JINSEI STORIES

退屈日記「息を潜めて三四郎と生きていたが、さきほど、ついに下に、動きが!」 Posted on 2023/04/22   

某月某日、アパルトマンではギターも弾かず、歩く時も抜き足差し足で行動をしていた。
隣人ともめると、ここで生きていけなくなる。なので、ぼくは沈黙していた。
息を潜めて生きた父ちゃんとその相棒の三四郎であったが、先ほど、動きがあった。
夕方、下の階のドアが開いたり閉じたりする音が聞こえてきたのだ。もしや、と思って耳を澄ませた・・・。
僅かに開いていた窓から下を覗いてみると、まず、カイザー髭の奥さんのハウルの魔女さまが小型トランクを持って館から出てきたのであーる。
「え、やった。帰るんだ!」
思わず、声が飛び出してしまい、背後にいる三四郎をふりかった父ちゃんであった。
その直後、下の階のドアが大きな音をたてて閉まったのであーる。あれは、帰るぞ、という息子氏からのメッセージと、ぼくは受け取ったァ。
5分後、うちの扉をバンバンバンと叩いたカイザーさんの息子さんがやはり荷物を持って館から出てきたのである。
でかい人だった。意外なことに、クリントイーストウッド似の中年男性だった。
おお、かっこいいね。

退屈日記「息を潜めて三四郎と生きていたが、さきほど、ついに下に、動きが!」



道の反対側にとめてあった車に乗り込み、なんと、発車したのである。
彼は車に乗り込む前に、ちらっとこちらを振り返ってぼくを一瞥した。ぼくらはほんの一秒間、目が合った。
でも、ぼくは素知らぬ顔をして、海へと視線をそらした。
でも、心の中では、よかった、と安堵していたのである。
やっと、自由に歌うことが出来る。
車が坂道を下って、見えなくなるまで見送ってから(ぼくは小さく手を振っていた)、横にあったギターを掴んで、じゃらーん、とならしてみるのだった。
じゃじゃじゃじゃーん!!!
ひゃっほー、と叫んでみた。
やった、今、この館にいるのはぼくと三四郎だけなのだ。やっと、自由の身だァ!
ぼくは思う存分、歌った。そして、歌い終わると手紙を書いた。
「ムッシュ。先日は、あなたのご子息にご迷惑をかけてしまいました。本当にごめんなさい。静かだったので、誰もいないと思ったのです。そして、私は5月29日のライブまでここで歌の練習をするつもりでいます。この手紙をドアの下に挟んでおきます。その間にご到着されましたら、私にSMSですぐに教えてください。ここでの練習はやめ、海での練習に切り替えます。あなたのご協力と寛大さに感謝をします。TSUJI」
こういう手紙を書いて、それを、ドアの下に忍ばせたのであった。
もし、カイザーさん一家が週末に来ることがあれば、すぐにぼくに連絡があるはずだった。連絡がなければ、無制限に、歌い放題ということになる。
こういうことはちゃんとしておいた方がいいのだ。

退屈日記「息を潜めて三四郎と生きていたが、さきほど、ついに下に、動きが!」



ぼくは食事も忘れて歌の練習に没頭をした。
海での練習も素晴らしかったが、やはり、自分のアパルトマンが一番歌いやすい。
客席を海側にイメージし、夕陽を見ながら、かもめの観客へ向けて大声で歌うのだった。
息を潜めて海で練習をしたこの2,3日が嘘のよう晴れ晴れとした気分であった。(でも、海で歌ったことで、ちょっと声量が伸びたような気もする)
そこに、レテシアから写真が届いた。
マドレーヌ寺院の地下道でぼくを見つけた、というのだ。「一緒に写真を撮ったから、送るね。ライブが楽しみ」と添えられてあった。
フランスのママ友も応援してくれている。ここは何が何でも最高のショーにしないとならない。ここから、まだ一月の猶予の時間がある。
思う存分、練習に集中していきたい。
えいえいおー。

退屈日記「息を潜めて三四郎と生きていたが、さきほど、ついに下に、動きが!」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ストレスが一つなくなり、朝は鬱でしたが、気分が少し晴れやかになりました。人間というのは孤独になったり、不安になったり、自由を感じたり、楽しくなったり、いろいろとありますね。自分の振れ幅を噛みしめながら、前進していきたいと思います。
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退屈日記「息を潜めて三四郎と生きていたが、さきほど、ついに下に、動きが!」

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