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息子のための料理教室・日記「炊飯器で作る鯛めしを息子に教えるの巻」 Posted on 2022/12/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、クリスマス・イブなのであった。
予定通り、息子が我が家に泊ったのであーる。新居に引っ越してから、はじめてのお泊りとなった。つもる話はゼロ。えへへ。
ソファベッド(みたいなの)があるので、そこで寝られるようにしてあげた。
特に会話をするというわけでもない。テレビもないから、団欒を楽しむということもなく、十斗は携帯をみながら、時々、三四郎と遊んでいた。父ちゃんはギターの練習。
夕方、二人で夜ごはんの材料を買いに、スーパーへと向かった。
「何が食べたい? 遠慮するな。なんでも作ってやるぞ」
相変わらず、父親風を吹かせるおやじなのであった。あはは、うざいわ。なんでも買ってやるぞ、なんでも作ってやるぞ、というのがうるさいオヤジの口癖なのである。
こんなことでしか父親の威厳を発揮出せない昭和感、ううう、ダサいわぁ・・・。
「なんでもいいよ。パパのご飯なら」
で、いつも、こういう欲のない、というか、そつのない返事が戻って来る。
なんでも、というのが、実に難しい。ハンバーグ、とか、チキンロティ、とか言われた方が楽なのだけれど・・・。親子というのは実にめんどうくさいのォ。
すると、目の前の魚屋に大きな「安売り」看板を発見。見たら、ドラッド・ロワイヤル、高級な鯛、しかも、超でかいのが、売り出されておった。

息子のための料理教室・日記「炊飯器で作る鯛めしを息子に教えるの巻」



珍しいなぁ、鯛の安売りか・・・。キロ売りなので、その時点でどのくらい安いかわからなかったが、隣のスズキの三分の一程度であった。ほー。
「これ、いくらですか?」
店員さんが一尾を秤に載せた。※豆知識、生きてる鯛は一匹で、釣り上げられ売られている鯛は一尾と数えます。ま、硬いことは言わないでもいいでしょう。
「4€くらいです」と店員さん。
「は?」
おどろき、思わず、息子の顔をみてしまった。
「安いね」と息子。
こんなでかい新鮮な鯛が、一尾、5~600円程度かぁ、鯛の中でも一番高級なロワイヤルなのに・・・。
「マジか? そんな安く、こげんおおきか鯛ば買えるとか?」
思わず博多弁になった父ちゃんであった。ぶったまげた。安すぎる。るんるん。
「じゃあ、二尾ください」
一尾を鯛めしにし、もう一尾を刺身にして、鯛尽くしにしよう、と決めたのであった。
「鯛めし、いい?」
「クリスマスに?」
「嫌か?」
「いいや、食べたい。クリスマスに鯛っていいよね」
ということで、即刻、決定となった。イブに鯛!
浮いた予算で、フォアグラとか、いくらとか、サーモンなども買った。

息子のための料理教室・日記「炊飯器で作る鯛めしを息子に教えるの巻」



「一人暮らしに便利な料理を教えてもらいたいだろ?」
こういう言い方しかできないのか、このオヤジは・・・、と思いません?
「炊飯器で作る超簡単で、料亭の味、習いたいだろ? 安い鯛があったら作れるし、友だちに自慢できるぞ」
「うん」
「よっし、じゃあ、教えたる」
一人暮らしをはじめた息子に、いろいろと自炊の方法を教えてきたが、この辻家の炊飯器で作る鯛めしは、高級料亭土鍋鯛めしには負けるが、まことにうまいのである。
ま、何より、超簡単なのが便利でよろしい。
ということでキッチンに立ち、まずは、鱗の取り方から教え、一尾は刺身用に三枚におろしてみせた。これは昆布茶を使って簡単こぶ締めに。正確には昆布茶締めなり。
30分くらいで味が染みるので、昆布茶は、超便利なのである。

息子のための料理教室・日記「炊飯器で作る鯛めしを息子に教えるの巻」

息子のための料理教室・日記「炊飯器で作る鯛めしを息子に教えるの巻」



鯛めしの方は、内臓をとり、鱗をとったら塩を軽くふって、一度フライパンで焼き目をつける。
強火で表面がちょっと、ほんのちょっと焦げるくらいがベスト。
中まで焼く必要はない。
大事なのは皮を焦がすことだ。こうすることで、香ばしさも出るのだけれど、何より、魚の臭みが消えるのであーる。
3合のご飯とその分量の水が入ったところに、醤油と酒をおのおの大匙1,塩昆布を二つまみくらい入れ、さらに小さじ半の昆布茶を投入、最後に焼いた鯛を、そこにどかんといれる。
「でかすぎて、入り切れないね」と息子。
「尻尾ととって、頭を押し込めば入る。恰好なんでどうでもいいんだ」
で、普通炊きモードで炊けばいいのだ。
息子よ、これが、めっちゃ美味いのだよ。何せ、鯛の頭からめっちゃ美味いダシが滲み出るのだから、あはは。
炊きあがるまで、息子は三四郎と遊んでいた。家はかわったけれど、いつもの団欒がそこにはあった。三四郎がとっても喜んでいる。父ちゃんも嬉しい。
覗きに行くと、三四郎は十斗の横にはりついて寝ていた。あはは。可愛い。

息子のための料理教室・日記「炊飯器で作る鯛めしを息子に教えるの巻」



息子のための料理教室・日記「炊飯器で作る鯛めしを息子に教えるの巻」

息子のための料理教室・日記「炊飯器で作る鯛めしを息子に教えるの巻」



鯛飯が炊き上がるまでの時間を利用して、もう一尾の鯛を刺身カットし、サラダを作った。
クリスマスなので、ルッコラで飾り、「リース風サラダ」にした。ニースではない、リース。クリスマスのリースであーる。あはは。
お茶碗に鯛めしを盛り、漬けた鱒の卵を散らした。三つ葉がないのでコリアンダーで。フォアグラとか、サーモンのカナッペなどを用意して、クリスマスムードをちょこっと添えた、父ちゃんであった。
今年は、実に地味なクリスマス・イブの夕食会になった。でも、そこが辻家らしくていい。
普通なのが、いいね・・・。
食後はテレビがないので、音楽をかけ、十斗は携帯で友だちといつものように話し込んで、三四郎はその横で丸くなっていた。
ベッドメイキングをしてやり、あとはどうぞ、ご自由に、となった。息子くん、幸せそうであった。おっと、三四郎も・・・。
残った鯛めしは、翌朝のおにぎり、それからタッパーに詰め、明日持たせることに・・・。バターで炒めると、これが、これが、絶品鯛めし炒飯になる!
こんな変な父ちゃんでも、親がいる、というのは子供にとっては、いいことなのかもしれませんね。何より、帰る実家があるのはいいことです。
ぼくはずっと、彼の傍にいてあげるつもりだから、安心していいのだよ。老後はスペインかイタリアの南の島で、ヘミングウエイ気取って、釣り竿担ぎ、パンツいっちょで生きているとは思うけれど、・・・。あはは、
息子の横にはりつく、三四郎がなにより可愛かった。

息子のための料理教室・日記「炊飯器で作る鯛めしを息子に教えるの巻」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございまする。
息子は、8時に、家を出て行きました。10時からアルバイトなのだそうです。バイトはやめたのだけど、クリスマスとか、人の足りない時だけ、頼まれているようで・・・。「いってらっしゃい。また、いつでもおいで」といって、送り出したのでした。あ、おにぎり作っておいたのに、あいつ、忘れてるやないか!!!!
さて、お知らせです。次回、父ちゃんの気まぐれ文章教室、2023年第一回は、1月29日に決定いたしました。課題は「日々のごはん」となります。文章好きな皆さん、ぜひ、ご参加ください。あと、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」はあるゆるミュージックプラットホームから、聞くことが出来ます。無料でがんがん訊けるところもあるし、DLも出来ますし、ご自由に楽しんでくださいまし。まさしく、パリで録音された最高のワールドワイド・フレンチなメンバーによる、ロック&ソウルミュージックをお楽しみくだされ!


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