JINSEI STORIES
滞仏日記「恋愛観を聞かれ、苦笑した父ちゃん。愛の後にくるもの」 Posted on 2023/03/09 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、先日、とある人に「辻さんの恋愛観を聞かせてください」と言われた。
ぼくは思わず、苦笑、してしまった。
ママ友たちにも、よく「恋でもしてみれば」とからかわれる。
「小説書いたり、歌ったりしているのに、恋焦がれるようなこと、大事でしょ」
ぼくはだいたい、こういう質問、笑ってごまかしてきた。
友人に、お見合いのようなことまでさせられたことがあったが、論外であった。
もちろん、いつかぜひ恋をしてみたいし、頭の中で想像をすることはよくある。この人と恋をしたらどうなるかな、みたいな・・・。
でも、恋じゃなくて、愛から始まるようなものがぼくには必要なのだった。
小説「サヨナライツカ」のような恋愛はもうない。
2010年に、東京国際映画祭(コンペティション部門)に招待されたとき、ぼくはホテルで倒れ、頭を打った。その頃、よく倒れていたのだ。
(今はないけど、なぜか、当時、頻繁に倒れていた。貧血のようなもの。か弱かった。あはは)
側頭部から倒れ、十数針、唇を縫う大きなけがをした。
3か月後、2011年、再び日本にやってきた際、(その時は家族三人で)・・・恐ろしいことが起きた。
ぼくだけ福岡の母親に会うため家族と別れ、国内線に乗ったら、機内で手が痺れだし、実家についたときに呂律がまわらなくなり、救急車で済生会病院に運ばれ、そのまま地下の手術室へ。
硬膜下血腫と診断された。
頭の中の毛細血管が3か月前に切れていたようで、じわじわと血がたまって脳を押し、痺れたり、言語障害が出たり、したのである。
頭の血を抜く手術をして、まもなく、元の状態に戻ったのだけれど、家族やスタッフさんら周辺の人に大変心配をかけることになった。
倒れないように用心をしながら、その後、生活を送ることになる。
しかし、まもなく、離婚がぼくを待ち受けていた。
子供を任されたので、その時を境にシングルファザーになるのだけど、ぼくが不安だったのは、不意にまた倒れて頭を打ったら、今度は致命的になるかもな、ということだった。
そうなったら、子供はどうなるのだろう、と悩んだ。
離婚の年は激しい不安に襲われ、胃とか他のところまでおかしくなった。
爆弾を抱えるような気持ちで、その後、生き続けることになる。(今は、笑って思い出すことが出来るけれど、当時は毎日、びくびくしながら生きていた)
ソフィなど数名のママ友たちが息子の世話をしてくださり、ぼくは離婚の年から定期的に病院で脳ドックを受け続けることになった。
幸いなことに圧迫された脳は、元通りになった。
貧血で倒れることもなくなった。
去年の秋の脳のMRIでもまったくの正常であると診断されたが、当時の心細かった想い出だけが脳の片隅に焼き付いて残ることになった。
63歳である。
今のぼくにとって大事なのは、恋をする、ことではなく、愛を探すこと、かもしれない。
でも、こんなひ弱で爆弾を抱えているような人間なのだから、誰かに頼ることはしたくない。
この10年ちょっとの間に、ぼくは心も身体も強くなることが出来た。
不安だった子育ても無事にやり遂げ、息子が大学生になった。
数年前、ぼくが別の病で寝込んだ時、息子がぼくの看病をしてくれたことがあった。
「パパ、心配しないで、ぼくがいるよ」
ベッドの中で泣いたことがあった。
ぼくが健康のことをよく日記に書くのは、健康じゃないと人に迷惑をかけてしまうからだ。
「あんたロッカーなんでしょ、ロッカーのくせに、健康健康って、違うくない?」
と作家仲間に揶揄されたこともある。何も知らないくせに、と思った。
言い訳はしなかった。
悲しい思いを息子にさせたくないので、誰よりも健康であろうと気を付けている。
食べるものには一番気を付けている。
添加物や防腐剤などはとくに、基本は有機食品しか摂らない。
「辻さんの恋愛観をきかせてください」
という質問には「笑ってごまかした」が、こんなぼくでも、寄り添ってくれる人がいたら、もっと心が楽になるだろうな、と思うこともある。探してないわけでもないが・・・。
でも、誰にも迷惑をかけたくないし、不安を与えたくないので、これは理想に過ぎない。
そういうことを相手に求めること自体が失礼だから、どうしても億劫になるのは当然であった。
なので、恋愛小説が下手になった。確かに、ロッカーじゃないのかもね・・・。
恋愛って、落ちることなので、今のぼくには難しい。
恋をせず、いきなり愛の関係に到達できる人がいたらいいのだけど・・・。あはは、自分勝手な考えは捨てましょう。
今日も読んでくれてありがとうございます。
なので、去年くらいから恋愛小説の依頼は全部、お断りしているのです。とくに恋焦がれるような切ない恋愛物語は下手になりました。いつか、また書いてみたいとは思っているのですが。
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