某月某日、新聞と本を買いたくて、あ、それと絵具が切れたので、ちょっと大きな港町まで出かけた。そこには美味しいパン屋があるので、画材と新聞を買った帰りに、立ち寄ったのだ。
今、フランスは、イースター三連休で、ノルマンディはもの凄い人、人、人・・・。
パリから、電車だと2時間ちょっとだから、いつもは人が歩いてない通りが、パリジャンで賑わっている。当然、パン屋も行列だ。
ぼくの前におじさんとおばさんがいて、そのおじさんがおばさんに、
「ここのパン屋はいつも待たされるんだよ」
と小言を言った。けっこう、聞こえるような声で・・・。
すると、レジを打っていた女将さんがおじさんではなく、若い店員さんをギロっと見て、
「聞いたかい？　うちはいつも待たされるらしいよ。待つのが嫌なら、よそいけばいいのにね。ふん」
と言ったのだ。
ひゃあああああ、怖っ。
この人はちょっと怖いな、と思っていたのだけど、やっぱり、筋金入りであった。
面白いのは、その後の、客や店員さんの反応・・・。
おじさんの横のおばさまも、普通にしているし、ぼくの後ろのおばあさんを振り返ったのだけど、笑いもせず、じっとパンに視線を落としていた。もちろん、店員も・・・。
ぜったいにそこの店にいた人全員に聞こえているはずなのに、みんな、何事もなかったかのような態度なのであーる。怖い～。
しかも、・・・。

文句を言ったおじさんは、若い店員さんに、
「クロワッサンを二つね」
と何事もなかったかのような声音で注文している。怒って帰ればいいのに！
怖い女将さんもそれ以降は何も言わず、黙々と、仕事をしていた。
あきらかに、爆弾が落ちたのに、みんな普通を装っている。ぼくだけが、ひゃああ、という顔をして、下を向いてドキドキしてしまった。
最近は慣れたが、これがフランスなのである。
日本だと、お客様は神様です、という感じの接客が普通だが、フランスは対等。
よく行くアジア系のレストランがあって、並んでいたら、そこの女将さん（クレールさん）が客（男性）ともめだした。
ようは、遅いし対応が悪い、と男の人が文句を言い出したのだ・・・。
女将さんも負けずと大声で、「混んでるんだから、しょうがないでしょ」と自分を主張した。
満席だったが、ぼくの席まで二人の口喧嘩が聞こえてきたのだ。
すると、中からクレールの夫（シェフ）が出て来て、
「帰れ、二度と来るな」
と低い声で怒鳴りつけた。
すると、文句を言っていた男性はくるっと方向転換をして出ていった。さすがに、もう二度と来ないだろう。
で、面白いのは、やはりここのお客さんたちなのだけど、誰一人、そこにかかわらないのである。見もしないし、話題にもしない。
何事もなかったかのように、ご飯を食べているのだ。
そこの対応がどうであろうと、美味しければ問題はないし、もめているのが自分じゃなければ、関わらないという姿勢である。
これがフランスなのだった。
売る側も媚びないし、客も関わらない、店と客は対等なのである。
渡仏したばかりの頃、この差がよく分からなかった。
感じのいい店というのは、だから、ほとんどない。
主張してくるし、嫌なら来るな、ということなので、行かなくなった店はけっこうあります。あはは。

そういえば、最近、ちょっと、行けなくなった店がる。
仲良しのジェレミーのカフェレストランに三四郎を連れて行ったら、
「あのー、わんちゃんは遠慮してもらってるんですよ」
と言われた。浮かない顔で・・・。
大の仲良しなのに・・・。今まで三四郎、オッケーだったのに。ショックだ～。
申し訳ない、という顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。きっと、他のお客さんと、犬のことで何か揉めたのだろう。
実は、先月、そこに行った時、店がしまっていたので、ぼくのライブのフライヤーをドアに挟んでおいたのだ。観に来ることが出来なくても、友だちだから、知らせたかった。
ジェレミーは日本好きだし・・・。
ぼくが帰ろうとしていると、奥さんがやって来て、
「見て、ここに貼っといたわ！」
と笑顔で言ったのである。
ふりかえって入口の上を見ると、なんと、ぼくのフライヤー！

奥さん、満面の笑みであった。
やっぱり、仕方ないことは仕方ないことだから、これとそれを一緒くたにしちゃいけないんだ、とぼくは思ったのであった。
2人に手を振り、店を離れた。
残念だけれど、犬が入ることが出来る新しい店を探さなければならない・・・。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
でも、こういう人間関係にもすっかり慣れてきました。ま、あまり深入りしないで、お互い気を使わないでいいので、慣れれば楽です。ぼくも嫌なら行かないでいいし、ひきずらないでいいので、あはは、・・・。
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