JINSEI STORIES
滞仏日記「苦み走ったいい男社長になった父ちゃん。到着したばかりの新そばを喰らう!」 Posted on 2022/12/27 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日は午前中、パリのJALパックさんで会議があった。
現在、パリのJALパックさんがフランス以外からオランピア劇場にやってくる方々のチケットの代行をやってくださっている。
せっかくパリまで来られる日本の方々のために、せめてトーク&ランチなどできないものか、と打診を受けたのだった。
実は、父ちゃん、会社勤めの経験がないので、会議室が珍しい。
ほー、こういう場所で皆さんは日々、会議をされているのか、と思ったら、不意に、社長さんになった気分になった。←なんで?
だって、オーバルの黒い会議テーブルの真正面に4,5人のスーツマンがずらっと並んで、ほら、ドラマとかであるでしょ? 加藤雅也さんとかが黒い背広来て、苦み走った(にがみばしった)いい男風のカメラ目線で、
「よし、じゃあ、オランピア劇場に視察に行くか。いよいよだな。中村くん」
みたいなこと言うじゃない?
そういう妄想が起きた、と・・・。あはは。
中には、先月、東京から着任したばかりの若い人なんかもいて、そういう、世界を股にかけて仕事している感じが、サヨナライツカの続編に繋がるのか、って、あ、そうそう、あの作品も航空会社がモデルであった。うふふ。続編かぁ・・・。
※ 行列ができる蕎麦屋、オペラの「東郷」。
ま、妄想の激しい男なので、お許しを。でも、楽しかった。
コロナ禍でこの数年、観光業はご存じのように大変であった。
なので、JALパックの皆さんも、真剣なのである。
多くの方が働いていたので、日本からの皆さんは安心してお越しいただきたい。
ともかく、まとまりそうなので、よかったよかった・・・。(詳しくはJALパックさんの発表をお待ちください。そういえば、その会議で判明したのですが、オランピア劇場のVIP席は売り切れたみたいです、メルシー)
手を振りながら、JALパックパリ本社を後にし、オペラ街へと出たら、ショーウインドーに映った自分の姿があまりにも、普通のおっさんだったもので、不意に現実に・・・。
恥ずかし~、となったのであった。えへへ。
ということでお昼だったので、事務所のメンバーとその後、行きつけの蕎麦屋「東郷」へ。ちょっとまだ社長の役から抜けきれない父ちゃん、加藤雅也さんを気取り、暖簾をくぐると、東郷の女将がぼくを見つけ、
「辻さん、新そば、やっと届きましたよ」
とおっしゃったのであーる。
マジか、おお、壁に、「新そば」の文字が踊っている!!!
父ちゃん、ご存じのように、蕎麦には目がない社長なので、ひゃああ、新そばじゃーん、と嬉しくなったのであったぁ。←いちいち、大げさな書き方ですいません。
蕎麦というものは、秋に収穫をし、蕎麦粉卸業者さんなどが保管をし、全国に徐々に出荷されていくのだけれど、とれたてのまだ緑色をした蕎麦を「新そば」という。
古くなると、色も味も多少ね、変化していく。
今年は、戦争とか様々な事情で入荷が遅れたというのだけれど、どれどれ、蕎麦好き男としてはもう、気がせいて、新そばと聞いて、落ち着かなくなって、腰が浮いて浮いて、しょうがなーい。
「女将、蕎麦の前に、なんかあるでしょ?」
こういう注文の仕方をする、辻社長なのであった。←いや、いきなり、蕎麦を食べるのもね・・・。
「なんでしょ? あ、ズッキーニの田楽とか?」
「ぎゃあああ、マジか! なんて、素晴らしい提案なんだ。君、採用だ」
「は?」
「すいません。先生は今日、社長になり切っているんです。JALパックの社長」とスタッフさん。
「はぁ、・・・あはは」
周囲のお客さんの笑いを誘った父ちゃんであった。
そこへ、赤ちゃんを連れた日本人の若いご夫婦がやってきた。
赤ちゃん、ぷくぷく、ふくよかな顔立ちをされている。かわいい。
大阪弁のお母さんが、新そばを注文されていた。よしよし、日本だなぁ。辻社長はニコニコご家族を見守ったのであった。
そこへ、出たぁ!!!!
これか、すごいな、ズッキーニの味噌田楽の登場じゃあ。味噌が香ばしく焼けており、ふわー、ひっくり返りそうな存在感なのであった。
ぼくはいつもの酒(福井の常山)を舐めながら、味見をしたのである。
「うまーい。女将、これ採用!! ビズリーチ!!!」
隣のあかちゃんに、怪訝な目で見られてしまった。思わず、べろべろばー、をする父ちゃん。すると、赤ちゃんが泣きだした・・・。わ、やば・・・。
「社長、お静かに」
※ 福井名物、ソースカツ!
「先に食べたら、交代してね」
と奥さんが旦那さんに言った。
「うん、わかった」
赤ちゃんがぐずっているので、お母さんはあやすのに大変なのだ。
先に食べてと言われても、落ち着かないだろうに、素早く食べて交代するお父さんも偉いし、その間、じっと待っているお母さんも偉い。
子供はこうやって育てられていく。
その子、Mちゃんは15か月なんだとか、三四郎と一緒であった。
十斗の15か月を思い出した。
走馬灯のように懐かしい光景が辻社長の脳裏を駆け巡り、ぐ、と涙ぐむのであった。
加藤雅也さんのように、ちょっと、苦み走りながら、・・・え? 無理? ひどーい。
「お待ちどうさまです」
そこに、新そば、登場。おおお、泣いたカラスがもうワロタであーる。
「うまい!!! 新そば、最高じゃああ。つるつる、しかし、歯ごたえ、すげー」
父ちゃん、蕎麦だれで食すより、日本酒を少々、フラードセルをちょこっとかけて、食べるのが大好き。
新そばの繊細な風味を、蕎麦だれで胃に流し込みたくはない。
日本酒と蕎麦と塩の華の相性は抜群なのだ。
美味すぎた。
食べ終わったお父さんが、お母さんから赤ちゃんを受け取り、やっとお母さんの番になった。きっと、新そばに感動されたことであろう。
蕎麦は縁起のいい食べものである。大晦日の夜から元日にかけて「年越しそば」もある。
家族、幸せに生きてほしいなあ、と思いながら、辻社長は、女将にご挨拶をして、堂々と店を出たのであった。
加藤雅也さんなら、あのシャープな目で、青空を見上げたことであろう・・・。
12月末のパリの風のなんと爽やかなことよ。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
カウンターには、フランクフルトからやってきたご家族も、おられました。現地で育っている大きなお子さんが二人、やっぱり、蕎麦だよねー、と思った父ちゃん、自分のことのように、嬉しかったのであります。皆さん、よき旅を続けてくださいませ。お時間あれば、オランピア劇場へも、ぜひ! あはは。宣伝宣伝・・・。
さて、次の地球カレッジは、来年の1月29日、日曜日になりました。課題を書き参加されたい皆さん、以下をご参照ください。
「エッセイの書き方教室、第1回」
今回の地球カレッジ「文章教室」は、どうやってエッセイを構想し、実際に書き、また、推敲をしていくのか、についての講座となります。課題応募されたエッセイの中から選ばれた数本のエッセイを、辻仁成が細かく指導、推敲、研磨していきます。
「エッセイ依頼内容」
今年最初の課題は、また一から、食にまつわるエッセイとなります。
「お子さんやパートナー、家族、同居人に日々作る、作ってもらっている、頂いている、ごはん。外食も含め」について、その人生の深部、喜怒哀楽を書いてください。題して、「日々のごはん」です。字数は1000字前後、1500字以内、とします。締め切りは1月22日とさせていただきます。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。
さて、加藤雅也さんですが、インスタをはじめられたようです。ファンの皆様、チェック!
父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、実は、日本蕎麦との相性も抜群なんです。このアルバム聞きながら、すする蕎麦はもう、超・ソウルフルですからね。新そばがのど越しあたりで跳ね返りますよー。
蕎麦屋のご主人が羨ましい父ちゃんですけど、ジャパニーズソウルマンも、がんがん聞いてもらいたいものです。
☟
https://linkco.re/2beHy0ru
それから、来年、2023年5月29日にパリのミュージックホール、オランピア劇場で単独ライブやります。
パリ・オランピア劇場公演のチケット発売中でーす。
直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。
☟
https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/
フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、
☟
https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/