JINSEI STORIES
滞仏日記「ストーカーに狙われ、NHKの撮影が中止に追い込まれた」 Posted on 2022/12/08 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、時期が時期だけに、NHKBS「パリごはん。秋冬編」の料理撮影をしないとならない。
ところが、パリの新居のキッチンが崩壊中なので(詳しくは先の日記に譲ります)、今回は、田舎のキッチンメインでの撮影とあいなった。
実は、4Kが撮影できるソニーのカメラ、ZV1が壊れて使えないのと古い携帯も調子が悪いので、今回、番組用に奮発してiPhon14proの1テラを自腹で購入したのだった。えへへ。自腹ですよー、Lさん。
キッチンに二台並べ、照明をセッティングしたら、スタジオのようになった。
で、この時期のフランス料理をいろいろと考えて、今回は「タルティフレット」を作ることに決めた。どんな料理かというと、じゃがいもとベーコンのグラタンであーる。
え? それか!
いや、サヴォア地方の名物料理なのだ。実に美味しいオーブン料理なので、ご安心を!
隣町のマルシェで必要な材料(じゃがいも、玉ねぎ、ベーコン、ルブルションチーズ、など)を買った、までは、よかったのだが・・・。
ところが、ここで思わぬ邪魔者が登場したのであーる。
※ パリ市内のアップルストアーでゲット。
※ 見よ。この父ちゃんの涙ぐましい努力のたまもの。一人で撮影をして、料理をして、出演をしてきたのだった。打ち上げはいまだ、一度もない。
その名も、デストロイヤー・サンシー坊だ。
悪名高いこの子犬は、ぼくがキッチンに立つと、
「くーん、くーん、くーん」
と鼻を鳴らしながらやってきた。しかも、この甘え方が半端ない。
人間のこどもにたとえるならば、
「ねー、ねー、ねー、パパしゃーんー、あそんで、あそぼー、おねがーい」
になるだろう。それが、ノンストップで続いた。
この子を我が家でひきとって一年、いやはや、ここまで甘えん坊になるとは思ってもいなかった。甘えん坊を通り越して、今や、ストーカーのレベルである。
吠えはしないが、くーん、がもはや猫なで声なのだ。
犬のくせに、猫なで声とはなんたることか!
猫なで声も、猫ならば許せるが、犬が猫なで声というのは、許せない。わん、と言え!
最初は可愛いのだけど、媚びを含んだ鳴き声が続くと、犬のくせに、と怒りたくもなる。動物虐待になるから、もちろん、子犬だし、我慢するのだけど、今日はさすがにきつかった。きつすぎた。こんなに感情をぶちまける子犬も凄い!
玉ねぎとベーコンを炒め始めると、くーん、が強くなった。
「ええと、最初はベーコンを炒めまして、暫くして脂が出て香りが立ってきましたら、はい、ここで玉ねぎスライスを投入・・・」
「くーん、くーん、くううーん、くー-ん・・・・」
「ええと、すいません。三四郎が足元でうるさいのですが、気にせずいきましょうか、で、玉ねぎはだんだん香ばしくなってきまして、ほら、こんな感じで、キツネ色に・・・」
「くーん、くーん、くううーん、くうーーーーーーん・・・・」
「サンシー、あっちに行け。あ、いいえ、なんでもありません。三四郎が足元で、ちょっと、義和さん、この部分カットでお願いします。やり直しますね。・・・で、こんな風に玉ねぎが茶色く色づいてきましたら・・・」
「くーん、くーん、くううーん、くー-ん・・・・」
「あああああ、もう、ダメだ。我慢ならん。あっちで寝てなさい。すぐに終わるから!」
「・・・・」
円らなビー玉おめめで、父ちゃんを見上げる、三四郎であった。
「あ、玉ねぎ、焦げた」
と、こんな感じなのであーる。
料理をしている最中、ずっと猫なで声で迫って来るので、仕方がないから、チーズをパンに塗ってちょこっと与えてしまったのが、オーマイガッ、いけなかった。
猫なで声が倍になって、戻って来たじゃあ、あーりませんか!
「くーん、くーん、くううーん、くー-ん・・・・」
「さんちゃん、どうちたの? ちょっとだけ黙っておいてくれないかな。パパは今、超忙しいんだよ。君、さっきご飯食べたじゃない。お腹いっぱいでしょ?」
「くーん、くーん、くううーん、・・・・」
ということで、ぜんぜん、仕事にならない。
ちょっと声が入るくらいなら、生活感があっていいのだが、頭から最後までずっと甲高い鳴き声が入り続けると、番組的には使い難いに違いない・・・。
お風呂場とかに閉じ込めることも考えたのだけど、それは、あんまりだ。
とりあえず、ちょっと餌を与え、彼が納得したところで撮影を再開したのだが、・・・再開すると、
「くーん、くーん、くううーん、・・・・」
となる。やれやれ。
なんとか、タルティフレットは完成をしたのだが、ここから、さらに大変が待ち受けていた。
実はこの番組内に、毎回、ぼくがお客とシェフ(なぜか、ここでは大将と呼ばれている)を演じる「人生劇場」という一人芝居のコーナーがある。勝手に作った。
田舎のキッチンがカウンターで囲まれているので、そこを小さなビストロに見立てているのであーる。
常連客の「ぼく」が着席し、シェフの得意料理を試食するという筋立てなのだけど、芝居を始めると、三四郎が走って来て、ぼくの膝に飛び乗ろうとする。
ストウールは結構高いので、三四郎がジャンプして届く高さではないが、本気でジャンプしてくるので、怪我されても困るので、芝居に集中できなーい。
ストーカー感、半端ないのだ。
「大将、この犬はちょっとうるさいですね。大将が飼っている子犬なの? 君、名前はなんていうんだい? え? 三四郎? そうか、三四郎くんか。ぼくはね、今、食事をしようとしているんだよ。あっちへ行っててくれないかね。ぼくはここの客人だよ、大将、この犬・・・、おい、うるさい、サンシー、あっち行け、こら、うるさいんだよ!」
「くーん、くーん、くー-ん・・・・」
「三四郎、仕事にならないだろ!!!」
「くーん、くーん、くうううううううーん、・・・・」
ということで、今日の撮影は中止に・・・。ぼくは三四郎を抱きかかえ、ソファに寝転んだ。続きは明日かな・・・。
「わかったよ。じゃあ、もう今日はやめるよ」
ぼくが寝たふりをすると、三四郎もぼくの横に潜り込んで、寝たのだった。
この犬、いったい、どうなってるの?
今更ではあるが、この日記を読んでミニチュアダックスフンドを飼いたいと思われている、あなた。これは忠告ですが、よーく考えてくださいね。
この程度のことで腹を立てているようじゃ、子犬は育てられません。
この厳寒の北フランスで毎日、4回から5回は散歩に連れ出さないとなりません。生き物ですから、途中で放棄なんか許されませんよ。
どうか、よーく、考えてから、お願いします。
「くーん、くーん、くううーん・・・・」
はい、このように申しております。
あはは。
※ 撮影していると、飛び乗って来たので、仕方がないから抱きかかえたところのスクリーンショットなり。ここで、撮影は中断でした・・・あはは。明日、再開します。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございました。
三四郎はぼくが撮影している間だけ、大暴れをして、昼寝になったら、一緒にぐーぐー。この犬の心理、わかります? あ、足音が・・・。デストロイヤー・サンシー坊が今、ぼくの背後にいます。ううう、背後にいる。振り返れない。
「くーん、くーん、くううーん、くー-ん・・・・」
さて、父ちゃんからのお知らせですよ。12月22日、ぼくが暮らすパリの街(カルチエ)の周辺をお散歩します。行きつけのカフェを覗いたり、ケーキを買ったり、とくに何もしませんけど、冬の散歩道を歩く大イベント、ゴールは「パリごはん」でもおなじみ、マーシャルの八百屋! そこで冬野菜でも買おうと思っております。ライブ感満載なこのクリスマス・オンラインツアー、ご興味のある皆さん、ぜひ、こちらをクリックください!
気分をかえたい、皆さん!!!
父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン(11曲)」を聞いてください。
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