PANORAMA STORIES
フランス・ペイザージュ田舎だより2〜冬のペイザージュin ボジョレー〜 Posted on 2023/03/09 水眞 洋子 ペイザジスト パリ
3月になりました。
ボジョレー地方では、少しずつ、春の気配を感じるようになっています。
*今はアーモンドの木の花が満開です
今冬は、ボジョレー地方で迎える初めての冬だったのですが、いろんな生活の楽しい風景に出会うことができました。
例えば、暖炉。
ボジョレー地方の寒さはパリより厳しく、氷点下の日がよくあります。
*2月の氷点下の朝の様子
肌を刺すようなキリッとした寒さの日が続きます。
そんな厳しい寒さを和らげてくれるのが、薪暖炉です。
ボジョレー地方は林業が盛んで、薪が手軽に手に入ります。
そのため、薪暖炉を使っているご家庭が多く、我が家でも去年の10月くらいから、毎日大活躍してくれています。
日々薪の火で暖をとるのは、生まれて初めての経験だったのですが、思っていた以上に快適で驚きました。
パリで使用していた電気暖房と比べると暖炉は暖かさがより柔らかく、力強い感じがします。
火を見ていると、なんとも心が和み、とても落ち着いた気持ちになるのが不思議です。
今まで私は、フランスの長い夜がとても苦手だったのですが、今冬は薪暖炉のおかげで、とても穏やかな気持ちで過ごすことができました。
暖炉の前は、みんなに人気があり、いつも場所の取り合いになります。
私は同居させてもらっているネコ達に、毎回競り負けますが(苦笑)、暖かさの恩恵はたっぷりといただけました。
*暖炉の前に陣取るツキとバルー
ボジョレーの冬のペイザージュで私がいいなぁ、と思ったのが、ブドウ畑での剪定風景です。
あちこちで剪定作業に没頭する醸造家たちを見かけます。
*見えにくいのですが、遠くで作業している人たちがちらほらいます
何千本にも及ぶブドウの木を、一本一本剪定していく長い作業が、11月ごろから3月末まで続きます。
私が昨年からお世話になっているショパン家でも、今は剪定作業の最盛期。
代々ワイナリーを営むショパン家のブドウ畑は、樹齢60−80年の古い木が多く、大切に育てられています。
家業を継いだ長男のラファエルが、祖父母から受け継いだブドウの木を、丁寧に一本一本剪定していきます。
*車から作業を見守るマックス
写真でお気づきになられた方もおられるかもしれませんが、ボジョレー地方のブドウは、背丈がとても小さく、ずんぐりむっくりしています。
*剪定前のブドウの木
一本の幹から、複数の枝が広がりながら上に伸びる形がコップに似ていることから、ゴブレ型(「コップ」の意)と呼ばれています。
樹高が低いため、長時間剪定していると腰がとても痛くなってしまうのですが、剪定前と後では、風景がガラッと変わり、とてもスッキリします。
*剪定後のブドウ畑の様子
ゴブレ型のブドウ畑は、ボジョレー地方のペイザージュとして定評がありますが、この風景は、何世代にもわたる醸造家たちの弛まぬ手作業の賜物だといえます。
ちなみに、冬のブドウ畑で、私がとてもびっくりした光景があります。
それが、こちら。
大根!
いたるところのブドウ畑で、大根が元気にはえているのです。
しかも、どれも立派なものばかり!
実はこの大根は、環境プロジェクトの一環で、
緑肥として植えられています。
大根の根が、水や空気の浸透性を改善し、微生物や栄養分を増やすため、農業や園芸分野で多く使われている手法です。
近年ボジョレー地方でも、自然に優しいブドウ栽培が注目されていることから、この手法が試験的に実施されています。
醸造家だけではなく、地方自治体や県、大都市圏、地元の狩猟クラブなど、官民の複数の機関が協力して実施している、大規模な事業です。
この「大根大作戦」への期待の高さが伺えます。
*「大根大作戦」について説明している掲示板。ブドウ畑のあちらこちらでみられます
それにしても、この大根、本来食用ではないのですが、あまりにも立派で、美味しそうだったので、所有者の方にご許可をいただいて、少し分けていただきました。
サラダや煮物にして食べてみたのですが、辛味が少なく、甘味がとてもあり、ショパン家のみんなやお友達のフランス人に大好評でした。
「今年は、本格的に大根を育ててみようかなぁ。」などと考えながら、とても美味しくいただきました。
そろそろ冬とお別れですが、次の冬が、今からとても楽しみです。
最後までご高覧いただき、ありがとうございました。
Posted by 水眞 洋子
水眞 洋子
▷記事一覧水眞 洋子(みずま ようこ)
大阪府生まれ。琉球大学農学部卒業後、JICA青年海外協力隊の植林隊員及びNGO《緑のサヘル》の職員として約4年間アフリカのブルキナ・ファソで緑化活動に従事。2009年よりフランスの名門校・国立ヴェルサイユ高等ペイザージュ学校にて景観学・造園学を学ぶ。「日本の公園 におけるフランス造園学の影響 」をテーマに博士論文を執筆。現在は研究のかたわら、日仏間の造園交流事業や文化・芸術・技能交流事業、執筆・講演などの活動を幅広く展開中。
ヴェルサイユ国立高等ペイザージュ学校付属研究室(LAREP)、パリ・東アジア文明研究センター所属研究所(CRCAO)、ギュスターヴ・エッフェル大学に所属。シエル・ペイザージュ代表。博士(ペイザージュ・造園)。