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パリ最新情報「フランスの医師不足が深刻に。地方では医師の飛行機移動もスタート」 Posted on 2023/02/01 Design Stories
今、フランスでは医師の数が圧倒的に足りていない。
フランスの医師不足は以前から問題視されていた。
しかしコロナ禍、乳幼児の気管支炎といった昨今のエピデミックは事態をさらに悪化させており、仏各紙も「フランスの医療砂漠(désert médical)」という見出しを用いながら、この現状を積極的に報じるようになった。
現在では、国民10万人に対する医師の数は平均で121人という統計が出ている。
キャビネ代の高い首都パリや、逆に人口の少ない地方ではそれがもっと少なくなり、極端に低いところでは68人という結果も出ている。
こうした医師不足には、1971年に医学部入学者数制限が設けられ、多くの医師を養成できなかったことが背景にあった。
さらに第二次世界大戦後のベビーブームで生まれた人々も今や70歳前後。(この時代のフランスの出生率は2.5以上だった。)
定年退職する医師の数は増え続ける一方なのに、戦後のベビーブームに生まれた人たちが高齢者になったことで、若手医師がその数に追いついていないというのだ。
日常生活でも、医師不足を実感することが多々ある。
フランスの複雑な医療分業制度がその問題を明るみにしているためだ。
日本だと、例えば開業医の一カ所だけで診察・血液検査などが可能であるが、フランスの場合だとそうはならない。
フランスでは、「かかりつけ医」と呼ばれるゼネラリストに診てもらう必要があり、それから各専門医・検査機関を紹介してもらう流れが原則となっている。
つまり血液検査やレントゲン、超音波検査でもゼネラリストが書いた処方箋が必要となり、日にちを明けてまた違う医療機関に予約を入れなければならない。
ということで一カ所で望む処置は受けられず、完了までには数日〜数週間の時間を要してしまうのだ。
フランスでこうしたゼネラリストを持たない人は、600万人以上(およそ10人にひとり)いると言われている。
そして現在では、その内の65万人以上が持病を持っているにも関わらず、適切な医療を受けられていない状況だという。
過疎化が進んでいる地方の市町村では、医師不足は命にかかわる問題だ。
特に医師不足が深刻なのは仏中部にあるヌヴェール(Nevers)市で、人口10万人あたりの医師数は68人とフランス国内でも最低となっている。
そこでヌヴェール市のドゥニ・テュリオ市長は、最寄りの大都市であるディジョンの大学病院と連携し、「空飛ぶ医師団(Flying Doctors)」を1月に設立した。
これは地域の医師不足を解消するために設立されたもので、陸路で2時間半かかる距離を35分の空路に変更し、医師たちを飛行機で派遣するという仕組みになっている。
1月26日には第一団が派遣され、8人の医師たちがヌヴェール市に到着した。
費用は往復で1人670ユーロ(燃料費込み)もかかるというが、ヌヴェール市がこれを全額負担することになった。
今後は週に一回の運航を予定しており、ヌヴェール空港もパートナーとなった上で空港税、駐車料を無料化するとのことだ。
また近い将来には逆に、ヌヴェールで暮らす医師の卵たちをディジョンの大学病院で学ばせるのも可能になるという。
渡航費用が高額だ、税金の無駄使いだと非難する人もいるそうだが、派遣医師の場合では一週間の大学病院勤務に2,000〜3,000ユーロの人件費を支払わなければならないため、決して高額ではない、命には変えられないとテュリオ市長は説明する。
ちなみに現在では医学部の入学者数制限は廃止され、2020年の医学部1年生の数は1万4800人まで回復している。
ただフランスでは皮膚科、眼科、小児科医が特に足りていないという。
そのため将来的には地方自治体が連携し、ヌヴェール市のような「空飛ぶ医師団」が増えていくのかもしれない。
なおフランスでは今、医師に加えて看護師不足も深刻な状況となっている。(内)