JINSEI STORIES
滞仏日記「犬友の輪が広がる。新世界でぼくはまたまた新しい仲間が増えていく」 Posted on 2022/11/29 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、朝、犬が集まる公園へ、三四郎と向かった。
10時前後に、どこからともなく、わんちゃんが集まって来る。みんな、リードが外され、自由に走り回っている。
セントバーナード、コリー、ブルドッグ、シベリアンハスキー、ボクサー、ジャックラッセル、そして、我らがテッケル(ミニチュアダックスフンド)と実に幅広い犬種のわんわんサークルなのだ。
今日は20頭くらいが集結した。その飼い主も同じくらい様々な人たち・・・。
しかも、さすがは国際都市だけあって、半分くらいは外国人である。
皆さん一応に仏語は話せるが、アメリカ人やドイツ人、イタリア人にイギリス人と、こちらも多種多様なのである。
さて、お犬様たち、その中でも三四郎は一番のおちびちゃんである。
さすがにセントバーナードと並ぶと巨象とネズミといった感じなのである。
パリに戻ってまだ三日目だけれど、すでにほとんどの飼い主さんらと顔見知りになった父ちゃんであったぁ。えへへ。早。
とくに三四郎が一番仲良くしているウエスティのリリーちゃんのお母さんがやはり一番親しいかなぁ。
リリーと三四郎は背格好が大体一緒だから、ずっと甘噛みをしあってじゃれあっている。
リリーは好奇心旺盛なメスのわんちゃんで、三四郎がずっと押されっぱなし・・・。
だいたい小型犬は小型犬同士仲良くなってつるむみたいだ。
大型犬は大型犬とじゃれあっている。セントバーナードはさすがに三四郎を相手にしないのである。あはは。
リリーのお母さんは明るい人で、ぼくを見かけると、近づいて来る。
隣の区から毎朝車でこの公園までやって来るのだという。
もちろん、名前も、素性もわからない。
三日目だから、まだどなたの名前もわからないのだけれど、すでに、みんなと顔見知り。ボンジュール、と言いあう仲なのだ。
父ちゃん、ここでも友だちが増えそうな予感・・・。第二のマーシャル、ピエール、アドリアン、ベロニクらと出会えるだろうか。
今回は、三四郎を経由し、親しくなっていきそうな予感なのであーる。
飼い主との情報交換はないけれど、飼い主が呼ぶ犬の名前で、憶えていく。
「プーシキン、そっち行っちゃだめだよ」
プーシキンはメスのコリーだ。背の高いマダムが飼い主さんである。
「トゥック、モッカ。戻ってこい!」
この二匹、オスとメスのボクサーなのだ。飼い主はスペイン人で、パリまでキャンピングカーでやって来た。
この界隈に暫く滞在中なのだという。ドッグフード会社に勤めているらしいが、何が目的でパリに出没しているのか、ここで何をしているのか、分からない。
「プロザック、おいで」
プロザックとはフランスの精神安定薬の名前。
誰かが、なんでそんな名前を付けたのか、とおじさんに聞いていた。おじさんは、バイアグラ、とつけないだけまだましでしょ、と冗談とも言えないような皮肉をほざいていた。
おっと、ちなみに、プロザックはブルドッグである。
このプロザック君、額のところに痛々しくも噛まれ痕が残っている。数日前に、大型犬に囲まれて、ぼこぼこにされたのだとか。リリーのお母さんが教えてくれた。
「でも、不思議なのは、その時、他のブルドッグがプロザックの味方になって応戦したの。やはり、同じ犬種ってわかるみたいね」
へー、なるほど、そんなものなんだね。
毎日が勉強の連続である。
ところで大人には嫌われる父ちゃんだけれど、犬猫や子供には愛される。
ここでもやはり、なぜか、ぼくに懐く犬が多い。まだ三日目なのに、今日はめっちゃ大きなボクサーのモッカちゃんに抱き着かれた。
目が合った瞬間、モッカは動かなくなった。
そして、じっとぼくを見て、好きよー、という感じで突進してきたのであーる。
好きヨー、ムッシュ~
次の瞬間、飛びつかれた。
遠くからまっすぐ走って来て、人間がするように両足でぼくの肩に手を押し当て、抱き着こうとしたのである。
三四郎に飛びつかれるならまだなんとかなるが、人間の女性くらいある大きなボクサーの雌犬に飛びかかられて、ハグをされたのである。うわ、わわわ・・・。
それも、何度も何度も何度も・・・。
スペイン人の飼い主が飛んできて、
「すいません。大丈夫ですか?」
と言った時は、ぼくのコートは泥だらけ。
なぜなら、ここ最近、雨続きで地面がべちゃべちゃ濡れているのである。
「いや、ぜんぜん。この服は犬服ですから」
犬用・・・。
心配させないように、言い訳をしておいたが、実は結構お気に入りのブランドものであった。
心の中では汚れが落ちるか、ちょっと心配な父ちゃんなのであった。
でも、モッカに好かれて嬉しい。
モッカは噛みつくわけじゃない。ぼくに抱きしめられたいのである。
仕方ないから、ぼくはモッカをぎゅっと抱きしめてあげた。そしたら、ペロッと頬っぺたを舐められてしまったのである。
「珍しい。この子がこんなに懐くなんて」
とスペイン人が言っていたが、あのね、ぼくは泥だらけなんだよ。
あはは。
※モッカはセントバーナードの後ろにいる手前のわんちゃん。そして、下の三四郎と青んでいるのが飼い主のスペイン人のムッシュ。スペイン語で「おいで」は「ヴエンガー」仏語だと、「ビエン」似てますね。
家に帰ってコートの汚れを落とし、ソファでごろんと横になっていると、今度は三四郎がやってきて、ぼくの唇をペロッと舐めた。
「うわ、何すんだよ、お前」
もう一度ペロッとやられた。
モッカちゃんの真似、もしかすると、焼きもち焼いてるの???
犬という生き物は実に可愛らしい。
ぼくは今日も三四郎を抱きしめてまどろんでいるのであーる。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
犬を通して、少しずつ、界隈の仲間が増えてきました。コロナが落ち着き、新しい世界でぼくはまた新しい出会いを増やしています。ちなみに、ぼくは「サンシローのパパ」という愛称でこの犬の園では親しまれているのです。リリーのママや、プーシキンのママ、プロザックのパパとも仲良くなりました。犬友? とでも言うのでしょうか?
増えていきそうですね。新しい犬の輪が・・・。
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