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退屈日記「祭りの後の静けさの中にいる父ちゃんなのである。再び熱血の道へ」 Posted on 2023/05/31 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、祭りの後の静けさの中にいる父ちゃんなのである。
張りつめていた熱血が、ひといきついて、目標がなくなって、真空の状態の中にいる。
ライブのあと、まだ片付けや、人に会ったりして、慌ただしいライブの翌日を過ごした。
NHK制作会社のLさんや義和D、トランペットのユン君、カメラマンの岡田さん、大阪のイベンターの中原氏など多くの人に囲まれ、サンジェルマンデプレのベトナム料理店で「オランピアを懐かしむ会」をやった。
31日に彼らはみんな日本に帰るのである。
楽しい夕食会だったが、不思議なことに、ぼくはライブをやったという満足感も、高揚感もなく、もう、ぜんぶ、記憶に残っていないのである。
というか、思い出せないのだ。
カメラ8台とか10台で撮影をやったので、いつの日か、Youtubeなどで映像を配信するつもりではいるけれど、それを見る時に、もしかすると、思い出すのかもしれない。
完全レコーディングをしてもらっているので、その音源を聞く時に、或いは、思い出すのかもしれないのだけれど、出し切った今、記憶にない、状態なのである。
まっさらな白紙で、どうしていいのか、わからないというか、食事をした後、ぼくは一人で、夜のサンジェルマンデプレ界隈へと、舵を切った。
ここはぼくの聖地でもあって、この20年、作家として、ミュージシャンとして、苦悩を乗り越えるために、歩き続けた場所でもあった。

退屈日記「祭りの後の静けさの中にいる父ちゃんなのである。再び熱血の道へ」



退屈日記「祭りの後の静けさの中にいる父ちゃんなのである。再び熱血の道へ」

退屈日記「祭りの後の静けさの中にいる父ちゃんなのである。再び熱血の道へ」

ぼくには「電柱作戦」というのがあって、それは、「次の電柱まで頑張って歩いて行こう」というポリシーなのだけれど、オランピア劇場は、まさに、この電柱作戦の一つの大きな曲がり角にある、電信柱なのであった。
ぼくは今、次の電信柱へと歩を進めないとならない場所にいるというわけだけれど、出し切った後なので、その気力を集めているような真空の場所に立っている。
「辻さん、ものすごいパワーでしたね」
とライブのあと、皆さんに言われるのだけど、それは実はちょっと違っていて、ぼくはもの凄い「気力」の人なのだ。
パワーとかエンジンとか筋肉というのはあまりないのだ。
でも、そのかわり、もの凄い気力があって、ああいう声が出てくるのである。
筋肉は鍛えないとつかないが、気力は貯めないとならないので、からっぱになった気力をこれから再び貯蓄しはじめる段階なんだろうな、と思うのだ。
ライブのあと、面会した方々の中に、ロンドンからやって来ていた人が多くいて、「ぜひ、ロンドンでやってほしい」という要望を受けた。
ランチ会の時に、ハンチングをかぶった一人の英国人紳士がいて、ぼくに近づいて来て、あなたの音楽がとっても好きだ、ロンドンでやってもらいたい、と言われた。
「実現するなら、やってみたいですが」とは返したが、バッキンガム宮殿からやって来たような風貌の紳士は、かすれた声で、何か一方的にライブの感想を語り続けていた。

退屈日記「祭りの後の静けさの中にいる父ちゃんなのである。再び熱血の道へ」



ぼくがホテルを去ろうとしていると、追いかけて来て、
「コンタクトをとりたい。メールアドレスを教えてほしい」
というので、携帯紛失マネージャーのMMが対応をしていた。
ぼくは迎えに来た車に乗って、先に、紳士の元を離れたのだけれど、ロンドンでライブ、という彼の言葉が耳に残ってしまった。
この人が何者かわからなかった。
思えば、数年前に、ぼくのライブの席にいたとある男性に「辻さん、オランピア劇場でやりましょう。オランピアへの道ですよ」と言われたのが、29日のライブ実現へのきっかけとなった。
不思議なことに、さっき、夜道を歩いていたら、ベルトランからメッセージが入り、
「欧州で小さなツアーをやれるといいね。ロンドンとか」
というので、ふきだした。
たぶん、いつか、そう遠くない日に、ぼくはロンドンでも歌うのかもしれないな、と今、新しい気力を取り戻しながら思っている。
或いは、この日記を読んだ英国の誰かが、イギリス人のベルトランのような立場の人を動かすかもしれない。
あの英国紳士が誰かと繋げてくれるのかもしれない。
でも、ともかく、ぼくはきっと次の電柱を探しているのだろう。新たな自分と出会うために、ぼくは、なみなみならぬ気力を取り戻しつつある、まさに、今は、そういうこの瞬間なのだ。

退屈日記「祭りの後の静けさの中にいる父ちゃんなのである。再び熱血の道へ」

退屈日記「祭りの後の静けさの中にいる父ちゃんなのである。再び熱血の道へ」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
人生って、動いているので、出会っていくので、変化していって、でもその中で、自分を高めるジャッジは自分だったりするので、面白いですね。
日本でのライブを「オランピア劇場」以上のものにしようね、と中原さんと話し合って、わかれました。オランピアでやれなかったことを京都劇場などで昇華させたいと思っています。

「辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ 2023」
Tsuji Acoustic Serenade From Paris 2023
現時点で決定している出演アーティスト:
辻仁成(Vo・Ag)/Dr.kyOn(Piano・Chorus)/ユン ファソン(Flugelhorn・Trumpet・Chorus)
各会場:
8/29(火)愛知・名古屋DIAMOND HALL
open18:00/19:00
8/30(水)東京・EX THEATER ROPPONGI
open18:00/19:00
9/3(日)京都・京都劇場
open17:30/18:00
さて、デザインストーリーズから、一般発売に先立ち、オフィシャル最速先行、のお知らせを行いします。特別に、「ぴあ」内に、このミニツアーの先行窓口が6月11日まで設置されています。
チケット購入を希望される皆さんは、下のURLをクリックお願いいたします。

https://w.pia.jp/t/tsujihitonari-k/

最速先行発売期間、5/30(火)09:00~6/11(日)23:59/日本時間



自分流×帝京大学

※ サンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンラインツアーの申し込みはこちら。

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