JINSEI STORIES
滞仏日記「禁酒中の父ちゃんを誘う悪友、アペロセットが豪華すぎてぎゃふんの巻」 Posted on 2023/03/28 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、禁酒が辛いのであーる。
禁酒を宣言したのはいいのだけど、どこでご飯を食べても美味しくないのだ。
自宅に戻って牡蠣パスタを拵えたのはいいが、牡蠣といえば、白ワインじゃないか。
禁断症状が出た。どういう禁断症状とかというと、ワインがないのに、牡蠣皿の横に空っぽのワイングラスを用意してしまった、父ちゃんなのであったぁ。
ワイングラスをそこに置いた記憶がないのであーる。
ということは、禁断症状みたいなもの、もっと言えば幻覚かもしれない。やば・・・
お酒をやめてどのくらいの日数が経ったのかわからないが、ねん挫をしてからだから、すでに半月ほどが過ぎた・・・。これはすごい。
途中で呑んだのはサンマロで、リンゴジュースとまちがえて飲んだシードルだけ。(?)
新記録達成中だけれども、苦しい。ふとした瞬間、ビールをぐびぐびと飲んでいるイメージに眩暈を覚えてしまうのだ。
アルコール断ちをしたせいで、幻の妻も出現しなくなった。あはは。
何が辛いって、まず、食べ物がおいしくないのである。
ああ、これはなんのための禁酒なのであろう。
こんなに辛い思いをしなくても、コンサートはぜったいよくなるし、ここまでストイックにやる理由がほとんど分からない。
自分を恨んだ。
こうなると、ご飯を作ろうという気力さえ、おきないのである。
牡蠣もただヨード感が強いばかりで中和するためのワインがないから、中途半端だった。
不味い、不味い、ちっとも面白くないのであーる。
友だちのジャン・フランソワから、海カフェにいるんだけどお茶でもしようぜ、とメッセージが入った。
「禁酒中なんだよ」
「コーヒー飲んでればいいよ。待ってるからな」
ちょうど三四郎のポッポ(うんち)タイムだったので、出かけることにした。
海カフェに着くと、テラスの席にジャン・フランソワが陣取っていた。
しかも、しかもであーる。すでにワインを飲んでいるじゃんか!
ぼくが禁酒中だって知っているくせに!
しかも、なんと、なんと、テーブルの上にミックスの豪華なプランシュ(プレート)がどーんと置いてあるゥ~!
ええええ、なに、この豪華なプレート!!!
※ ハムがパルマとブレザオラ、もうひとつは名前が思い出せないのだけれどイタリアのサラミ系で、かなり辛い。チーズは右上からリバロ、左がポンレベク、下がカマンベールの三種。サラダとパンとバターがついて、19,50ユーロなり。
「ジャン・フランソワ、これ、どうした?」
「いや、だから、君の禁酒のお祝いに、盛大なものを頼んどいた」
「ふざけんなよ。人が真面目に禁酒しているというのに」
「まあまあまあ。別に、これはお酒飲まない人も食べるじゃないか、いわば、つまみだよ」
「つまみって、ワインとかビールに最高じゃん」
「それは君が選んだ道だから、君の問題でしょ?」
「えええええ」
「別にビールとか飲まないでも、ペリエで大丈夫だよ」
「君は何を飲んでるの?」
「サンセールの白」
そこに店のマスターがやってきた。
「ハロー、ムッシュ、今日は何にします? ビール? シャンパーニュ? 白ワイン?」
ぼくは(・∀・)ニヤニヤ笑っている二人を睨みつつけてやった。どうやら、二人はグルのようである。
「あれ、ください」
「あれ?」
「あれって、もしかして、あれ?」
「違う。シードル」
2人が驚きの顔を浮かべた。
「しーーーーーーーーどるーーーーーーー?」
そんなものを飲むのか、という顔である。
その直後、二人が噴出してしまった。
「アルコール度数5%以上のお酒を禁止しているのだ」
「なんのために?」と店主。
「ライブの、願掛けだよ」
「意味がない」とジャン・フランソワ。
「そんなことはない。ダイエットにもなる。引き締めた身体でかっこいいライブをやりたいんだよ」
「いや、貫禄があった方がいいよ。今更、痩せても」
そういうと、ジャン・フランソワはフォークでブレザオラを突き刺し、ぼくの目の前に差し出した後、自分の口へと運んだ。そのあと、白ワインを舐めた。ぐぐぐ・・・。
「ふわあああ、最高だ」
ぼくは目を細めた。く、くっそー。
「うちのブレザオラは最高なんだ。ハムは全部、イタリアから」と店主。
「マスター、ちょっと一緒に飲もうよ」とジャン・フランソワ。
「いいね、一杯だけ」と空のグラスを手品のように取り出した。
「そんなぁ?」と驚く父ちゃんであった。
マスターの奥さんが、シードルを運んできた。
「ノルマンディ産のシードルよ」
この店のシードルはボレ(ボール)に入っている。ようはお茶碗みたいなものに、入れられて出てくるのである。
林檎の香りがした。舐めてみたが、めっちゃ甘い。やばい。
「美味しいだろ?」と笑う店主。
「シードル好きなんだよ、ありがたい」とぼく。
テーブルの下から三四郎が顔を覗かせていた。
試されていた。人生を試されているのである。
しかし、ここで、負けてワインを飲むわけにはいかないのだった。
ぼくはボレを掴み、抹茶を飲むように、ボレを三回転させてから、一気に飲み干したのであーる。
美味しい! シードル、最高。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
シードルもいっぱいだけでやめておきました。よくぞ、堪えた父ちゃんでございましょ?しかし、それにしても、お酒の誘惑は酷すぎますね。あと二か月、頑張らないと・・・。
さて、そんな禁酒中の父ちゃんですが4月16日に「カフェ飯教室」を開催いたします。白ワインに最高のフルコースを!えへへ。そして、5月7日は「小説教室」です。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。
それから、再放送のお知らせ。
「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022秋冬」
【BSP/BS4K】4月2日(日)後4:30~5:29
※初回放送 2023年2月17日
※BSP4K同時
(4Kは選抜高校野球決勝が順延した場合、この日に中継が入ってくる可能性があり
休止とさせていただく可能性があります。あらかじめご了承ください。)
それから、もう一つのお知らせ。
オランピア劇場ライブの翌日、日本からお越しの皆さん、JALパックさんがパリの(父ちゃん推薦の)レストランでランチ会を開催します。父ちゃんも、ライブの翌日ですがちらっと顔を出しますので、パリ旅行を計画されてる皆さん、チェックしてみてください。
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エディットピアフも立った。ビートルズも立った。ローリングストーンズも、マドンナも、スティングも立った。オランピア劇場でのライブが近づいてきました。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。
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https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/
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フランス国内、もしくは周辺国、あるいは世界各地にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。旅慣れていない皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。
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https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/
ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。
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