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パリ最新情報「フランス、少子化に転向か。しかし人口増というカラクリの謎」 Posted on 2023/01/19 Design Stories  

 
2023年1月、フランスの総人口が6800万人を超えたことが分かった。
これはINSEE(仏国立経済研究所)が毎年初めに行っている調査で、フランスはこの1年間だけで約20万人の人口を増やしたことになる。
※フランス本土・コルシカ島に6,580万人、海外県に220万人が居住している。

一方で、フランスにおける出生数は第二次世界大戦後から最低数を記録しており、死亡者数はパンデミックのピーク時よりも1%近く高い。
また2022年は婚姻数・パックス(結婚と同様の権利を持つフランスのパートナーシップ制度)件数も過去10年で最高を記録するなど、「現代社会の縮図」を色濃く反映しているのが特徴的であった。

では出生数の減少・死亡者数の増加という事実に反して、フランスの人口が増え続けているという矛盾はどう説明できるのか。ここで一つ一つ噛み砕いていきたい。
 

パリ最新情報「フランス、少子化に転向か。しかし人口増というカラクリの謎」



 
まずフランスの人口増加については、シンプルに「フランスへの移住者が増えた」と断言できる。
つまりフランス国外に出自を持つ人、広義の意味での移民が増え続けているということだ。
フランスの社会保証制度は外国人にも寛容なため、これを目指して定住を試みる人が非常に多い。
後にフランス国籍を取得する移民も珍しくない。
地域別で見るとアフリカ中部、北部、EU東部からの移民が増えており、そしてウクライナから避難民を受け入れたことも2022年の統計に強く影響した。
 

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死亡者数の増加については、フランス人の高齢化という基本的な現象以外に、インフルエンザを初めとした感染症の流行、2022年に起こった強烈な熱波が原因であるとINSEEは言及している。(2022年のフランスでは、熱中症に関連した死亡者数が10,420人にもなった)
しかしながら男性の平均寿命は79.3歳、女性の平均寿命は85.2歳と伸び続けていることから、死亡者数の増加は時期的・一過的なものであると推定される。

また婚姻数が多かったことも2022年の大きな特徴だ。
昨年には24万4000組の結婚が成立し(2021年と比較して11.5%増、うち同性婚が7千件)、パックスは20万9000件を越した。
ただ、これはパンデミックを通して絆が深まった、という感情論より「パンデミック時に役所で結婚宣誓式ができなかったため、2022年に延期したカップルが多かった」という超現実的な結果である。
よって婚姻数は2023年以降「停滞するだろう」とINSEEも指摘しており、死亡者数増加と同じく一過性の出来事であることが分かった。
 



パリ最新情報「フランス、少子化に転向か。しかし人口増というカラクリの謎」

 
ところが一過性と位置づけられないのが、フランスにおける出生数の減少である。
フランスが2022年に記録した出生数は、1946年以来最低の72万3000人だった。
この背景には20代~30代の女性人口が減少しているのも関係しているが、仏社会学者・人口統計学者のカトリーヌ・スコルネ氏によれば、「フランスの社会不安・女性のキャリア志向が妊娠・出産を“先延ばし”にしている」という。

社会不安とは、紛れもないパンデミックの影響(主に雇用不安)、高すぎる生活費などである。
それが女性のキャリア志向と密接に絡まり、妊娠・出産を制限するか延期しているとスコルネ氏は指摘する。

またスコルネ氏は、家庭での「自立指導」が近年強く影響していると結論付けた。
これはフランスの第二波フェミニズム運動ともかなり関係していて、1981年〜1995年のミッテラン政権における「男女職業平等法」が施行されたことが大きかった。
言い換えれば、この時期に母親となった女性はフレンチ・フェミニズムの影響を強く受けており、それを我が娘への自立指導・教育に反映させたのだ。

こうして育った女性たちはキャリア志向が非常に高く、人生の充実度を母性以外に図る傾向がある。
またフランスの不妊治療技術も信頼度も高いため、結果的に30代半ば〜40代前半に妊娠・出産を延期するか、そもそもの産む人数を制限するか、という選択が可能になった。(フランスでは不妊治療は43歳の誕生日まで無料である)

それでもフランスの出生率は2022年で1.8と、ヨーロッパ諸国の中でも依然として首位のままだ。
ただこの出生率は2014年代以降、低下の一途を辿っており、フランスが少子化問題に直面し始めたというのは明らかである。
このように2022年のフランスの人口推移は、例年より社会情勢を強く反映したものであるのが印象的だった。(オ)
 

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