JINSEI STORIES

滞仏日記「人をその気にさせる☞自分もやる気になる☞みんなで成功するの術」 Posted on 2023/01/27 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、事務所で終日、ピエールと話し合いが行われた。
ちょっと面倒くさい話なのだ。
でも、ぼくは彼にはできる、と信じている。信じることは期待することではない。ともに責任を分かち合うことだ。
ことは、オランピア劇場ライブに向けて、「ガラスの天井」に続き、もう一本、ミュージック・ビデオを作ろうという話からはじまった。
最初にミュージック・プロデューサーのロブソン(彼はPVも手掛けている)が快諾してくれたのだけど、ダンサーなどを雇うと予算が足りないことが判明。
「いいダンサーはその予算じゃ連れてこれない。もっともっと必要になる」というので、ならば無理する必要ないから、とこの話はバラすことにした。
予算が後から膨らむのは、怖すぎる。
オランピアの製作費はとんでもなくかかるので、宣伝費に回す予算はない。
それでぼくは心当たりのある撮影監督を探したのだけど、スケジュールが急すぎたり、予算がかかり過ぎて、全滅であった。で、悪友のピエールに相談をしたら、
「やる」
と二つ返事で快諾してくれたのである。予算ないよ、と念を押したら、
「必要ない。俺は辻の世界が好きだから自分のためにやりたい」
というのである。
「でも、ダンサーが必要なんだ。曲がタンゴ調だから、上手い人に踊ってもらいたい」
すると、あてがある、と言い出した。
もう一度、予算はない、と言ったが、こういう作品の場合、予算で動く人とはやらない方がいい。パッションで動く人を知っている、というのである・・・。
この辺のことは先の日記で書いた通り、ピエールが長年、撮影をしているボリショイバレエ団のソフィアさんに白羽の矢が立った。
彼女がぼくの曲「空」を聞いてくれた。ぜひ、やりたい、と申し出てくれたのだ。
限られた予算の中で、やりましょう、ということになったのは、実に、よかった。

滞仏日記「人をその気にさせる☞自分もやる気になる☞みんなで成功するの術」



「ただ、ツジ、動画用のカメラがない。ぼくが使っているカメラは旧式のライカだから」
「ソニーの小さな動画用カメラがある。それとジンバルがある。それを貸すよ」
ところが、ピエールは頑張っているのだけど、器用な男ではない。
ピエールは前に、第一回目の「パリごはん」(NHKBSの番組)でも実景を依頼したことがあったが、制作会社の方に、手が震えていて、あのカメラじゃ使えない、というお墨付き(?)を頂いたこともあったのだ。
二本目からは、日本人カメラマンが実景を担当したが、今は、ぼくがついでに撮影している・・・。
でも、ピエールは、ただ、不器用なのだ。
時間のない中で彼に頼むのはリスクが多すぎる。
しかし、ピエールは気弱な写真家なのである。でも、才能はある、きっとある、とぼくは思っている・・・。
「ツジ、実は、ちょっと自信がないんだよ。日本のプロデューサーにもいろいろと言われたんだろ? 知っているよ。ぼくは君に迷惑をかけたくない」
「ピエール。もしも、君にセンスが本当になければぼくは君に頼まないよ」
こういう、弱いところが彼の問題でもある。「俺が俺が」タイプでもない。だから、成功もしていない。自信がないし、その道のプロフェッショナルでもない。新型のカメラや機材を持っているわけでもない。ないない尽くしだ。
でも、機材を持っていて、時間内でばんばん撮影が出来るカメラマンがいても、ぼくはこのPVの依頼はしなかっただろう。この辺の説明は難しい、結局、ぼくは誰と仕事をするか、を大事にしているのである。
あと、父ちゃんはその人の才能を頭からダメと決めつけない。その人の良さを引っ張り出すのが得意。人心掌握術とでもいうのか、人心向上術? ああ、いいね。それだ、ナイス!!! 

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※ これは別の日に、ピエールと食事会をした時の写真なので、本エッセイにはとくに関係ありません。最初に、快諾してくれた時に撮影したもの。記念品みたいな一枚。えへへ。



そこで、ぼくは朝からずっとピエールと事務所で向き合った。
「やる気はあるんだけど、経験があまりないし、その、ツジは厳しいプロだから、その期待に応えられるかな、と不安になる」
「映画の撮影みたいなやり方で撮ろうと思うな」
「どういう意味?」
「君は動画のプロじゃない。ならば、写真集を作るように撮ってごらんよ」
そこで、ぼくらは、カメラや撮影方法について、3時間ほど議論を繰り返した。

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「普通の人が3時間で撮りきれる仕事だったら、君は人が休んでいる間に、3週間かけて撮影してみたらいい。ぼくは待つよ。もっとも、ライブは5月29日だから、一月あげるよ。一か月、パリを歩き回ってソフィアとじっくり撮影したらいいものが撮れるはずだよ」
「そうだね」
「そうだよ、ピエール。君はできる。写真集を作るつもりで、短い映像をたくさん撮影して、それを上手につないで、ソフィアの写真集のようなものを作ればいいんだよ。幸いなことに、君はずっとソフィアのプライベート写真を撮影してきた。二人の人間関係は出来上がっている。そこに、ドラマがあるじゃないか。それが動画になるだけだよ」
「ああ、なんとなく自信がついてきた」
そこで、ぼくはあえて、~しなければならない、と強い口調に変えてみたのだ。
「君は、時間を見つけてコツコツ撮り続けないとならない。君は自分が最高のカメラマンだということを思い出さないとならない。君にとって最高の作品を作らないとならない。君は自信がないだけだ。君には才能はある。それをやり切らないとならないんだ」
ピエールの目が燃えた。
「ありがとう。自信が出た。出来そうな気がする」
「よかった。間違いないよ。最高のものが出来る」
ピエールは鞄から、ぼくが貸したZV-1というソニーのカメラを取り出した。
「実は、これを借りた日からずっと撮影を続けてきた。見て貰えるか?」
「前に観たやつの続きだな。もちろんだよ」
ピエールがパソコンにそれを繋いだ。まもなく、ピエールが今日までコツコツとロケハンをしながら撮影し続けた、パリの風景が画面に流れだした。

これらの写真はピエールの動画から抜いた映像ですが、動画はかなり美しいです。想像してみてください。鳥が美しい舞いをしています。長い時間をかけて、彼はそこでカメラを回し続けているのが分かりました。

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※ これは自撮りをしながら撮影したもので、多分、ソフィアがここに映っているイメージなのでしょう。ハンサムだね、ピエール、あはは。

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つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
実は、ピエールに内緒で、ぼくは彼のために、ZV1よりも更に高性能なα6600というカメラを買っといたのです。今朝、そのカメラが家に着きました。レンズは16-55mmf2.8というもので、ジンバルなどを含め、合計で40万円ほどかかりました。博多のカメラマン、宋大介に相談をして、決めた機種です。せめてぼくに出来ることは彼に最強の戦車、もとい、カメラを用意してあげることくらい。しかし、これさえあれば、かなりのことが出来ます。皆さん、熱血は人をその気にもさせられるのです。周囲に熱血を振りまき、辛い時代を、乗り切って行きましょう。
合言葉は、熱血~。

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※ これはが今日、届いたソニー、α6600!

さて、いよいよ日曜日、そんな熱血父ちゃんの熱血オンライン文章教室があります。出来れば、このα6600を初使用して、おおくりしたいと思います。ムッシュ・ピエールに手伝わせますので、ご興味ある皆さんは、下の地球カレッジのバナーをクリックください。お楽しみに!!!

地球カレッジ

それから、パリ・オランピア劇場公演のチケット発売中でーす。
直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/

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