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パリ最新情報「パリ、三大時計のひとつ『時の守り人』が20年ぶりに復活する」 Posted on 2023/02/14 Design Stories
あまり知られていないが、パリには「三大時計」と呼ばれる、モニュメント的な時計が存在する。
一つはオルセー美術館にある、元駅舎の巨大時計。
もう動くことはないものの、時計針の向こうにパリ中心部やモンマルトルの丘が見えるこの場所は、観光客にも人気の高いセルフィースポットとなっている。
もう一つは、ノートルダム寺院やパレ・ドゥ・ジャスティス(最高裁判所)を擁すシテ島、入口付近にある「時計の塔」だ。
正確にはこの塔の側面にある大きな壁掛け時計で、なんと1371年から現在まで動き続けているということだ。
※パリ最古、シテ島の時計。
最後の一つとは何か。
これは先の二つより知名度は低くなるのだが、マレ地区にある「Le Défenseur du temps(時の守り人)」を指す。
この巨大時計は実は、20年間も時が止まったままだった。
パリにある時計はこうして止まった状態のものが本当に多い。
パーツに複雑な装飾が施されていることが多く、多額の費用がかかるため、そして時計職人の数も減ってきているため止む無く放置、という形になっているのだ。
しかしこの「Le Défenseur du temps(時の守り人)」、フランスで7代続く時計職人の手によって修復され、2月6日には完全復活を遂げている。
※高さ4メートルのところにあるLe Défenseur du temps(時の守り人)、重さは1トン
重さ1トンにもなる「時の守り人」は1979年、フランスの造形作家・金細工師・時計職人などの共同製作によって、現在のポンピドゥーセンター近くに設置された。
時計の文字盤は小さいが、そのデザインは他の二つにないほどユニークなものとなっている。
まず、時計の舞台は空、陸、海を同時に表している。
そして剣と盾を持った男性(守り人)が岩の上に立ちながら、不死鳥、竜、蟹と毎時間戦う、という設定だ。
守り人は午前9時から午後10時まで1時間ごとに、ランダムに選ばれた3匹のうちの1匹と戦い、さらに午後12時、午後6時、午後10時には、3匹と同時に戦うそうだ。
戦っている間は音楽も流れ、波の音、地響き、風の音などが伴奏になる。(深夜は停止)
この時計が繰り広げる景色は道行く人の癒しにもなっていたのだが、2003年には完全に止まってしまい、以来20年間は動かない状態が続いていた。
パリ市役所もこれについて、「残念ながら時の試練に耐えることはできなかった」といかにもフランスらしい言葉を残している。
※パリ・マレの時計地区、と呼ばれる不思議な場所に存在している
修復が依頼されたのは、スイス国境に近い町、マミロールで7代続く時計師一家であるプリースト家だった。
プリースト家はルイ16世の時代、1780年から続くフランスの時計師一家であり、現在では十数名の従業員がモニュメント・クロックの製作と修復に携わっているという。
過去にはベルサイユ宮殿、シャンボール城、グラン・パレなどの時計に装飾を施したという実績を持っている。
その卓越した寸法とコンセプトから修復には丸一年もかかったといい、費用は14万ユーロ(約1960万円)にもなった。
ただこの費用は修復事業に参加した、デパートのギャラリー・ラファイエット財団が全額負担している。
時の守り人は、将来のメンテナンス作業を容易にするために近代化され、時計はこれまで以上に輝きを増すように拡大された、とパリ市は述べている。
設置直後の週末には守り人にカメラを向ける人々の姿もあり、復活を皆が喜んでいるという様子だった。
今日では時計を見上げて時間を確認する、という機会も少なくなったが、パリの大きな時計はどこか郷愁を誘う。
またパリ市は公式ホームページにおいて、時の守り人を「荘厳で詩的でありながら、時代に逆らう、首都圏で他に類を見ない作品」だと紹介している。(大)