JINSEI STORIES

滞仏日記「ついに登頂!モンサンミッシェルの山頂修道院、大公開!ミカエル大天使に会いました」 Posted on 2023/03/27 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、降ったり止んだりの島の天候なんのその、父ちゃんは午後、一人でモンサンミッシェルの山頂にある修道院を目指した。その修道院の上、海抜150メートルのところに、大天使ミカエルがいる。
ホテルを出たところでフランス人のご年配のマダムたちと一緒になった。
「あなた、足を引きずっているけど、大丈夫?」
「ええ、ちょっとねん挫をして」
「ここからけっこう、のぼらないとならないから、気を付けて」
「この道でいいんですか?」
「突き当りを右よ。先にのぼっているわね。山頂で会いましょう」
「はい」
マダムたちは、力強くのぼっていった。
ぼくは、ねん挫した足がちょっと痛む角度なので、休み休み、のぼることになった。
のぼりはじめた時は、小雨が降っていたが、途中で止んだ。
どの階段からのぼっても、最後は同じ大階段につきあたる。そこをのぼると、チケット売り場があるのだ。11ユーロを払わないとならない。
そこからは決められた経路を歩いていく。
広かったり、狭かったり、急だったり、ゆるやかだったりする様々な階段をのぼると、修道院へと通じる、けっこう広い展望台のような踊り場に出る。正面から見上げると左側の山頂付近にある。
晴れているのに、降っていた。降ったり止んだり・・・。忙しい。
人々はそこから水平線や、地平線を眺めることが出来るのだ。
再び打ち付ける雨が降り出したが、カップルが、撮影していた。
ずいぶんとのぼったので、足がちょっと痛む。ベンチに腰掛けて、一休みすることに。
ふー、自動販売機とかは、ない。あるわけないか・・・。

滞仏日記「ついに登頂!モンサンミッシェルの山頂修道院、大公開!ミカエル大天使に会いました」

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目の前に教会が聳えていた。
塔頂にミカエル大天使がいる。
中に入ると、荘厳な教会であることに驚かされる。
こんなすごいものを千年ほど前に、ここに造ろうと考えた人たちがいたことがすごい。
教会に入り、手を合わせた。
ぼくは、世界が平和を取り戻せますように、と祈った。
人類がどんなに豊かであろうと、その豊かさは、この世界が平和の上に成り立ってはじめて、意味が出てくるものなのである。
第三次世界大戦前夜のようなこのような時代に、何かをお願いするとしても、その根底が平和でないかぎり、ぼくらの夢も希望も実現が難しいのだ。
まず、平和な世界を、とぼくは祈った。それ以外のお願いは思いつかなかった。
平和があってこそのぼくらの日常なのである。
ぼくは左手にある、経路に沿って、教会を出た。
そこにこのモンサンミッシェルでもっともぼくが愛する場所が待ち受けている。
小さな門を潜ると、ぼくの目の前に緑が広がった。
このような岩の要塞の山頂に、まさか、ここまで美しい場所が用意されているとは思わない。
最初にここにたどり着いた時、ぼくは感動をして涙が出そうになった。
穏やかな、美しい時間がながれている。

滞仏日記「ついに登頂!モンサンミッシェルの山頂修道院、大公開!ミカエル大天使に会いました」

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美しい回廊に囲まれて、その中心に、芝生の中庭がぽつねんとある。
穏やかな気が流れている。
ちょっと回廊の石のベンチのような場所に座っていると、先ほどのマダムがやってきて、
「あら、ムッシュ。無事に着いたのね」
とぼくに笑顔を向けてきた。
実は、他に二人のマダムがいるのだけれど、そっちの人はそっけないのである。あはは。
でも、このちょっとふくよかなマダムだけがぼくのことを案じてくれた。それがとっても嬉しかった。理屈はない。
「大丈夫だったみたいね、少し休んで、ゆっくりと下山してください」
「ありがとうございます」
「ちょっといい? あなた、日本人?」
「ええ、そうです」
また、訊かれた、と思って思わず笑顔になった。
「昨日、わんちゃん連れだったでしょ? ミニチュアダックスフント」
「ええ、そうです。サンシーという名前なんですよ。今は、部屋でぼくの帰りを待っています」
「わたしも、昔、飼っていたのよ、同じ色の犬を」
マダムはふくよかな笑顔を向けて、そう告げた。いい人だというのが分かる。
「ARIGATO」
ぼくは日本語でお礼を言った。その人は笑顔になって、そこから去って行った。
そのわんちゃんはどうなったのか、訊くことが出来なかった。
三四郎を大事にしなきゃ、と思った。

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ずいぶんと長い時間、ぼくは回廊で過ごした。
そこから、見上げると、すぐ目の前に、ミカエル大天使が拝むことが出来る。
黄金色の綺麗な天使であった。
ほんとうは、日が暮れるまでそこにいたかったけれど、三四郎のことがあったので、下山することにした。
帰りの経路は再びチケット売り場を通り、お土産屋を通過し、反対側からおりていくもう一つのコースであった。
城壁の小道をゆっくりと降りて、三四郎が待つホテルの部屋へと戻った。
相棒は尻尾をふって、ぼくを待っていた。

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※ 途中から快晴になった!!!!

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つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
魂が洗われるような静かな経験でした。また、新たな気持ちで生きていこうと思いました。
フランスに来ることがあれば、ぜひ、島の中に一泊して、この山頂の修道院までのぼってみてください。その価値以上のものがありますよ。何せ、千年の作品ですから。
さて、4月16日に「父ちゃんのカフェ飯教室」を開催いたします。5月7日には久しぶりの「父ちゃんの小説教室」を開催します。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてくださいね。
新刊「自分流」(光文社刊)もよろしくお願いいたします。

地球カレッジ

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オランピア劇場ライブの翌日、日本からお越しの皆さん、JALパックさんがパリの(父ちゃん推薦の)レストランでランチ会を開催します。父ちゃんも、ライブの翌日ですがちらっと顔を出しますので、パリ旅行を計画されてる皆さん、チェックしてみてください。

エディットピアフも立った。ビートルズも立った。ローリングストーンズも、マドンナも、スティングも立った。オランピア劇場でのライブが近づいてきました。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。

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フランス国内、もしくは周辺国、あるいは世界各地にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。旅慣れていない皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。

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ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

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自分流×帝京大学