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滞仏日記「さんちゃんとの再会、父ちゃんにはまたしても日常が戻って来たのだ」 Posted on 2023/06/01 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、力を出し切って、この二日ばかしぼんやりしていたが、そろそろ日常をとり戻さないとならない。
ぼくはそのために、まず、ジュリアに預けていた三四郎を引き取りに出かけることにした。
おお、三四郎、すまない・・・。
10日ぶりに再会したサンシーこと「三四郎」、めっちゃ尻尾をふって、ぼくに突進をしてきたのだった。さんちゃーーーん、会いたかったよー。
あれ、軽くなっている。お前、痩せた??? おお、痩せたんじゃねー?
かなり、引き締まっていた。
「ムッシュ、三四郎には運動をさせました。肥満だったので、よくないと思い、フォンテンブローでけっこう走らせました。理想的体重にまで引き締めてあります。人間の食べるものや、おやつをあまりあげないでくださいね」
ありゃ、叱られてしまった。でも、見違えるようにスマートになっている。
細くなった三四郎とハグをしあった。
「君が頑張ってくれたおかげで、父ちゃんはオランピア劇場の歴史に加わることが出来たのだ。マジで、君のおかげだ、ありがとうね」

滞仏日記「さんちゃんとの再会、父ちゃんにはまたしても日常が戻って来たのだ」



そういえば、オランピア劇場でのライブ、息子の十斗が、彼の音楽仲間たちを引き連れて、バックヤードで手伝ってくれたのだった。
そうだ、そのことだけはしっかりと記憶に焼き付いている。
「パパ、ユゴーがね、すっごいパパのバンドの音を気に入っているんだって。あの日、野太い声で真っ先に声援を送ったのが、ユゴーなんだよ」
嬉しそうに息子が語るのを、父ちゃんは静かに聞いていた。
蛙の子は蛙、というが、十斗も同じミュージシャンになった。
45歳の年の差がある親子だけれど、ぼくはぼくが死ぬ前に、かっこいい父ちゃんを彼に見せたかった。
実は、それが叶った日でもあった。
ぼくには、家族があった。
素晴らしい家族である。
つまり、回帰するところは、辻家なのだった。
息子とぼくと三四郎・・・。家族、実に素晴らしい。

滞仏日記「さんちゃんとの再会、父ちゃんにはまたしても日常が戻って来たのだ」



ということで、ライブも無事成功し、辻家には平穏な日常が戻ってきつつあった。
今日、父ちゃんは塩鮭玄米パスタを作ったのだった。
日本から届いた紫蘇とミョウガと葱をダシや味噌をあえ、ええと、あるものを適当に加えて~の、ひさしぶりの家飯であった。
やっぱり、料理をすると元気になるねー。
ウイーンに住んでいる従妹のメグリがオランピア劇場に届けてくれたザッハトルテに生クリームを添えて、パクっ、と頂いたのだった。
うまーーーい!!!
日々のご馳走の復活であーる。

滞仏日記「さんちゃんとの再会、父ちゃんにはまたしても日常が戻って来たのだ」

滞仏日記「さんちゃんとの再会、父ちゃんにはまたしても日常が戻って来たのだ」

※ ウイーン在住の従妹の料理研究家、いまむらめぐりからのお土産。ザッハトルテに生クリームを足して。笑。「ひとちゃんは、わたしのグーラッシュレシピをさも自分のレシピみたいに発表している」とライブ終演後に言われましたが、ちゃんと、めぐりのレシピをもとに作ったものです、と記事では公言しております。誤解です。めぐりさん。あはは。



午後、ちょっと撮影の仕事があったのだ。
アレクサンダー三世橋でぼくはモデルさんのように歩いた。ふふふ、63歳のシニア・モデル。
もう一度いいますね。
シニア・モデルなのだぁ~~~。

滞仏日記「さんちゃんとの再会、父ちゃんにはまたしても日常が戻って来たのだ」

滞仏日記「さんちゃんとの再会、父ちゃんにはまたしても日常が戻って来たのだ」



オランピア劇場の成功を祝して、とある日本のメディアさんが撮影にやって来たのだった。
日常を撮影したいというので三四郎を連れていくことにした。帰って来たばかりなのに、一人お留守番も可哀想じゃないか・・・。
だって、三四郎がいるそのような風景こそが、ぼくの日常だからである。
いつもの公園を散策し、橋を渡って、カメラさんに追いかけられながら・・・。
「オランピア劇場ライブのあとの今の率直な感想をお聞かせください!」
「ええと・・・」
ぼくは、思い返そうとするのだけど、実は、あまり覚えていないのであった。
なぜなのか、わからないのだけれど、あっという間に終わってしまい、記憶に焼き付いていないのである。
或いは、きっと、出し切ったからかもしれない。
テレビカメラの前で、オランピア劇場までの道のりを、何十年も前の記憶をまさぐるように、語る父ちゃんなのであった。えへへ。

滞仏日記「さんちゃんとの再会、父ちゃんにはまたしても日常が戻って来たのだ」

※ この人、まるでカンヌ映画祭のレッドカーペットをあるくフランスの大物俳優のようだけど、アドリアン、なのであーる。ここはオランピア劇場、入口なのだ。

滞仏日記「さんちゃんとの再会、父ちゃんにはまたしても日常が戻って来たのだ」

※ スポンサーでもある国虎屋の野本が、まるで大物プロデューサーのように、リハーサルを見ていた!



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
この取材でオランピア関連の仕事は一段落しました。ライブの反響が、びしばしと届いているのですが、ぼくは全く記憶喪失になっていて、あの日のあの時間のことが思い出せないのです。アドリアンからは「完璧なフランス語だった」と褒められました、笑。ピエールからは「最高だった」と、マーシャルからは「奇跡的な一夜だった」とエステルやカリンヌやパン屋のヴェロニクからも、次々、感動した、とメッセージが届けられたのです。そんなだったっけかな、と振り返って、一番、驚いている本人なのでした。あはは。でも、嬉しい反響ですね。もうすぐ、映像の編集がはじまるので、皆さんも、垣間見ることが出来ますよ、お楽しみに・・・。なるべく早く、お届けしますね。
さて、ライブのお知らせです。

「辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ 2023」
Tsuji Acoustic Serenade From Paris 2023
現時点で決定している出演アーティスト:
辻仁成(Vo・Ag)/Dr.kyOn(Piano・Chorus)/ユン ファソン(Flugelhorn・Trumpet・Chorus)
各会場:
8/29(火)愛知・名古屋DIAMOND HALL
open18:00/19:00
8/30(水)東京・EX THEATER ROPPONGI
open18:00/19:00
9/3(日)京都・京都劇場
open17:30/18:00
さて、デザインストーリーズから、一般発売に先立ち、オフィシャル最速先行、のお知らせを行いします。特別に、「ぴあ」内に、このミニツアーの先行窓口が6月11日まで設置されています。
チケット購入を希望される皆さんは、下のURLをクリックお願いいたします。

https://w.pia.jp/t/tsujihitonari-k/

最速先行発売期間、5/30(火)09:00~6/11(日)23:59/日本時間

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地球カレッジ

※ 6月18日は、サンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンライン・ツアーです。ご興味のある皆さん、上の地球カレッジのバナーをクリックください。

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