JINSEI STORIES
滞仏日記「三四郎食大公開!(祝)サンシー、辻家の一員になって一周年だよ~」 Posted on 2023/01/21 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ちょうど一年前の今日、三四郎はパリの我が家にやってきた。あれから、一年の歳月が流れたことになる。
フランスの有名なテクノアーティスト、DeepForestのスタジオ(ドルドーニュ村にある)で「荒城の月」をレコーディングした直後のことであった。
その帰り道、超田舎の犬の園で三四郎を受け取り、パリに戻ってきたのである。
あの時、三四郎は、生後、3か月かそこらの子犬であった。あれから、一年が過ぎた。今日は三四郎記念日ということになる。
大都会パリにやって来たばかりの子犬は、あらゆるものに興味を示し、興奮し、怖がった。ぼくには懐いたが、都会が怖くて、傍から、離れようとしなかった。
用意した犬小屋には猛反発をし、閉じ込めると、きゃんきゃん、と泣き続けた。(結局、その犬小屋は知り合いに差し上げることになった)
あの日、ぼくが寝ようとすると、泣くので、眠れなかった。
結局、ベッドの下に三四郎のベッドを置いて、ぼくの足を彼の身体にくっつけて、一緒に寝たのだった。(ベッドには絶対あげない主義なのであーる)
その日から、子犬との生活という今まで経験したことがない試練(いや、試練じゃないな、やや厳しい幸福)が続くことになる。
体形的には、大きな変化はないのだけど、ちょっと太って、毛が伸びたかな、・・・彼は生後15か月になっている。
子犬から小犬になりつつある。
その分、いろいろなことを学んで、さんちゃんなりに、大人(小犬)になった。
最初は自動車が怖かったが、今はもうへっちゃらである。とくにゴミ収集車を異常に恐れていたが、今は、ふん、という顔をして横をすたすた歩いている。
最初は家中で、おしっこ(ピッピ)やうんち(ポッポ)をしまくっていたが、今はもう、家では一切しなくなり、外でするようになった。(おならはします。くちゃーい)
今や、柵はなくなった。彼は自由の身である。
そして、いろいろなことを覚えた。
日本語も、フランス語も、(多少)理解している。
人間と生きるルールや、公園で集う犬仲間たちとの関係性構築など、彼なりにかなり学んだようだ。
ぼくのケーキ(パリブレスト)を食べてこっぴどく叱られてから、彼はぼくの仕事部屋には入らなくなった。
もちろん、寝室にも入ることが出来ない。
禁止されていることがあることを彼はそうやって学んで知るようになった。
もともと、吠えない子だったが、夜のご飯の時だけ吠える。
というのも、最近は、ドッグフードに特別な手料理を加えているからである。
或る時、ドッグフードに飽きたのか、だんだん、食べなくなってしまった。
そして、人間が食べているものをねだるようになった。
絶対与えないと決めていたのだけど、落ちたものを食べたりして、少しずつ人間の味を知っていったのだ。
とくに、アドリアンとかピエールがチーズなんかを与えるものだから、ドッグフードより、もっと美味しいものが世界に溢れていることを知ってしまったのだった。あはは。
そこで「ドッグフードを美味しくさせればいいんだ」と気が付いた愛情料理研究家の父ちゃん・・・、鳥肉と野菜を煮込んで、それを毎日少しずつドッグフードに混ぜて与えてやるようになるのだった。
甘やかし過ぎ、というご意見はごもっともだけれど、彼の犬生に喜びを与えてあげたいという親心でもあった。
しかし、これが結構、骨の折れる仕事で、毎回作っていると、くたくたになる。
そこで、まとめて作り、小分けして冷凍にすることを思いついた。
ところが、凍った鳥野菜煮込みを部分的に解凍するのがこれまた厄介で、最初の頃は、木槌で叩いて崩していたら、くたくたになった。
そこで、思いついたのが、御菓子用のマドレーヌ型とかカヌレ型にいれて、一度冷凍させる方法である。
そうすると一回で6個の冷凍鳥野菜煮込みが出来る、という仕組み。へへへ、歓喜した父ちゃんであった。
固めて、取りだし、ジップロックに入れて、保存する。
夕食の時間になると、一つを解凍し、ドッグフードに混ぜて与えるのであーる。
これが、美味しい、というのが分かってから、彼は電子レンジの音がすると飛んで来て、わん、わん、と吠えるようになった。
吠えない小犬が、唯一、吠えるのが夕飯の直前なのであーる。
わん♪
「もう、待てない。パパしゃん、早く食べたいよー」
という意味である。
そんなに嬉しいのか、そうかそうか、よかったな。
見ている方も幸せになる。食べなくなったドッグフードがあっという間に完食なのだから、も~、嬉しいじゃないのー。
息子が小学生の時、ぼくが作った朝弁(お弁当)を全部食べてから、彼は登校した。栄養のバランスをしっかり考えて作った朝ごはんだった。
あの時も、嬉しかった。
息子は筋骨隆々の大学一年生になり、三四郎は我が家に来て一年が過ぎた。
この子は小犬&子犬だけど、もはやとっても大事な家族なのであった。
でも、学校にも通わない、よって宿題も試験もない、卒業もない、結婚もない、この子は、ずっとこの小犬のまま、ぼくの傍にい続けることになる。
せめて、愛情をたくさん傾けてあげたいじゃないか。
そう思った、父ちゃんのであった。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
早いもので、あれから一年なんですよね。冷凍にする鳥と野菜の煮込みですけど、今回はクルージェットですが、白菜の時もあるし、キャベツの時もあります。鍋に鳥と野菜をいれて、水で浸し、煮込みます。冷めたら、御菓子型の中に均等に分け、冷凍にするだけです。喰いつきが全然違いますから、やってみてくださいね。わん♪
さて、さて、そんなんちゃんパパからのお知らせです。
1月29日が迫ってきましたね。父ちゃんのオンライン・文章教室(エッセイ編)ですけど、ご興味のある皆さんは、下の地球カレッジのバナーをクリックくださいね。
今年、第一回目の熱血授業、気合いが入っておりまする・・・。
5月29日のオランピア劇場での父ちゃんの単独ライブ、これはね、たぶん、もう生涯で一度しかできないライブだと思います。間違いなく、ぼくの歴史の中で、最高の瞬間になるはずだから、見に来てほしいです。
JALパック・パリが企画したライブ翌日のランチ会が「完売」したことを受け、参加できなかった人のために、当日、追加でランチ会がもう一回行われることになりました。まだ、先のことですが、パリ旅行を計画されている皆さん、ご参考ください。詳しくはこちらの、URLをクリックしてみてください。
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そして、NHKの「パリごはん」来月、新作(秋冬編)が登場をします。
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】です。ついにちくわず男の義和Dが編集に入った模様です。4か月半に及ぶ、父ちゃんのアフター子育ての記録です。引っ越しあり、三四郎との旅もあり、てんこもりですぞ。
「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分)
そして、再放送もあります。
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送