JINSEI STORIES
パリ日記「家から出られないし、動けないし、しばらくは絶対安静な父ちゃん」 Posted on 2023/03/13 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、とりあえず、捻挫だったので、一週間くらいで腫れは引くだろうということであった。湿布薬と炎症を抑える薬を頂いた。ただ、今は足と手の炎症からくる熱があって、ちょっときついのは確かだ。ベッドに横になり、じっとしているが、片手が使えないので、料理が出来ない。とはいえ、外に食べに行くのも出来ない。UBERイーツというのもね・・・。
長谷っちに買い物をお願いした。
「先生、災難でしたね。でも、さんちゃんをかばっての事故じゃ、しょうがないすね。週内のZOOM会議とかどうされます? 19日の文章教室は大丈夫ですかね?」
「大丈夫、できるよ。足と手以外はいたって健康だからね」
「ミュージッククリップの追撮、やめときますか? 金曜日に」
「あ、それは出来ないから来週以降に」
「あと、来週、チャールズさんたちとサンセールにワインの試飲会に行くって話がありませんでしたっけ?」
「ああ。ありました。それはキャンセルします。運転、何かあったら大事故になるからね」
ということで予定がいろいろと狂ってしまった。
「さんちゃんを守るのも大変ですね」
「先生、これからもずっとさんちゃんは先生に付きまといますよ」
「わかってる」
「さんちゃんのめんどうをずっと見続けないといけませんよ。さんちゃん、足腰弱いからそのうち立てなくなるし。先生よりもよぼよぼになりますよ」
「長谷っち、なんで今、ぼくを脅かすの? 熱だして寝込んでいる人間の前で」
「いえいえ、先生は生き物が好きだから、大丈夫だとは思いますが、弟子の老婆心です。こんなことでめげないで、もっともっといろんなことが降りかかって来るのだから、がんばってほしい、という応援です」
やれやれ。長谷っちめ。
※ あまり食欲がないので、カップレーゼを作った。
しかし、確かに、三四郎は我が家にやってきて、一年以上が過ぎたが、ぼくに心配をかけるのだけは一流なのである。
小犬だけど愛犬なので、ほっとくことが出来ないのである。
長谷っちが言うように、確かに、時々、投げ出したくなることもある。階段で蹲った時には、三四郎、いい加減にせーよ、ライブできなくなるじゃん、と思った。
でも、この子が元気に走り回っているのを見ると、よかった~、と思うのである。
ぼくの身体が悪いのをわかるからか、足を引きずって歩いていると、心配そうな顔をして、後ろからついてくる。
ぼくがベッドに倒れこむと、寝室の入り口から、覗き込んで、様子を見ている。
三四郎は寝室と仕事部屋には入れないのである。仕事部屋においてあったケーキ(パリブレスト)を全部食べてしまったことがあったので、それから禁止区域を作ったのである。
彼にとって、ダメなものもあるとわかることがまず大事なのだ。
昨日、トイレに行きたくなり、夜中に5分かけてトイレまで行った。真夜中だったけれど、三四郎がぼくの気配に気が付き、起きて、くっついてきた。トイレから出ると、月光の光をまとった三四郎が廊下でぼくを待っていた。パパしゃん、大丈夫ですか、という顔をしている。マジで、癒される瞬間であった。
長谷っちが、ケーキを買ってきてくれた。
「先生、甘いものを食べたら気分がかわります。これでも食べて元気を出してください」
「おお、チョコレートタルトじゃないか」
「これはぼくからのお見舞いです」
長谷っちも口は悪いけれど、いい奴なのである。小説を読んであげないと・・・。
※ 三四郎は2,3日、長谷っちが預かってくれることになった。大丈夫と言ったのだけど、ちょっと治すのに集中してください、ということで。優しい・・・。
三四郎が我が家にやって来て1年3か月ほどの歳月が流れた。
最初の日は寂しさから「一緒にいてよ」と吠えまくっていた。ピッピとポッポ(おしっことうんち)も家の中でしまくっていた。特に十斗の部屋の前で頻繁に。十斗がそれを踏んずけたこともあった。
今は滅多に吠えない。ピッピとポッポも外でしかしない。もちろん、食事の時はぼくの足元にやってきて、ぼくをじっと見上げている。人間の食べもの、あやかろうとしているのである。
ぼくが食べ終わるまでじっとしていたられたら、犬のおやつ(特別な奴)をこっそりとあげるようにしている。彼はそれで満足なのである。
ぼくも満足なのである。
でも、長谷っちの警告ではないけれど、これから先、今回のような大変な事故が頻繁に起きるかもしれない。
弟子の老婆心はちゃんと受け止め、ぼくはどのような事態が訪れようと、しっかりと三四郎を守って行こう、と肝に銘じた。
昨日は熱も出たし、身体も怠く、辛かったけれど、お薬が効いて、ちょっと良くなってきた。
文章教室までには元気になって、皆さんの前に姿を現したい・・・。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
こういうこともありますね、生きていると。昨日の日記はめっちゃ短くて、ごめんなさいでした。休むと心配されるだろうし、パソコンに向かうと熱っぽくて・・・。何せ、痛みと倦怠感で集中できないのです。でも、今はだんだん痛みが緩和されてきて、文章に向かうことが出来ます。それがとっても嬉しい父ちゃんなのでした。ということで、19日の日曜日、「父ちゃんの気まぐれ文章教室」が開催されますよー。文章書くのが大好きな皆さん、課題は締め切りましたが、課題の提出関係なく、分かりやすいヒント満載の熱血講義になりますので、ご参加くださいませ。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてください!!!
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