手で頭を抱えて苦しんでいる、かなりはっきりとした夢を見た。
大学を受け直し、合格したのに、不吉な夢だった。
この夢は寝起き間際に、他の夢を蹴散らすように現れて、ぼくの頭の中で強烈に浮かび上がったのである。
ぼくは汗をかいて目覚めた。
でも、あまりにはっきりした絵だったので、もしかすると何か、不吉なことが、この大学の仕切り直しで、彼の将来に起きるのかもしれない。
もちろん、杞憂であってほしいのだけれど、しばらく、この不吉な予感が頭から離れないのだった。
たしかに、気になることがいくつかあって、ぼくは素直に喜べないのも事実なのだ。
しかし、夢のことはさておき、頑固な息子が自分で開拓し掴んだ未来なのだから、親としては応援するべきであろう。応援している。
この件は、どういう結末をもってくることになろうと、もう、後戻りはできないのだ。いい大学なのだけど、専門職すぎるので、就職が難しい可能性もある・・・。
あとは息子が自分で決めていくことなのだ。
今日は、そんな感じではじまったのだった。
※ セルジュ・ゲンスブールが住んでいた家なのです。たまたま、歩いていたら、前を通過したので・・・。記念撮影。
他にも、ちょっとがっかりさせられるような出来事がぼくに襲い掛かってきた。
オランピア劇場ライブが成功をして、信じられないような吉報も届いている一方で、その逆のことがぼくにふりかかった。
たとえば、出鼻をくじかれるようなこととか、希望、期待通りにならない返事が届いたり、ま、アゲアゲで行きたいのだけれど、現実に思い知らされるようなことがいくつかぼくの行く手を遮ったのであーる。(今は言えないけれど、いつかね、あはは)
で、何が言いたいかというと、毎日、人間には、「いい日」と「そうでもない日」がある、ということだ。
今日、ぼくは朝からずっと「そうでもない日」の中にいた。
たぶん、オランピア劇場の日に、ここ一年分くらいの「運」を使ってしまったのに違いない。
いい日と悪い日は、晴れと雨が交互に来るように、ぼくにもやってきたわけである。
いいことは続かないことはわかっている。
厄落とししているなぁ、と思えばいいだけのことだ。
こういう日もないと、いい日もやってこない。
で、あまりいい日ではない時は、めっちゃ学びの「時」だと思うようにしている。
今日、ぼくはサンジェルマン・デ・プレで「がっかり」した。
はじめて会った人物(道ですれ違うよう)に、自分を伝えようとしたのだけれど、まったく、理解してもらえなかったのである。
「あなたね、人間はキャリアがないとダメなんですよ。みんな一つ一つ、キャリアを積んで昇っていくのだから」
この人は、全然、悪くないのだ。ぼくは自分のキャリアを説明しなかったのだから。
その人に、世の中の厳しさをとくとくと説教されたのである。遮ることも出来たのだけれど、ぼくは黙って聞いたのである。
「あなたはもっとフランスでキャリアを積まないと評価されることもない。20年、ここに住んでいたと言ったけれど、その間、あなたは、何をしていたんだ」
あ、これはもうだめだ、と思ったので、ぼくはそこを離れたのだった。
でも、彼が言ったことはもっともだった。思い当たることがあったのだ。
それで、落ち込んだのだけれど、その人と別れて、路地にとめてあった車に乗った時、ぼくは気が付いた。
ああ、今日はそういう日なんだよ。
学びの日なんだ。
※、がっかり、落ち込んだ日は、せいのつくもの。頂いた、お蕎麦でとろろ蕎麦を作りました。とろろまぐろぶっかけ蕎麦かな。冥加入り・・・。うまかった。美味しい、で、気分を変えよう。
オランピアが成功してうぬぼれていたけれど、これは啓示なのかもしれない。さ、ここから、ひとなり、君は何を学んだかね?
ぼくはハンドルを握りしめながら、自問した。
ひとつは、世の中の厳しさ、ということを知った。
自分の世界では一番でも、違う世界ではまったく評価されないこともある。
それでがっかりするのは、うぬぼれているからにほかならない。
がっかりできるということは、つまり、自分をきちんと評価できている、ということだ。
「いい勉強をした」と思えば、この人と会った意味があるじゃないか?
「自分のキャリアを彼にぶつけても意味がなかっただろう。なので、反論をしなかったのは良かった。これはチャンスなんだ。がっかりするというのは、自分に反省があるということで、気づかなかった盲点をその人が一撃してくれたんだから、そこを強化していくしかない。焦らず、時間をかけて、もう一度、謙虚に進んで行くのがいい。そうやって、オランピア劇場は成功したはずだ。一つ一つ、ステップアップしていくのがいい」
ぼくは家に着く頃には、ある程度、立ち直っていたのだった。
もっともっと、精進をして、最高を目指そう、と思ったら、ちょっと口元に笑みが戻ったのだった。
ぼくが息子に教えたいことも、このことだった。
「いい日」もあれば「そうでもない日がある」
けれど、そのそうでもない日にこそ、たくさんのチャンスが潜んでいる、ということなのである。
そうでもない日に、気づいたことを、次のステップに上るためのチャンスに変えていくことが、今のぼくには大事なことなんだろうな、と思った。
よし、・・・、今日は温存しよう。じっとこらえて、明日に備えて・・・。
今日、会った見ず知らずの人たちに、感謝なのである。
※ いつか、その扉は開くのだ!!!
人生はつづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
詳しいことが話せなくて、ごめんなさい。でも、ぼくの想像では2年後くらいに、今日のがっかりが、輝きに変化しているはず、皆さんをきっと驚かせるような進化へと繋がるはずです。自分を知ることから、光がはじまります。道がいばらの道であればあるほど、きっと、ぼくは学ぶことがたくさん増えていくのだと思います。
さて、6月18日は、サンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンライン・ツアーです。ご興味ある皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。
で、いよいよ、8月末、9月頭は日本ツアーなのですけれど、すでに、最速先行というのが始まっていますよ。6月11日まで、です。
「辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ 2023」
Tsuji Acoustic Serenade From Paris 2023
現時点で決定している出演アーティスト:
辻仁成(Vo・Ag)/Dr.kyOn(Piano・Chorus)/ユン ファソン(Flugelhorn・Trumpet・Chorus)
各会場:
8/29(火)愛知・名古屋DIAMOND HALL
open18:00/19:00
8/30(水)東京・EX THEATER ROPPONGI
open18:00/19:00
9/3(日)京都・京都劇場
open17:30/18:00
さて、デザインストーリーズから、一般発売に先立ち、オフィシャル最速先行、のお知らせを行いします。特別に、「ぴあ」内に、このミニツアーの先行窓口が6月11日まで設置されています。
チケット購入を希望される皆さんは、下のURLをクリックお願いいたします。
https://w.pia.jp/t/tsujihitonari-k/
最速先行発売期間、5/30(火)09:00~6/11(日)23:59/日本時間