JINSEI STORIES
滞仏日記「奥さんがいたら、わしも買い物一緒に行く、とくっついていくんだもん」 Posted on 2023/01/16 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、なんとなくフランスのテレビを観ていたら、面白い特集してた。
ずっと仕事を続けたいので、定年退職年齢を遅らせたい日本、逆に一日も早く定年退職をして遊んで暮らしたいフランス人、というテレビの特集。
なぜ、日本人は定年退職を急ぎたくないのか、という番組なのであった。内容に、若干、無理があったけれど、なるほど、とうなずける部分もあった。
その前に、おさえておきたい。
現在、仏政府は定年引き上げを含む年金改革案を発表したばかりだ。
これに対する反発が半端ないのである。そこで、対照的な国である日本を持ち出し、こういう特集が組まれた、というわけ・・・。あはは。
1月12日に配信した、デザインストーリーズの「パリ最新情報」に詳しくは譲るけれど、フランスでは、実質的な定年にあたる年金受給開始年齢を現行の62歳から「段階的に」引き上げ、今から7年後の2030年には64歳に定めるというのである。
「定年退職年齢を引き上げなければ、年金支給額の引き下げや増税などさらに不当な措置を取る必要がある」とフランスの首相は言った。2030年には国の借金が200億ユーロに達するらしい。
これを受け、革命家の末裔であるフランス人たち、黙ってるわけがない。
コロナ流行直前の2019年末にはフランス国鉄・パリ交通公団による合計で47日間の「ゼロメトロ」ストライキが勃発したぁ!
今回の「定年引上げ」+「年金制度改革」はもっとすごいデモが起こる可能性、あり。
1月19日、すでに、大規模なデモが予定されているのだ。(この時期、パリを訪れる予定の観光客の皆さん、気を付けましょうね)
「わしも族」と「濡れ落ち葉」という言葉をご存じであろうか?
これはどちらも日本で使われている言葉である。
ご存じない皆さんのために、ちょっと解説をしておく。定年退職して暇を持て余した夫が、妻が買い物に出かけようとすると「ワシも行く」とつぶやき、くっついてくることから、このような人たちを「わしも族」と誰かが呼びだした。
もともとは、定年退職後、妻にまとわりつく夫のことを、払っても払ってもぬぐえない「濡れ落ち葉」に譬えていたが、最近は「ワシも族」に落ち着いたのだ、という。衝撃的では、あーりませんか。
フランスのテレビ局がこれを詳しく紹介した。ひゃあああ。
日本人はワーカホリックで、いわゆるフランス的なバカンスという習慣がない。(一方、フランスは夏に2か月程度の休みがあり、それ以外にも二週間程度の休みが年に4,5回もある。学生に合わせて、親も一緒に休む。バカンスのために働いている人が多い)
フランスの司会者は、『なので、日本では定年後、やることがなくなり、長い老後を持て余す男性が増えている。そういう人は「わしも族」になって家族に嫌がられる。だから、定年を少しでも伸ばして、働き続けたい、のである。一方、フランス人は一日も早く会社を辞めて、退職金を貰って、海外移住でもしてのんびり余生を暮らしたいのだ』ともっともらしく結論づけていた。
うーむ。そうなのかなぁ。
確かに、うちの父親は猛烈社員で、仕事の鬼で、後半、窓際族になり、定年後、やることがなくなり、或る時、この世界を見切るように、老衰死したのであった。
父さんから仕事を失くすと何が残ったのだろう。
逆に、母さんは手に職を付け、いまだに刺繍などの先生を続けている。
そういえば、父さんはある種の「濡れ落ち葉」であった。ある日、母さんが、「いつもついてくるからね、困るとよ」とこぼしていたっけ・・・。
ともかく、フランス人はマジで、定年退職後、働かない人が多い。旅をしたりしている。
ぼくは「働くのが好きなら働き続けた方がいい」と思っている方だから、やっぱ、日本的頭脳回路なんだね、・・・。
だって、ぼくには定年がないんだもの。
会社勤めをしたことがないので、死ぬまで働く。しかも、やめることを考えたこともない。
一部の作家が、断筆宣言なんてものを発表したりするけれど、ぼくは大作家でもないから、そういう宣言にまったく興味がない。
死ぬまで原稿料で生きていく。
働き続けないとならないのだけど、苦じゃない。もっとも、仕事って思ったこともないか、好きなことやってるだけだから、日記とか苦じゃないし・・・。
ぼくは最初からお金にならなくても「好きなことだけをやる」と決めて、この世界に飛び込んだ。ろっけんろー!
ボーナスとかもらったこともないし、会社の保険(なんていうんですか?)も加入したことがない。
「ツジ、不安じゃないか」と若い頃、みんなにからかわれた。
同級生たちはみんな一流企業に就職していった。
でも、好きなことをやるのがいいのは、終わりがない、ということだ。
好きだから、ストレスにはならないもんね。長くこの仕事を続けられるのは、それがどんなに大変でも、好きだから持続可能なのである。
なので、定年退職という文字が最初からぼくには存在しましぇーん。
年金も諦めていたけれど、(多くはありませんが、この20年間分の結果)、来年から受給されることになった。貰うかどうか、まだ決めてない。
どうせ、働くことはやめないし、リタイアって、よく考えたら、ぼくには意味のない言葉だから・・・。
しかし、例えば、ぼくがもしも、会社員だったら、定年退職日までに「次こそ、好きなことをやろう」と決めて、その準備に入る気がする。
というか、ぼくは今からだって、新しい仕事というか表現をスタートできる、と真剣に思っている。
もっとも、手一杯だけれど・・・あはは。三四郎もいるし。
「わしも族」か、でも、いいなぁ。ちょっとだけ、憧れるのは、そういう相手がいるのはいいね。
「あなた、買い物に行ってきますね」
「あ、わしも行く!」
小太りのかわいい幻の妻が、微笑む。そういうの、いいじゃないの~。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
そういえば、ぼくはもっと田舎に引っ越そうかな、と思い始めているんです。気が早い。というのは、友人のチャールズ一家が山の上に家を買ったんですね。建設中・・・。ぼくもその近くに土地付きの家を買って、(今のアパルトマンを売ってだけど、田舎だから、高くない・・・)、畑とか作って、ミョウガとか、フランスにないから、育てて売るって、どうですか? 今、丘の上の最上階、見晴らし360度で最高なんだけど、80歳になったら、昇り降り不可能じゃん、老後を考えるって、こういうことでしょ? あはは、そういう計算だけはやっています。チャールズ夫妻が、HITOさえよければ、うちの庭にログハウス建ててもいいのよ、といってくれたから、よりどころ、にいいしね、友だち大事ですね・・・えへへ。
さて、お知らせですよ。
NHKの「パリごはん、秋冬編」放送日ですが、
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】なのです。ついにちくわず男の義和Dが編集に入った模様です。4か月半に及ぶ、父ちゃんのアフター子育ての記録です。引っ越しあり、三四郎との旅もあり、てんこもりですぞ。
「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分)
そして、再放送もあるようです。21日って、5日後じゃないか!!!
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送
ついでに、命をかけたパリ「オランピア劇場」でのライブ、5月29日、・・・あと、4か月半、おおお、近づいてきましたね。よっしゃー、熱血~。
朗報です。在仏の皆さん、フナックでチケットゲットできますよ!!!フナックのチケット売り場で堂々と発売中です。
それから、オランピア劇場ライブの翌日に、JALパックさんが企画をし、ぼくがよく知るレストランで、せっかくだからランチ会をやることになりました。ぼくも顔を出し、トークをやる予定ですので、せっかくパリに来られる皆さま、よろしければ、どうぞ、ご参加ください。JALパックさんに相談をすれば、モンサンミッシェルなどのツアーも・・・。この機会に、ぜひ。
詳しくは、こちらのURLをクリックください。
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続いて、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」はこちらです。ルクセンブルグで28位とお伝えしましたが30位から圏外に落ちたのに、今日、また29位にランクインしたんです。ルクセンブルグ大公国に感謝!!!
無料でも聞けます。ってか、ほとんど無料に近いですので、思う存分楽しんでください。
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https://linkco.re/2beHy0ru