JINSEI STORIES
滞仏日記「どこへ向かっているのだ、父ちゃんとさんちゃん。悲惨な珍道中」 Posted on 2023/01/07 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、バレンシアへ向かっていたのだけど、果たして、スペインにはいつ辿り着くことが出来るのか、という事態になっていた。
運転疲れが凄まじい。若作りでも、63歳の肉体なのであーる。笑。
飛行機ならば3時間でスペイン入り出来たところを、気まま自動車旅を選んだがために、二日ほどが経ったが、いまだフランス国内、という「ていたらく」。
しかし、誰かに会う約束もないし、宿も予約していないので、ダメならばもう一泊すればいいだけのことであった。
昨夜は寝る前に、地図を眺めながら悩んだ父ちゃん。
ここからモンペリエまでは、ゲゲゲ、ピレネー山脈を迂回しないとならないじゃん。5時間近くもかかってしまう。そこから、バレンシアは、ゲゲゲの鬼太郎、7時間! オーマイガッ。合計、12時間もかかってしまう。
ミッションインポッシブルじゃ。
地図を眺めながら、うーん、と悩んだ父ちゃんであった。
いや、大西洋側に出て、サンセバスチャン、サラゴサを経由して、バレンシアを目指せばもっと早く着くんじゃねー?
グーグルマップ先生に訊いたら、8時間で着くよ、と回答が戻って来た!!!
「サンシー、8時間なら、大丈夫?」
「わわわん」
「だよな。バレンシアは諦めるか」
諦めるんかい、と思われた皆さん、まだ、わからないのだけれど、正解かも・・・。
ということで、ウリセスさんから、
「いつバレンシアに来るの?」21:08
と催促メッセージがやってきたので、
「出来るだけ早くいくよ」21:09
とすっとぼけた父ちゃん。
「会えるの楽しみ」21:09
「明後日にはスペインにいるでしょう。でも、北に行く」21:10
「ナイス!」21:10
とわずか、2分間で、見事な軌道修正を成し遂げた父ちゃんであった。あはは。
ということで、今日は、朝の11時にボルドーを出たのはいいが、ちょっと体調がいま一つなのである。
バレンシアまで8時間10分はさすがに辛いよね。
もう、スペインなんか、諦めて、パリに帰ろうよ、と心の声が聞こえてきた。
とりあえず、高速に乗り、北スペインを目指すことになったが、道がまっすぐすぎて、眠気に襲われてしまう・・・眠い、zzz。やばい。
すると、高速道路の掲示板?に「Saint-Jean-de-Luz」という標識が。
※読者の皆さん、二週間ほど前の日記に、マグロの大トロのペペロンチーノを作ったことを記したのですが、覚えていらっしゃいますか?
ぼくのお気に入りの15区のトマのワイン屋で買った「マグロの大トロの瓶詰め」でパスタを作った。あの日記であーる。
あの世界一美味い極上マグロがサンジャンドリュズ、Saint-Jean-de-Luzのマグロなのだった。ここはフランスでも随一のマグロの宝庫! ここしかない!
その次の瞬間、眠気を吹っ切るように、高速の降り口へとハンドルを切った父ちゃんであった。うりゃああああああ!!!!
「サンシー、今日はこれから、マグロを食べに行くぞ」
「えええ? パパしゃん、バレンシアはどうなるの?」
「いいか、三四郎。決められたコースを行くのが旅行だ。しかし、決められたコースを飛び出して、自由に移動するのが旅なんだ。俺たちは今、旅をしている、旅行じゃねー。アンカーマンだ。ぐちゃぐちゃ言わねーで、父ちゃんについて来い!!!!」
ということで、次の目的地、サンジャンドリュズに到着した三四郎と父ちゃんなのであった。
あはは。どうなってるの? 父ちゃんの頭の中・・・。
従うしかない三四郎が、可哀想、とか皆さん、言わないで・・・。
さんちゃんを何よりも大切にしているんだから。
※ マルシェの入り口・・・。
サンジャンドリュズは多分、フランス、最西端の漁港であり、避暑地なのである。
ぼくが暮らすノルマンディの海のような、いや、熱海の海岸のような、和歌山の白浜みたいな、弧を描いた砂浜が続いていて、美しい小さな海沿いの街だと、評判であった。
リタイアした仏人の老夫婦がおおぜい暮らしている。
ぼくらは車を市内に停めて、まずは、いつものように、宿探しを開始・・・。
ネットで、手ごろなホテルを見つけて、いつものようにまずは予約を入れる。
今回は、とある航空会社のマイルが残っていたので、マイルで宿泊できるホテルをゲット!!! マイル、ありがとう。
チェックインまでちょっと時間があったので、さっそく、三四郎と二人でマグロを食べに海まで歩いたのであった。
期待が高まる、これぞ、旅の醍醐味であった。
ネットで「マグロが美味しい店、サンジャンドリュズ」と入れて検索をかけると、出る出る出る、いろいろと情報が出てきた。
「マルシェ内の屋台で食べるマグロが最高でした。イスラエル人、29歳」
「マルシェ横のレストランで食べたマグロが絶品でした。ドイツ人、56歳」
「海沿いのレストランで食べたマグロがこの世のものとは思えませんでした。フランス人、43歳」
おおお、この世のものとは思えないマグロに出会うんじゃあ。
ところがであった。マルシェはなぜか公現祭だからか休みで、マルシェ横のレストランも時間が遅すぎたのか閉店中なのだった。
昼食には遅い時間、夕飯にはかなり早い中途半端な時間であった。
仕方がないので、海沿いまで三四郎と歩いた父ちゃん。どこだ、どこだ、きょろきょろ。
探し回ること一時間、ネットで検索した「この世のものとも思えないマグロ」が食べられるレストランを発見、周辺の店が全部、閉まっているというのに、そこだけひっそりと開いていた。
ラッキー。
ちょっと風が冷たかったが、テラス席に陣取った二人・・・。
「いらっしゃいませ。何にいたしましょう」
「この世のものとは思えないマグロをください」
「申し訳ありません。今は、時期的にマグロがとれないのです」
げげげげげ、そういうオチでいいのか、と激怒しそうになった父ちゃんであった。
つまり、この時期、マグロが水揚げされない、とお店の大将が言い張るのであーる。
仕方がないので、父ちゃんは「本日のスペシャル」である蛸を注文することに。蛸のグリル。
美味しかったのだけれど、何か釈然としない父ちゃんと三四郎であった。
しかも、である。災難は続く。
※ マグロがないので、ポテトをサービスでくれた。こんなにポテトフライばかり食べらないよ、減量中なのに! でも、ありがとう。完食。あはは。美味かった
食後、気分を変えるために、海に降りようとしたのだけれど、な、なんと、犬は禁止、と看板が。
仏語の読めない三四郎はリードを引っ張って、浜辺へと降りようとするのだけれど、赤い禁止文字がそれを阻止する~。
「三四郎、ここの海岸はダメだった。すまん」
「わわわんわん?」
「理由はわからないが、犬は入れないんだ」
「そんな~、パパしゃん、あの浜辺を走りたいよー。車はもう嫌だよ~」
ということで、三四郎を抱きかかえ、ぎゅっと抱きしめ涙した父ちゃんであった。ぐすん。
生ハムだぶつ。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ちょっと、疲れてきたので、今日は、のんびりとしたいと思います。そろそろ、エッセイの締め切りがいろいろと迫ってきているので、仕事にも戻らないとならないし、スペインに行くと豪語したのに、なかなか辿り着かないし、ふて寝しかありませんね。さて、どうなることやら・・・。マグロが食べたい。
毎度、お知らせです。
次の地球カレッジ「文章教室」は、1月29日、日曜日に開催されますよ。
「エッセイの書き方教室、第1回」。
今回の地球カレッジ「文章教室」は、どうやってエッセイを構想し、実際に書き、また、推敲をしていくのか、についての講座となります。課題応募されたエッセイの中から選ばれた数本のエッセイを、辻仁成が細かく指導、推敲、研磨していきます。
「エッセイ依頼内容」
今年最初の課題は、また一から、食にまつわるエッセイとなります。
「お子さんやパートナー、家族、同居人に日々作る、作ってもらっている、頂いている、ごはん。外食も含め」について、その人生の深部、喜怒哀楽を書いてください。題して、「日々のごはん」です。字数は1000字前後、1500字以内、とします。締め切りは1月22日とさせていただきます。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。
それから、2023年5月29日にパリのミュージックホール、オランピア劇場で単独ライブやります。
5月29日のオランピア劇場ライブの翌日に、JALパックさんが企画をし、ぼくがよく知るレストランで、せっかくだからランチ会をやることになりました。ぼくも顔を出し、トークをやる予定ですので、せっかくパリに来られる皆さま、よろしければ、どうぞ、ご参加ください。JALパックさんに相談をすれば、モンサンミッシェルなどのツアーも・・・。この機会に、ぜひ。
詳しくは、こちらのURLをクリックください。
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続いて、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」はこちらです。無料でも聞けます。ってか、ほとんど無料に近いですので、思う存分楽しんでください。音楽が危機的な状況ですけど、ミュージシャンたちは頑張っています。
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https://linkco.re/2beHy0ru