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パリ最新情報「セーヌ川が運ぶものとは?『やさしい運搬経路』として見直される河川輸送」 Posted on 2022/12/18 Design Stories
パリの中心部を流れるセーヌ川は、古くからたくさんの物資を運んできた。
今でも多くの船が行き交っているのだが、そのほとんどは観光船として旅行者に喜びのひと時を与えている。
こうした船には特徴があって、観光船・物流船ともに平底で背の低いものが必ず使用されている。
これは「はしけ」と呼ばれる船で、艇体の低い船として流れの弱い川にのみ用いられる。
緩やかな川がたくさんあるフランスでは、はしけが輸送手段に大きな影響を与えてきた。
低速度ではあるものの積載量が多く、建築材を運ぶ船として非常に重宝され、19世紀のパリ改造でも河川輸送が大きな役割を果たした。
しかし20世紀以降に鉄道、飛行機、車が台頭すると、セーヌ川の水上輸送は「遅い」というレッテルを貼られ下火になってしまう。
第二次世界大戦後には陸路がメインとなり、地方都市と首都パリを結ぶ主要交通網に変わってしまった。
ところが2022年になって、ようやくセーヌ川の水上輸送が見直されるようになった。
はしけは確かに遅い。
時速では15km/hと、自転車の速度とほぼ変わらなかったりもする。
ではメリットは何かというと、一番に渋滞が全くないこと、一隻(350トン)の船でトラック20台分の荷物を運べること、そして陸上輸送に比べ1トン当たりのCO2排出量が平均で5倍も少ない、ということだ。
パリ市は今、自動車の速度が時速30kmに制限されており、自転車専用レーンも増えてきた。
そのため一部の道路では渋滞がなかなか改善されず、結果的に河川輸送の方が陸路よりもメリットが大きい、となったのだ。
現在では、セーヌ川を流れる物資船は引き続き建築材(砂利や鉄骨材など)、建設工事で出た瓦礫、ルーアン港(フランスの主要穀物ターミナル)からの小麦などを運んでいる。
2012年からは仏大手スーパーマーケットのFranprixが、セーヌ川を通じて米、パスタ、缶詰といった乾物を首都圏の約300店舗に届けている。
そして2022年12月14日からは、スウェーデン企業のイケアが、オンライン注文の配送手段としてセーヌ川の利用を始めた。
イケアはパリ西郊外に倉庫を所有しており、そこからパリ市内のベルシー港(12区)まではしけを使って輸送するとのことだ。
港から個人の配達先までは電動車両で輸送を行い、パリ市内であれば所要時間は3時間半から4時間で済むという。
なお個人への商品配達に河川輸送を利用するのは、フランスのイケアが世界初となる。
セーヌ川の全長は776kmにもなる。
パリを流れるイメージが強いが、源をディジョンの北西部ラングル高原としており、いくつかの川と合流した後にノルマンディー地方ルーアン、そして最後にイギリス海峡へと辿り着く。
温暖化の懸念が強まるフランスでは今、このセーヌ川を初め、地中海に注ぐローヌ川でも水上輸送への期待が高まっている。
水路は渋滞を避けて大都市の中心部にアクセスできるという利点があるほか、陸路で発生するCO2の排出量を大きく削減できるためだ。
現在、セーヌ川では試験的にその他いろいろな物が運ばれている。
今年は5区、6区、12区、13区で集められた合計約100トンの枯葉が、水路を使って枯葉リサイクルのためにパリ西郊外の工場へと運ばれた。またシャンゼリゼ通りの新設ベンチや住宅リフォーム時に使われる断熱材なども運んでおり、河川輸送は人知れず影の立役者となっている。
気になる燃料だが、はしけはそもそも推進器(スクリュー)を持たないため、発電機以外に電力はほとんど使わない。
ただ今後は運航数の増加を見込んで、セーヌ川沿いに約80カ所の充電ステーションを整備する計画があるという。(大)