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パリ最新情報「フランスで増える『タンギー』、親と同居を望む若者たち」 Posted on 2022/12/21 Design Stories
若者の苦難を浮き彫りにする「親との同居」が、近年のフランスで増加傾向にある。
これはフランスだけでなく、長引く経済不況により世界的な傾向となっているのだが、フランスではパリ首都圏で著しく上昇していることが、この度のINSEE(フランス国立統計経済研究所)の調べで明らかになった。
親元を離れられない、あるいは離れたくない若者のことをフランスでは「Tanguy(タンギー)」と呼ぶ。
タンギーとは、2001年に大ヒットを記録したフランス映画の題名で主人公のファーストネームに由来したものだ。
パリのエリート校を卒業しながらも、30歳を超してなお実家で暮らす主人公タンギーを、両親が何とか自立させようと試みるコメディータッチの映画となっている。
フィクションではあるのだがフランスの切実な問題を映し出しているとして、以降は揶揄的な意味を含めてこの言葉が仏国内で定着するようになった。
社会問題としてフランス含む各国が取り上げるのは、同居の理由が若年層の経済不安に直結していることに他ならない。
長引く経済不況と不安定な雇用形態だ。さらに首都圏の高額な賃料も関係している。
イル・ド・フランス(パリ首都圏)でも、実家を離れるのはそう簡単なことではない。
2022年12月13日に発表されたINSEEの調査によると、18歳から29歳の社会人の10人に3人が一人暮らし(および他人との共同生活)をしたことがなく、今も親との同居を継続しているとのことだ。
また18歳から22歳ではさらに多く、10人中7人が同居しているという結果になった。
そしてこれは2016年に比べ2倍の数値となっている。
地域別でみると、失業率の高いセーヌ・サン・ドニ(パリ北郊外)では30歳未満の若者の半数以上が親と同居していることが分かった。
しかし失業率の低いパリ市内やオー・ド・セーヌ(パリ西郊外)ではその数字が低くなり、例えパリ市内でも親と子で住宅を分ける、と選択をするところが多い。
ただ、タンギーを短絡的に非難できない状況がフランスにはある。
長い間勉強してきたのに仕事がまったく見つからない、あるいはCDD(期限付き雇用)の契約しか結べないというフラストレーションが彼らにはある。
高学歴が必ずしも高収入の仕事に繋がらない、という厳しい社会学的事実を抱えているほか、例え収入を得るようになっても、大都市ではその70パーセントが家賃に消えてしまう。
このように、今日のフランスでは「年金生活者よりも若年層の方が貧困に直面している」という切実な問題を抱えているのだ。(18歳から29歳では17.3%の貧困率、60歳から74歳では7.8%がこの状況に該当する)
世代間の収入格差が著しく拡大しているフランスでは、親世代と子世代でギャップも生まれている。
フランスで「Les Trente Glorieuses(栄光の30年間)」と言われる、第二次世界大戦後1945年〜1975年の30年間。
この期間に成人した人々は、国の経済発展もあり親元を離れることこそが自立の証だった。
そのため「別居=自立」と考える親世代と、言わば「生活防衛」の手段として親同居を選んでいる子供世代との間で、価値観の摩擦が生まれているのだ。
元来、フランスでは親の方が子供との同居を煙たがる傾向もある。
「将来面倒を見てほしい」と考える親がほぼいないため、パリ市では75歳以上の約50パーセントが一人暮らしであるという結果も出ている。
今年のインフレ問題は、タンギー現象に拍車をかけると予想されている。
ただ若者の真意とは一部反しているという側面もあり、フランスではこの「タンギー」という言葉が繊細な意味を持つとして用心深く扱われるようになった。(内)