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パリ最新情報「南仏、古代壁画の “聖地 “で4000年前の岩絵が発見される」 Posted on 2023/02/07 Design Stories  

 
1月30日、南仏の山間で約4000年前の壁画が発見されたと報じられた。
場所は、イタリアに隣接する南フランスの町・ヴァルドゥブロール市。
地中海沿岸から少し奥まった所にあり、雄大な渓谷がいくつも存在する自然豊かな土地である。

今回見つかったのは、洞窟の壁画ではなく、切り立った崖に描かれた「岩絵」であった。
昨年8月には発見されていたといい、メディアへの報告前に仏考古学者らが分析を急いでいたという。
現地報道によれば発見は偶然の出来事で、ハイキングコースを整備していた時に草木の合間から岩絵が突如現れた、とのことだ。
 

パリ最新情報「南仏、古代壁画の “聖地 “で4000年前の岩絵が発見される」



 
描かれた時期は4000年以上前、新石器時代後期から青銅器時代初期にかけて。
合計で120点の絵が見つかっており、主には男性戦士が擬人化されたような偶像画、動物(犬など)、弓や短剣などが崖に描かれていた。

鑑定した地中海アルプス先史学考古学研究所(IMAAP)のクロード・サリシス所長は、「ラスコーの洞窟壁画に比べれば地味かもしれないが、今回の壁画が非常にレアであることには間違いなく、この地が先人たちにとって“聖域”であったことを証明するものだ」と述べている。

サリシス所長が考古学的に貴重だ、と語る理由には、発見された壁画が岩を削ったものではなく、顔料を使った岩絵であったことが挙げられる。
今回は、顔料が良い状態のまま残っていたのがまず奇跡だった。
これにより壁画の制作時期、また顔料の採取場所といった疑問も早々に確定することができたという。
 

パリ最新情報「南仏、古代壁画の “聖地 “で4000年前の岩絵が発見される」

※顔料にはカルグネール(現地の岩石、黄色に少しピンクがかった色)が使われていた

地球カレッジ



 
壁画には男性の戦士が多く描かれていたというが、これは戦士が新石器時代、人々のヒーローもしくはアイドル的な存在だったとサリシス所長は分析する。
(壁画のシーンとしては戦いの場面、混乱の場面、そして葬儀の場面などが多かった。)
これらを踏まえ、IMAAPは「この度の発見は、先人たちの生き方、行動、信念」を表す証拠の一つになるだろう、と述べている。

南フランスでは、世界的に有名な「ラスコーの壁画」が1940年に見つかっている。
これは約2万年前のクロマニヨン人によって描かれたもので、当時の少年たちが洞窟に迷い込んだ飼い犬を救出する際に偶然発見したものだという。
さらにフランス南部アルデシュ県では、それより前の時代、人類最古級と言われる約3万2000年前の「ショーヴェ洞窟壁画」も見つかっている。※現在では両方とも非公開。
 

パリ最新情報「南仏、古代壁画の “聖地 “で4000年前の岩絵が発見される」

※ラスコーの壁画



 
このように南仏は古代壁画の聖地であるが、先人たちが同場所を選んだのも理由があったのだろう。
もともとこの地域には、すでに活動を終えた古い火山がある。
そのため渓谷やブルー・グリーンの湖など、火山性のダイナミックな自然がいくつも残されており、フランス人の間でも夏のバカンス場所として人気があった。

そうした風光明媚な場所で、壁画を担当していたのは当時の有名アーティストであったとされている。
しかし壁画の中には最後まで完成されてないものもいくつかあるといい、大昔の芸術家にも飽きっぽい(?)、人間らしい一面があったようだ。

戦士というヒーローに、壁画を担当したアーティスト、そしてその背景にある新石器時代の暮らしの痕跡。
今回は、まだあまり知られていない新石器時代後期の職業について、また当時の絵画技法についてを解明するのにも希少な発見であったという。
また、来週2月11日には同地域で学術的な会議も予定されている。
目的はひとつ、この遺跡があと数千年生き残れるようにと計画する会議なのだそうだ。(内)
 

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