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滞仏日記「パレロワイヤルで三四郎が忠犬ハチ公になり、父ちゃんは空をあおいだ」 Posted on 2023/02/08 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、デザイナーのコシノジュンコさんに招かれたので、夕食をとりにパリへと向かった。夕食は夜なのだけど、フランス全土で交通ストが行われている。
遅刻するわけにはいかないので、相当早くノルマンディを離れたところ、意外なことにオートルート(高速)がガラガラで、拍子抜けするくらい早く、パリに着いてしまった。
そこで、ピエールに、ちょっと時間が出来たから打ち合わせでもしようよ、と連絡をいれてみたのだ。へへへ。
「ツジ、それなら、雲一つない快晴だから、ちょっと撮影でもしないか? すぐに行くよ」
と返事が戻って来た。おお、それはいい時間潰しになる。
長谷っちや事務所のスタッフさんにも声をかけ、ちょっと撮影のあいだ懐いている三四郎の相手をしてもらうことになった。(長谷っちは音楽の仕事はしたくない、ということでしたので、あくまでも三四郎のお相手です、あはは)

滞仏日記「パレロワイヤルで三四郎が忠犬ハチ公になり、父ちゃんは空をあおいだ」



ぼくはここのところ、憂鬱だった。
気分が晴れなかった。年齢的な問題もあるだろう。更年期障害は男性にもある。
もともとホルモンのバランスが悪いので、不安定になりやすい。
自炊もそういう事情で出来なかったのだけれど、快晴の中、運転をしていたら、気分がちょっと良くなった。
ついでに、自分の音楽をがんがんかけて、歌いながらの移動だったので、心に覆いかぶさっていた雲が割れて、そこから光が差し込んで来た、という次第であーる。
「おお、太陽がまぶしい」
ピエールと待ち合わせたパレ・ロワイヤルへと向かった。待ち合わせしやすいので、「パリのハチ公前」と呼んでおる。
すでに、長谷っちも到着していた。(しかも、コーヒーを買ってきてくれていた。優しい男じゃあ)
三四郎と石の円柱に飛び乗り、記念撮影とあいなった。三四郎がハチ公を演じた。
これは、すごい、いい写真なのであーる。
忠犬三四郎だぁ、どうじゃ!

滞仏日記「パレロワイヤルで三四郎が忠犬ハチ公になり、父ちゃんは空をあおいだ」

滞仏日記「パレロワイヤルで三四郎が忠犬ハチ公になり、父ちゃんは空をあおいだ」



長谷っちとピエールは仏語で、ぼくとピエールは英語で、ぼくと長谷っちは日本語で、長谷っちと三四郎は犬語で話をするのであった。あはは。♪
「ツジ、セーヌ川のほとりにいい場所見つけているんだ。そこで撮影をしないか?」
パレロワイヤルからセーヌ川までは、途中、ルーブル美術館を通過して、すぐ。
晴れているし、いい散歩コースなのであった。
ぼくと長谷っちは、歩きながら、長谷っちの小説について話し合った。長谷川さんは作家志望なのである。文学賞に応募したいのだけど、と相談を受けていた。今日は歩きながら、ペンネームを一緒に考えてあげたのであーる。サスペンス小説なので、江戸川乱歩みたいな迫力ある名前がいいね、と話し合っているのだけれど、これがなかなか難しい・・・。だいたい、ぼくは笑いがおこるようなユーモラスな名前ばっかり考えついてしまうので、とうとう、長谷川さんが呆れてしまった。
「長谷っち、自分で考えた方がいいですよ。ぼくはそこまで責任モテないから」
「そうですね。次元大介って、ちょっと酷すぎますよ」
遠くで、ピエールが手を振っている。セーヌ川に太陽が反射し、眩かった。ああ、すごい光景である。ぼくは深呼吸をした。
やっぱり、パリは凄いなぁ、街そのものが歴史博物館みたいだ! 正面にオルセー美術館が見えた。

滞仏日記「パレロワイヤルで三四郎が忠犬ハチ公になり、父ちゃんは空をあおいだ」



「ツジ、ここに立ってくれ」
「先生、ぼくがさんちゃんを預かります」
「ピエール、ここ? こんな風に?」
ぼくはマロニエの木にもたれかかり、ポーズをとった。
「そうだ。東京の「ガラスの天井」のビデオは新宿とか六本木の夜じゃないか。それのアンサーとして、「空」のビデオはオールパリの日中撮影にしたい。ツジは日仏を行き来しているんだから、その比較が面白いと思うんだ。この太陽の光こそがパリなんだから、眩い光に目を細めながら歌って貰いたい」
ということで相変わらず持論の展開が大好きなピエール先生であった。
でも、今回は、なかなかいいカメラワークなのだ。進歩している。
「セーヌ川を挟んで左岸と右岸の両方で撮影をするんだ。ぜったい、対照的なクリップになるよ」
巨匠は豪語し続けた。燃えているピエールは素敵だ。友人だし、何よりも、ぼくは心地よく演じることが出来た。長谷っちと三四郎が観客である。
心が塞いでいたけれど、やっぱり、好きな人たちに囲まれ、陽の光を浴びることは精神的に大事である。気分があがるし、創作は楽しい。
「先生、いいですねー」
長谷っちが三四郎とセーヌ川のベンチの上から声援を送ってくれた。
100年前、きっとここからの眺めはまったく今と同じはずだった。100年後もここに高層ビルが建つことはないだろう。
パリというのは、ずっと変わらない都市なのである。
ミュージック・ビデオの完成が待ち遠しい。

滞仏日記「パレロワイヤルで三四郎が忠犬ハチ公になり、父ちゃんは空をあおいだ」

滞仏日記「パレロワイヤルで三四郎が忠犬ハチ公になり、父ちゃんは空をあおいだ」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ちょっと事務所で雑務をこなし、(日記もここで書いております)それから、コシノジュンコ先生との夕食会に顔を出します。お酒は飲まなければ、そのまま夜中に田舎に戻るし、呑んだ場合は事務所で寝て、翌朝、田舎に戻る感じになるかな、と。というのは明日、チャールズと会う約束をしているからです。あはは。忙しいふりですから、気にしないで。安全運転でいきますから・・・。
ところで、NHK・BSの「パリごはん」新作の放送日が近づいておりますよ。ぼくが噂で聞いた限りですけど、監督の義和さんは出来栄えに興奮をしているそうです。あの、撮影をしたのはぼくなんですけどね、あはは。でも、愉しみですね。放送時間はこちら。
「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分) 放送時間のお知らせです。
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送
さらに、
●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」の再放送が決まりました。
【NHK BSプレミアム】 2月12日(日)12:30〜13:29
(初回放送 2022年9月23日)

地球カレッジ

滞仏日記「パレロワイヤルで三四郎が忠犬ハチ公になり、父ちゃんは空をあおいだ」

さて、父ちゃんの5月29日のオランピア劇場でのライブ、直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。FNAC(フナック)でも買えます。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/



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