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パリ・カフェのトレードマーク、籐の椅子。 Posted on 2023/02/21 ルイヤール 聖子 ライター パリ
まもなく、カフェのテラス席が楽しい季節になります。
パリのカフェを表現しようとすればとても一言では足りませんが、トレードマークのひとつとして、籐の椅子があるのではないかと思います。
カフェの様子を見ていると、店内は木の椅子、テラス席は籐の椅子と使い分けているところが多いです。
もっと言うと、パリのほとんどのテラス席は、実は籐の椅子のみを使用しているのです。
その理由は籐の椅子が長持ち・雨に強い・軽いといった利便性を持っているほか、エレガントでパリの風景に合っているから、なのだそうです。
カラーとデザインもカフェによって異なっていて、同じものを見ることがありません。
今まで見かけた中には無地、タータンチェック、市松模様などがあって、置かれたカフェの雰囲気とばっちり合っているのが特徴的でした。
実はこの籐椅子、フランスのメーカーによるハンドメイド製品なのだそうです。
今も手で作られているとは驚きですが、パリの籐椅子のほとんどは、1900年前後から続く二つの老舗メゾンによって手がけられています。
一つは1885年創業のメゾン・ドリュッケー、もう一つは1920年創業のメゾン・J・ガティです。
1885年、メゾン・ドリュッケーがパリ20区に誕生したころ、籐はカフェのテラスだけでなく、とてもファッショナブルなインテリア素材であったそうです。
そのエキゾチックな魅力に惹かれて、多くのパリジャン・パリジェンヌがラタン家具を自宅に取り入れました。
このような成功を受けて、ドリュッケー社はパリ東部のより広い敷地に移転し、1920年にはメゾン・J・ガティも誕生します。
しかし第二次世界大戦により、フランスでは籐を輸入することが難しくなってしまいます。
70年代には安価なプラスチック製に押されて籐椅子の存在が危うくなることもありました。
しかし90年代には籐椅子が再注目されるようになります。
その洗練されたデザインと丈夫さ、積みやすさが再評価されるようになり、復活して現在に至ります。
籐椅子一脚の値段は、普通サイズで100〜800ユーロ(約14000円〜11万2000円)だそうです。
ただこれは、オーダーメイドか否かでも値段の幅がかなりあるといい、例えばカフェ・ド・フロールなど由緒ある場所では、そのカフェの雰囲気に合わせて特別に作られるということです。
もちろん二つのメゾン製でない籐の椅子もありますが、老舗作であるかどうかは、椅子の裏側にあるプレートで分かるようになっています。
メゾン・ドリュッケーとメゾン・J・ガティは現在、世界中のレストランやホテルに籐の椅子を販売しているそうです。
一つの籐椅子を編むのにかかる時間は平均6時間。(修理も行っている)
また編み職人になるには5年の訓練が必要で、全員を社内で育成しているとのことです。
だいたいの籐はインドネシアから輸入されていますが、籐を他国から輸入した際のCO2排出分を埋め合わせるために、二つの老舗メゾンはフランスの地方(ブルターニュ地方など)で植栽を多く行ってきた歴史があります。
※籐のスツールも素敵です。
日本では、職人仕事が減ってきていると思います。
フランスでもやはり少なくなっているとのことですが、パリのカフェにある籐の椅子は、「一番近くで触れられる職人さんの技」だと言えるかもしれません。
次回シックなカフェのテラスを通ったら、ぜひ目を凝らしてみてください。
Posted by ルイヤール 聖子
ルイヤール 聖子
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猫と香りとアルザスの白ワインが好き。