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パリ最新情報「ル・ボンマルシェに鍋アート?!1月恒例のイベント『mois du blanc』が始まる」 Posted on 2023/01/22 Design Stories
2022年で創立170周年を迎えたパリの老舗デパート、ル・ボンマルシェ。
ル・ボンマルシェは、世界で初めてバーゲンセールを設けた百貨店である。そしてこのバーゲン(冬季)が始まる1月には、「mois du blanc(白の月)」と呼ばれるアートイベントを開催することでも有名だ。
ル・ボンマルシェはこの時期、館内全体が現代美術館のようになる。
インスタレーションの色は白で、というのがアーティストたちに課される唯一の条件だ。
しかし2023年には「使用済みの鍋」という異色の素材が使用され、パリの情報誌や顧客を賑わせる結果になった。
制作を担当したのは、インドの現代美術家であるスボード・グプタさん。
彼は使用済みのキッチン用品や中古家具などを使った、壮大な作品を制作することでよく知られている。
グプタさんによれば、これらは彼のルーツであるインド東部・ビハール(インドで最も貧しい州の一つ)に思いを馳せたものだという。
ということで今、ル・ボンマルシェでは非常にユニークな「鍋の集合体」を見ることができる。
化粧品売り場の吹き抜けホールには二つの巨大なオブジェが飾られ、2階の展示スペースには合計2500個の使用済み鍋・キッチン用品が小屋となって登場している。
そしてデパート外部のショーウィンドーは、余すところなく鍋アートですべて埋め尽くされた。
グプタさんは展覧会のタイトルを「サンガム」とした。
これは、インドの神聖な3つの川、ガンジス川、ヤムナ川、サラスワティ川の合流地点の名称だという。
「ル・ボンマルシェには世界中の人々が集まってくるので、異なる文化の“合流地点”と呼ぶのに相応しい」ということだ。
吹き抜けホールの作品では、アルミ製の鍋で作られた高さ12メートルの集合体から、鏡でできた水がコスメ売り場に向かって流れ落ちる様子が表現されていた。
ラグジュアリーな売り場と使用済みの鍋、というコントラストも面白く、じっと眺めていると鍋がただの鍋でなくなってくる。
グプタさん自身も「これだけの鍋がこれだけの人に使われて、これだけの料理を食べられていたと考えるのが好きだ」とコメントで述べており、ル・ボンマルシェとのコラボに満足した様子だった。
こうしたアートイベント「mois du blanc(白の月)」は、今回で8回目を数える。
パリには著名なデパートがいくつかあるが、ル・ボンマルシェほど芸術に寛容なところも珍しい。
これは、創立者のアリスティド&マルグリット・ブシコー夫妻が情熱的な美術コレクターであったことに関係している。
19世紀末には、彼らはル・ボンマルシェ館内に絵画ギャラリーを作り、パリの美術学校エコール・デ・ボザールで不合格となった画家たちの作品を展示したりしていた。
「mois du blanc(白の月)」はその頃から始まっていたというが、戦争や経営者交代などの混乱により長いあいだ中断してしまっていた。
「mois du blanc(白の月)」が復活したのは2016年1月のことだった。
以来、ル・ボンマルシェの真っ白なインスタレーションは、恒例イベントとしてすっかりパリの街に定着している。
今回は鍋という異色の素材が採用されたが、アーティストも作品も年を追うごとに多様性を極めているのは確かだ。
なお「サンガム」は2023年2月19日までの展示となっている。(せ)