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パリ最新情報「パリ、年の瀬の風物詩は消防士のカレンダー。」 Posted on 2022/12/25 Design Stories
年末年始の風物詩は日本とフランスで少し違うのだが、パリならではと言えるユニークな恒例イベントが、こちらには存在する。
それは、年の瀬になると行われる「消防士たちのカレンダー販売」だ。
歴としたパリ消防団(BSPP)の公式カレンダーであり、今やパリとその近郊に住む人々の家具の一部にもなっている。
実際の消防士たちの手により今年は12月9日から23日まで実施された。
このカレンダーは公式には販売されていない。
ではどういう販売方法なのかというと、消防士たちがパリの街頭に立ち、道行く人に声をかけたり、商店などに立ち寄って訪問販売(寄付)という形を取っている。
値段はお気持ち、というもので、買いたければ任意の金額でカレンダーを購入する。
もちろん義務ではないが、パリジャンたちはこうした光景を目にすることで「年末が来た」と実感するそうだ。
集まった寄付金はすべて、パリ消防団社会事業開発協会(ADOSSPP)の財源になるという。
主には就業時に負傷してしまった消防士本人、そして殉職した消防士遺族のための支援金として使われる。
ちなみにこのカレンダーには50年以上の歴史がある。
始まりは1971年。
当時の消防団長アーネスト・ラサール氏の発案により、パリ印刷所の承認を得て最初のカレンダーが印刷された。
その目的は今と変わらず、殉職した消防士の遺族のための資金集めであった。
初年度の発行部数は1万8千部だった。
「非常に前時代的な方法で行われた」とパリ消防団は語っており、テーブルを囲んで6〜7人の消防士が、火の番を続けながら手作業でカレンダーを制作していたそうだ。
そして発行部数は年を追うごとに増えていく。
1970年代後半には8万部を超えるほどになったといい、1980年に印刷会社を民間企業に変えると、カレンダーはさらにボリュームを増しよりプロフェッショナルな仕上がりになった。
当初は火災予防を呼びかける生真面目なカレンダーだったというが、それが段々と消防士自身にフューチャーするようになり、今や映画のパンフレットのような内容に。
そんなカレンダー効果もあってか(?)、パリの消防士は子供たちのなりたい職業ランキングにいつもランクインしており、女性からも絶大な人気を集めている。
※2023年のカレンダーデザイン
2023年カレンダーの発行部数は30万部だった。ただ実際に街頭に立つことのできた消防士は昨年の半分ほどだったといい、年末に向けて消防士の出動が増えたことで、時間が足りなくなってしまったとパリ消防団は説明する。
また近年では偽消防士によるカレンダー詐欺も発生しているため、疑問に感じた時は消防士にIDカードを見せるよう問いかけてください、とのことだ。
フランスでは消防士は救命士でもある。
そのため路上で見かける車両事故現場では消防士たちが駆けつけ対応しており、通報内容によって緊急性が高いと判断されると、消防車および医療救急車が同時に出動する。
現在、フランスには25万1900人の消防士がいるとされている。
女性消防士の数も年々増えていて、そのうち公務員としての職業消防士は17%、他の職業と兼業しながら必要時に出動するボランティアの消防士は全体の78%を占めている(それ以外は軍所属)。
パリ市においては世界で3番目に規模の大きな消防団となっており(一位は東京消防庁)、団員は約8600人を数える。
なお年末の風物詩であるカレンダーデザインも、彼らによるオリジナルのアイデアであるという。(内)