JINSEI STORIES
滞仏日記「本気おじさんが出現、吠えない三四郎が吠え続けたクリスマス」 Posted on 2022/12/26 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、クリスマスだったが、特に、何も用事はなかった。予定なし。
明日、アドリアンとカリンヌが来るかもしれない、と思い出し、牛肉を煮込んだだけ・・・。でも、グーラッシュは一晩煮込まないと美味しくならないので、コツコツ・・・。
※ ぼくのお気に入りビール、ピルスナー・ウルケル(チェコ)。美味しいよ。苦味があってね。鳥天蕎麦にあうんだよなー。
朝、8時に息子が起きてきて、アルバイトに出かけて行った。いってらっしゃい、と久々送り出してから、三四郎を散歩に連れ出した。
何も予定がないので、好物の鳥天を作り、十割蕎麦で頂いた。クリスマスに、蕎麦。クリスマス・イブに鯛めしって、あはは、いいっしょ?
満腹になったので、昼寝をし、目が覚めたら午後3時だった。※ぼくは明け方、執筆している。なので、二度寝が通常モードだ。
なぜか、寝起きに、「有馬さん、どうしているかな、最近、連絡ないなぁ」と思ったので、
「どうしてますか?」
とメッセージを送ったら、日本から戻って来たばかりです、との返事。
「よかったら、三四郎とめいちゃんを遊ばせませんか?」
とメッセージを送ったら、
「ぎゃーん、最高だぁ。ガッテンしょーち」
という返事が戻って来た。あはは。
あいかわらず、面白い人である。
有馬ご夫妻が育てているかわいい子犬の名前が、めいちゃん(ヨークシャーテリア、4歳)。
ぼくらはお互いの家のちょうど中間にある公園で待ち合わせることになった。
クリスマスではあったが、パリ中心部は、世界中の観光客で賑わっていた。
公園でおちあったが、有馬さんは本当に犬好きで、心が優しく、それが犬にはわかるのであーる。
サンシー、激しく尻尾をふりふりしながら、もの凄い勢いで有馬さんに突進。抱きかかえられたと同時に、有馬さんの顔をペロペロ、ずぶぬれになるくらい舐めまわしたのである。
有馬さんは、めいちゃんと三四郎相手に、とにかく、よく走り回った。
ぼくがここのところ、力不足で、一緒に走ってあげられないから、ここぞとばかり、有馬さんと遊ぶ三四郎が可愛かった。
今日の有馬さんの出で立ちは、ニット帽をかぶっているのだけど、そのニット帽のかぶり方がちょっとユニーク、とんがっていた。
ニット帽なんだけど、とんがりコーンのようで、山高ニット帽になっている。ちまたで流行しているのかもしれない。
「さんちゃーん」
「めいちゃーん」
と子犬たちをおいかける、日本のおじさん、実に心が洗われる光景であった。
ぼくは彼がやっていたという「ニュースウオッチ9」という報道番組を知らない。
在仏歴20年なので見たことがなかったし、テレビの中でニュースキャスターをやっている有馬さんの姿も実はよくわかっていない。
ぼくが知っている有馬さんは、とんがりコーンのようなニット帽をかぶって、子犬たちと戯れる日本の元気なおじさんである。
「彼は犬がほんとうに好きなんだねぇ。あんなに一生懸命、全力で子犬と遊ぶ飼い主をここらへんでは見たことがないよ」
とフランス人のムッシュ、モンゴとビアンキャのお父さんが言った。
その時、有馬さんはとんがりコーンのニット帽で、公園を全力疾走中であった。
ぼくがパリの冬の光景を携帯で撮影していると、そこに、不意にニット帽が映り込んだりするのだから、犬にはたまらない本気おじさんなのだ。
※ ぼくが奥の可愛い二人を撮影していたら、いきなり左手画面から、登場し、過って行ったのが、有馬嘉男であった。その貴重な一瞬を、・・・。
だから、普段吠えない三四郎が今日に限って、興奮し、吠えまくっていた。
「遊んでよ、遊んでよ、ありゃましゃーん」
ぼくには、そう聞こえた。
「さんちゃーん。ボウル、投げるよー!!!」
「この子は吠えない子なんですよ」
と自慢した直後から、有馬さんご夫妻と別れるまで、ずっと吠え続けた三四郎。やれやれ。有馬さんがいなくなった後、ぼくは果たして有馬さんに負けない情熱を三四郎に対して傾けられるであろうか・・・。
※ 走る有馬さん、横に、めいちゃん。
みんなでカフェに行ったが、犬の話で盛り上がった。
有馬さんと何について話をしたか、しかし、ぼくの記憶には残っていなかった。
実は、ぼくは有馬さんと、もうちょっと話したいことがあった。有馬さんはジャーナリストなので、パリにいるジャーナリストがどのような視点でこの世界を見ているのか、聞いてみたいことがあった。
日記には書かないけれど、ぼくはいろいろと日々、考えている。
コロナがあり、みんながワクチンを打つ時代になり、マスクが議論の対象になり、戦争がはじまり、いろんな民主主義が登場し、分裂した世界、・・・ジャーナリストはどう考えているのか・・・
有馬さんとは、いつ会っても、犬の話なのが、ちょっと残念なのだ。しかし、それも、平和ということでいいのかもしれない。
確かに、話すこと、それは、難しい時代でもある。
しかし、そういう平和の裏側にこそ、この世界の厳しい現実の奈落があり、ぼくらが足を踏み外すのを待ち構えている。明日は我が身の世界が広がっているのである。
有馬さんと過ごす時間にぼくが考えるのは、いつも、その向こう側の世界のことだったりするのだけれど、ま、それはまた、次回ということでいいだろう。
とにかく、三四郎がありゃまさんに愛されたくて、うるさくてうるさくて・・・。
帰りに、奥様に「写真いいですか」と言われ、撮った写真がこちらである。
※ あれ、ニット帽、外している!!!!!! いつのまに!!!!
有馬さんと別れ、ぼくはクリスマスの夜道を三四郎と歩いた。
一昨日、オペラのスタンドバーでドラマーのコーゾー君が、帰ろうとするぼくの背中に向かって、
「辻さん、ぼくはまだ辻さんと話し足りないですよ」
と言った。
でも、その時、ぼくはこう返した。
「語ることよりも大事なことがある。それが音楽」
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
なんで、63歳にもなって、こんなに音楽を真剣にやるのか、それはきっと今、音楽でぼくは届けたいことがあるんだと思うのです。コーゾーとケンタウロスとは、ぼくのソロ活動とは別に、バンドでやってみたい。世界中、気楽に回ってみたいんですよね。ギリシャとか、スペインとか、モロッコとか、南米とか、・・・オランピア劇場は素晴らしいです。でも、路上でやるのももっと素晴らしいです。語る前に、ぼくは演奏したいんですよね。身体、足りないですね、一つじゃ。命も・・・。
さて、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、探せば、無料でも聞けるみたいです。本人、びっくりしたんですけど、プラットホームの中には、まったく無料で訊けるところもありました。それでいいんです。聞いて貰えたら嬉しいです。画家が羨ましい父ちゃんですけど、なんとか、しますから、がんがん聞いてください。
☟
https://linkco.re/2beHy0ru
それから、来年、2023年5月29日にパリのミュージックホール、オランピア劇場で単独ライブやります。
パリ・オランピア劇場公演のチケット発売中でーす。
直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。
☟
https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/
フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、
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https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/
さて、次の地球カレッジは、来年の1月29日、日曜日になりました。まだ、発表にはなっていませんが、課題を書き参加されたい皆さん、以下をご参照ください。
ちょっと、変わる可能性もありますが・・・。
「エッセイの書き方教室、第1回」
今回の地球カレッジ「文章教室」は、どうやってエッセイを構想し、実際に書き、また、推敲をしていくのか、についての講座となります。課題応募されたエッセイの中から選ばれた数本のエッセイを、辻仁成が細かく指導、推敲、研磨していきます。
「エッセイ依頼内容」
今年最初の課題は、また一から、食にまつわるエッセイとなります。
「お子さんやパートナー、家族、同居人に日々作る、作ってもらっている、頂いている、ごはん。外食も含め」について、その人生の深部、喜怒哀楽を書いてください。題して、「日々のごはん」です。字数は1000字前後、1500字以内、とします。締め切りは1月22日とさせていただきます。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。