JINSEI STORIES

退屈日記「屋根裏部屋で父ちゃんは毎日、油絵を描いている。置き場所がないほどに」 Posted on 2023/04/01 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、小学生だった頃、美術の先生に、「辻は絵を描くべきだ」と言われたことがあった。真剣に・・・。
でも、ぼくはミュージシャンになりたかったので、筆は持たなかった。そしたら、宮沢先生が、残念だな、と落胆されたのだ。よく覚えている。
小学校の6年生のことだった。
でも、ぼくはこっそりと趣味で絵を描いてきた。
絵は好きだったので、漫画も描いていたし、水彩画も、油絵も描いてきた。
ぼくがノルマンディにアパルトマンを買ったのは、ここで絵を描くためでもあった。
描いた絵は画家の友達や画廊主やキュレーターさんに見せた。けっこう、評判がいいのだ。あはは。評判がいいだけだけど・・・。
個展をやらないか、と誘われたこともあったが、これ以上忙しくなるのはめんどうなので、お断りした。勿体ない話だけど、身体は一つなのだ。
でも、描くことは終わらないので、作品だけが、どんどんたまっていく。
ぼくの絵はちょっと不思議な絵で、阿修羅を描き続けているのである。
ここはノルマンディなので、ノルマンディの世界に仏とか鬼が登場してくる。
ウクライナで戦争がはじまると、ぼくの筆はどんどん冴えて来て、毎日、変な絵が出来上がって、部屋の一角を埋めてしまった。
置き場所にこまってきた。
やれやれ。
ぼくが死んだら、誰か、世の中に出してやってほしいな・・・。

退屈日記「屋根裏部屋で父ちゃんは毎日、油絵を描いている。置き場所がないほどに」



ぼくはエネルギッシュだけれど、時々、死にたくなる。
世の中を悲観してではなく、自分に疲れ果ててしまって・・・
今日も、ちょっと、危なかった。
でも、死にたくなると、ぼくは絵を描く。すると、描き終わる頃には、なんとなく生きてやるか、となっている。ぼくの作品には、鬼とか仏がいっぱい出てくるのだ。
ノルマンディの景色を眺めながら、描いているのに、カンバスには鬼とか仏様ばかりが溢れていく。そういう画風なのである。
でも、絵を描いていると死にたいという気持ちが消えていくのも事実で、不思議である。
今日、日本の絵の専門家の人に、たまたま、ぼくの絵の写真をおくったら、思わぬ返事が戻って来た。ぼくは画家になるつもりはないので、でも、その人はせっかく書いた絵をそこで人知れず置いておくのはもったいない、と言い出した。
3,4枚、描いた絵を送った。
絵は趣味だった。
日記などでたまにイラストを描くけれど、ぼくは油彩画が好きなのだ。
炭と油絵具を使った、ちょっと不思議な絵なのだけど、でも、たぶん、一般の方々に、理解してもらえるようなものでもない。
シャガールとかモネのような万人に受ける絵ではないのだ、怖いよー。
何せ、阿修羅とか鬼の絵がほとんどだからである。
だって、死にたくなるから生きるために描いている絵だからである。
ぼくの知人にも今日、その絵を送った。みんな驚いていたので、何かある絵なのかもしれない。実は、こんな絵が、地下の倉庫にごろごろ、転がっていて、中には、黴てるものもあるのだ。
時間が出来ると夢中になってカキナグッタ作品なので、生きる証のような絵である。
いつか、もしかしたら、日の目を見ることがあるかもしれないけれど、何十枚とあるので、どういうことになるのだろうね。あはは。
でも、きっと明日も描いていると思う。
その前に、小説を書けよ、と編集者さんには怒られそうだ。

退屈日記「屋根裏部屋で父ちゃんは毎日、油絵を描いている。置き場所がないほどに」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
30年前に、大きなカンバスに阿修羅を描いたのが始まりで、その絵は、地下室に眠っているのです。小さい絵とか、大きな絵とかいろいろとあるのだけれど、一度、整理しないといけないかもしれない。ところで、こんなぼくって、いったいなんだろうね。
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※初回放送 2023年2月17日

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退屈日記「屋根裏部屋で父ちゃんは毎日、油絵を描いている。置き場所がないほどに」

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退屈日記「屋根裏部屋で父ちゃんは毎日、油絵を描いている。置き場所がないほどに」

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