JINSEI STORIES

ノルマンディ日記「お世話になった友人のために、今日は日記を書いている」 Posted on 2023/02/24 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、実はとってもお世話になってきた友人が、心を壊してしまい、その人からSOSのメールが届いた。
1万キロも離れているので、何もしてあげることが出来ないが、心配なのだ。
というのは、この二十年ちょっと、ぼくの創作を、ぼくの人生を、応援し続けてきてくれた方だからである。
ぼくが壁にぶち当たった時には、
「辻さんは不屈だから、ぜったいにまた這い上がりますよ」
と力強く言い続けてくれた。
そんなにべたべた仲良く遊んだ間柄でもない。
でも、ぼくの作品を世界に紹介してくれる仕事をやっている。
実際に一緒に仕事が出来たのは20年前のことになる。
最近は、ぼくの仕事ペースが乱れており、一緒に仕事出来ずにいた。いつか、その方と一緒に仕事が出来る日を夢見てがんばってきたのだ。
その人が「辻さんは不屈だもの」と言った言葉を信じて、その言葉にすがって、ぼくは頑張ることが出来てきたのである。
しかし、その人は誰よりもまじめで、優しい人だったから、いろんな人から救いを求められ、ついに、自分の心が疲弊したのに違いない。
数日前に、不意にメールが届いた。
「落ち込んだり、物事がうまくいかない時、辻さんは、どうされていますか?」
こういう弱気な発言を普段されない人なので、???、と思った。
「寝たらだいたい直ります」
「やはり」
このやり取りは尋常じゃない、と思った。
というのは常に頑丈な人だったからである。
それで、大丈夫ですか? とメールしてみた。
「人生ではじめて安定剤を飲んでみたんです」
ぼくは、寝ていたのだけど、跳ね起き、もう少し詳しく聞き出そう、と思った。
「軽くパニック障害というか、満員電車とか長いトンネルが怖くなってしまって」
そこから、いろいろと訊きだし、心が壊れているのだな、と分かったので、「いい人をやめてください」とメッセージを送ってみた。

ノルマンディ日記「お世話になった友人のために、今日は日記を書いている」



翌日、どうですか、ともう一度メッセージを送ってみた。
「はい、今、よい人をやめる、を実践中です。なんか妙にいい人を続けてきたなぁ、と反省していたところです」
「それ、それをやめましょう」
「ですよね」
「はい」
「誰の人生って、よい問いかけですね」
「いい人でいるのをやめてください。めっちゃ悪い奴になればいい。笑って楽しく生きることに罪悪感をおぼえないでください。一生は一度だから、自分の人生をこそ、大事に生きてください。誰の人生だよ!です」
それから、数日連絡がなかったのだけれど、
「辻さんの過去の文章をスクショして、励まされたり、頷いたりしています」
という連絡が届いた。
そうか、とぼくは思った。
こんな稚拙な文章でも、壊れかけた心には有効なんだ、とわかってぼくはちょっとだけ安堵した。
この世界は、ギスギスしているから、心のがやさしい人が一番、苦しんでしまう。
いい人が損をするのが、この世界なのである。
その人はとある業界では偉い人だから、ぼくらにはわからないプレッシャーも大きいのであろう。
乗り越えるためには、一時期、その仕事から離れるしかない、ように思う。
一緒に仕事が出来なくなるけれど、笑顔で再会できる方が嬉しいので、今は自分のことだけを真剣に考えてもらいたい。
マジで、「誰の人生だよ」を心に持って生きて貰いたい。

ノルマンディ日記「お世話になった友人のために、今日は日記を書いている」



「誰の人生だよ」と自分に訊いてみてほしい。
ご自分のたった一度の人生なのである。
他人を救うことばかりに心を使っていては身が持たない。
いい人でいるのをやめる、ことに罪悪感を持つ必要なんかない。
まずは、「自分の人生なんだから」を実践してほしい。
ちょっとしたことで、自分を取り戻すことが出来る。
そのちょっとしたこととは、世の中でいい人でいることをやめること、なのだ。
元気になったらまたいい人をやればいいじゃないか。優先順位はそこではない。
自分が壊れてまで誰かを救うのは、あなたの役割ではない。
元気な人がやることで、心が壊れているならば、休まないと。
「神様に任せて、苦しんだ心を今、休めることを許してあげてください」
大丈夫、次の言葉を贈ります。

今日を乗り切る十ヶ条

気を使わないでください
どうぞ落ち着いてください
決して無理しないでください
あまり考え過ぎないでください
そんなに思いつめないでください
少し休んでください
今は自分を労わってください
さぁ嫌なことは忘れてください
一度諦めてください
今日を精一杯生きてください!

ノルマンディ日記「お世話になった友人のために、今日は日記を書いている」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
実はぼく、睡眠障害を患っています。もしかすると、更年期障害のせいもあるでしょう。子育てで力を使い切ったこともあります。で、眠れなくなり、お医者さんに「デパス」(睡眠誘導剤)を処方していただいておりました。でも、これ、眠れるのですが、翌朝、きついのです。身体がめっちゃ痛いのです。背中とかふしぶしが朝、悲鳴を上げているのです。パキンと目が覚めないのです。でも、何年も続けてきたから常習性があってやめられなかったのです。勇気を出して飲むのをやめてみたところ、翌朝、すっきりと目覚めることができました。しかも、身体が痛くないんです。ああ、これは「デパス」の副作用だったんだな、と思いました。もちろん、薬のせいで眠ることが出来てきたから有難いのだけど、ちょっとやめてみようと思って、2週間、飲んでいません。そしたら、体調がいい。オランピア劇場に向けて最高の父ちゃんでいたいので、絶つことにしました。よく眠るために運動をしたり、食べ物の調整をしています。心が不眠や薬に勝ったのだ、と思います。たぶんですけど、もう睡眠誘導剤のお世話にならないでも、(そこまでお世話にならないでも、という意味ですよね)やっていけそうなのでした。熱血で、ライブを大成功させてみせますね。笑顔でステージに立ちます。多謝。

地球カレッジ



ノルマンディ日記「お世話になった友人のために、今日は日記を書いている」

さて、父ちゃんのパリでのライブは、5月29日、エディット・ピアフも立ったオランピア劇場で開催されます!!!
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ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

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