JINSEI STORIES
滞仏日記「マリオがいきなり、ねっけつ~、と叫んだ。読んだな、日記を!!!」 Posted on 2023/04/17 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、午前中、カフェ飯教室の本番の前に三四郎との日常を撮影していたところ、長年愛用してきた自撮り棒がボキッと折れてしまった。
おお、我が自撮り棒どのよ・・・。
この自撮り棒、思えば、NHK・BSの「パリごはん」第一回目の撮影(2021年2月)の時に購入したものだった。
数々の番組をこれ一本で撮影してきたのである。現在第7シーズンを撮影中で、いわば、父ちゃんの相棒なのだった。
動き回る三四郎との日常の一コマを撮影している最中の出来事であった。ボキっ・・・。
「うああああ」
と声が飛び出し、三四郎が父ちゃんを振り返った。
三四郎にも何かが壊れたというのがわかるようで、暫く、じっと自撮り棒を見ていた。
この自撮り棒は本当に大活躍であった。(今は進化した二代目があるので、撮影は続行できる)
でも、心にぽっかりと穴があいたような寂しさが広がった。ぐすん。製作会社の人もいない、ぼっちな撮影現場、ぼくは時々、自撮り棒に話しかけていたっけ・・・。
あの数々の名場面(笑)をこの自撮り棒が支えてくれたのである。NHKの1時間番組を7本も、自撮り棒一本で、す、すごい。元がとれ過ぎではないかってぇぇ?
そういう問題じゃないんだ。心が痛いんだよー、(´;ω;`)ウゥゥ・・・。
そんなこともあって、食事もしないまま、地球カレッジ「カフェ飯教室」がスタートしたのであった。
悲しみに暮れている場合ではなかった。
はじまると、もう、オンラインライブは止められない。
アミューズが「グージェール」、前菜が「白アスパラのブラータチーズ&ポーチドエッグ載せ、オランデーズソースがけ」、メインが「鯛のポワレ、白アスパラのリゾット」、そしてデザートが「いちごメルバ」であった。
1時間45分ほどのオンラインライブだったが、さすがにくたびれた。
どんなものであろうとライブは疲れる。ライブ終了と同時に、事務所で待っていたバイオリンのマリオとのミーティングが始まった。忙しい。
昨日の日記に書いた通り、マリオの情熱が凄まじいので、彼が押し掛けてきたのである。「自分が辻仁成のオランピアライブを成功に導きたい。自分にはその能力がある。ぜひ、アレンジをやらせてくれ」というのである。
まだ、30代の若者だけれど、実に、ガッツと野心がある。才能もあるのだ。ポーランドのクラシック音楽祭で金賞を受賞している!
するといきなり、
「ねっけつ? ねっけつ、で発音いいの? ユーアー熱血マンでしょ?」
と言い出した。
「マリオ、なんで、知っとると?」
と驚いた父ちゃんであった。
「辻さん、日記に書いたでしょ? ゆきこさんから聞きました。あなたのモットーは日本語の熱血なんですよね?」
あはは、やられた。ゆきこさんは、マリオの友人である。
ゆきこさん情報で、ぼくの日記を読んでるのかもしれない。昨日の日記も読んだのかな?う、うかつなことは書けない。
「一つ、訊きたい。あなたのライブは熱血になるのか、それともクールな大人のライブを目指すのか?」
「マリオ、俺は死ぬまでロッカーだよ、熱血に決まってる」
すると、マリオはニカっと笑って、こう言ったのだ。
「ぼくを信じてほしい。ぼくはあなたの熱血をサポートする。でも、会場はオランピアだ、そんじょそこらの会場じゃない。ちゃんとやらないとダメです。何があっても、最高のショーにしなきゃ。あなたの人生をかけて。だから、ぼくを信じて、ぼくにアレンジを任せてほしいんだ」
マリオは才能のある青年だ。映画音楽も手掛け、ブロードウェイでも活躍した。
「マリオ、羨ましい。君には未来しかない」
「辻さん、あなたには過去があるじゃないか。たくさんの」
あはは。笑った。
「でも、辻さん、未来と過去が力をあわせて、現在を作ればいんですよ。辻さんのオランピアを最高のショーにしましょうよ」
ぼくは疲れていたが、その瞬間、目が覚めた。
めっちゃ嬉しくなったので、「カフェ飯教室」で作った、実は、寝る前に食べようと思っていた「いちごメルバ」を彼にあげることにしたのである。
「うわ、うまい!!!」
若者は純粋に喜んでいた。
「どうやって作るの?」
「過去を一生懸命生きていると、こういうのを作ることが出来るようになる。お前も頑張れ」
未来と過去が力を合わせて現在を作るって、すごい言葉だな、と思った。
マリオ・フォルテ、君の力を借りることにする。
ムーチョ・グラシアス!!!
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
また、一人、ぼくのようなロートルをリスペクトしてくれる男が現れました。昨日まではぼくを邪魔する存在だと思って、頭を痛めていたのだけど、そうじゃなかった。ゆきこさんにも、感謝。彼もまた熱血マンだったのです。マリオが持っているイタリアのオーケストラの映像を観ましたが、実にエネルギッシュで素晴らしかった。なぜ、こんなぼくに力を貸してくれるのか、謎ですけど、でも、ありがたく受け止めましょう。最高のライブ、そうだ、きっと一生で一度の最高の一夜になるでしょう。死ぬまで熱血でいきます。
5月29日、オランピア劇場、近づいてまいりました。フランス国内、もしくは周辺国にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。日本からは遠いですから、来ていただきたいですが、時間がせまってきましたから、ご無理はさせられません・・・。無理のない範囲でお願いします。あ、席は絶対売り切れませんので、当日券山ほどあり、ご心配なく・・・。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。
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https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/
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もしも、日本から行きたいけど、不安という皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。現在、日本から50名くらいの方が来るだろうという予測です。本当に、大変なところありがとう。必ず、いいステージにしますね。約束!!!
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ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。
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https://linkco.re/2beHy0ru