JINSEI STORIES
滞仏日記「弟子の小説を読んで、いろいろ厳しいことを言っちゃったァ。長谷っち、(-“-;(-“-; …アセアセ」 Posted on 2023/05/05 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ここのところ、忙しいのもあるけれど、本格的な料理をしなくなった。
手抜きではないが、やっぱり一人だと、愛情を傾けるべき相手がいないという意味だが、どんどん料理がシンプルになっていく。
それはそれでいいのだけど、大きなライブが近いし、やっぱり体力のつくものを食べないと乗り切れないので、メニューを工夫しながら、豪華ではないけれど、美味しくて簡単で栄養も摂取できる「一人飯」を心掛けている。
ただ、パリは事務所兼自宅なので、そもそも料理を作ろうという気にはならない。
食事というのは人数がいた方がいいので、今日は長谷っちが当番の日であったから、牛肉の薄切りを使い、「肉吸いうどん」をちゃちゃっと作って一緒に食べた。やっぱ、誰かと食べるのは心の健康上、いいことである。
食後、長谷っちに、
「ところで先生、パリに久しぶりに戻られたことですし、前回、お渡しした小説の感想といいいますか、一応、ぼく、弟子ですから、アドバイスを頂けないものでしょうか?」
と言われ、鼻からうどんが飛び出しそうになった。にゅる~。
ええと、この日記、長谷っちは必ず目を通さないとならないので、けなすことも出来ないし、褒めることも出来ない。うう、困った。
しかし、これは父ちゃんの「文章教室」なんかでも、やはり書いた方々を簡単に傷つけないで、でも、よくないところはきちんと気が付いてもらわないとならないので、講師がもっとも気をつかう場面なのであーる。
明後日の「小説教室」も課題は全部読んだのだけど、いい作品を選んで並べても意味がない。ですよね?
ここらへんの匙加減が難しい。
大学でも教えることになったが、大学生の側の気持ちになると、なかなか厳しい意見がいえない、ぼくはそういう先生なのである。
なので、「敷居のめっちゃ低い小説教室」などと言ってるのは、ある種の逃げ口実なのである。
ぼくの発言をそのまま受け止めてはならない。え?
長谷っちも、ぼくが「いいね。伸びしろがあるよ」と言ったからといって、安心してはいけないのである。えええ、そこまで書いていいんですかって?
弟子には厳しくしないと、日記作家なんだから、どうしようもないのである。
すでに、だいたいの親族は諦めているし、恒ちゃんとか、母さんとか、十斗なんかは、いつも書かれているので、慣れてしまった。
あはは、作家ってね、因果な商売なんですな。
「せんせー、いい加減、アドバイスをください。ぼくの小説、どうでした? もうすぐ、・・賞の締め切りなんですよ」
肉吸いが、あんなに、美味しかったのに、今、ちょっと現実に連れ戻されている感じがするのであーる。
もちろん、長谷っちの小説はちゃんと読んだ。
ずいぶんと時間が経っているので、一度、はっきりと言っておいたほうがいいだろう・・・。
彼はなぜなら、弟子だからだ。
弟子である以上、覚悟をしないと、・・・。
はっきりと言ってあげた方がいいのだ。ですよね?
「じゃあ、今回の作品は、正直に言いますと」
「言いますと?」
「ええと、ねらい目がね、ちょっと、違っていますかな」
長谷っちの顔がこわばった。ううーん、直球を投げられない。アウトコースの低めにきまるカーブで攻めた、・・・父ちゃんであった。
肉すいが、肉すいが今、ぼくの胃袋で青ざめつつあーる。いや、辛いが、ここははっきりと言わなきゃ・・・。
「ちょっと、待て。早まるな。これから言うことをよく聞いてほしい」
「・・・」
返事なし。
「なんでも、投稿をすればいいというものじゃないし、言っとくが、ぼくだって、何度か落選をしている。文学賞なんてものは掃いて捨てるほどあるんだけれど、どこを突破するのか、というのはプロの作家を目指す人にとって、大事な一歩なんだよ。日本だけでも200くらいの文学賞があるらしいから、もちろん、どこかは拾ってくれるかもしれない。でも、長谷川さん、どこでもいいわけじゃないでしょ? 今、あなたが期日までに送ろうとしている文学賞は、あなたの作品の本質、あなたの作家の本質とは大きく異なるものを求めている場所で、ぼくは違うと思うな。じゃあ、どこの文学賞か、というと、まだそれを決めるには、作品が中途半端というか、時間が足りてないというか、文学賞というものに囚われ過ぎていて、何を書きたいか、が固まっていない。そもそも、何を誰に向けて書きたいのか、自分はなぜこれを書きたいのか、あなた自身、つかめてなくはないですかァ~?」
顔色をうかがうように、丁寧に、優しく言ってみた。
すると、ギっと睨まれてしまった。
うわ、と思ったが、
「せんせー、そうなんです。実は、これでいいのか、悩んでいたのです」
という返事だったので、ひとまず、セーフ・・・。
ということで今日はランチ後、長谷っちの小説へのアドバイスに小一時間をささげた父ちゃんなのであった。
まず、主題が何か、どこを突破したいのか、どういう世界を描きたいのか、客観的な意見をずらりと並べてじっくりと話し合ったのである。主人公のキャラはこれでいいのか、家族構成とか、物語のそもそもの構造とか、タイトルも含めて、これでいいのか、あらゆることを検証したのであった。
そして、最後に、コーヒーも淹れてあげた、笑。
すると、長谷っち、
「せんせー、よくわかりました。今回は、応募をみ合わせます」
と納得してくれたのであーる。
しかし、それがいいかどうかは、最終的に、自分で決めなさい、とダメ出しをしておいた父ちゃん先生なのでした。はい。
人生はつづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ということでそんな父ちゃんが書き始めたばかりの、或いは、書き始める前の皆さんに、「敷居のめっちゃ低い小説教室」を開催いたしますので、ご興味ある皆さん、ぜひ、ご参加ください。父ちゃんなりの小説の書き方をご指導させていただきます。熱血で。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてね。めるしー僕。
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